後記 – 『NEW』誌と時代を振り返る座談会01

2018年1月21日に「『NEW』誌と時代を振り返る – 座談会01」を行ないました。

これは,かつて1985年から2007年まで23年間刊行され続けていた教育向けパソコン活用情報誌である『NEW 教育とマイコン』(1995年4月より『NEW 教育とコンピュータ』と改称,以下『NEW』)と当時を振り返ることから,現在と未来を考える手がかりを得てみようとする試みです。

連続企画として考えていて,全体の初回となる今回は,創刊当時の編集長と副編集長,そして主要執筆者である方々にお集まりいただき,座談会形式としました。少人数での語らいから雑誌と刊行されていた時代を思い出していこうという意図でした。また,座談会の様子はネット配信するとともに,録画をして皆さんもアクセスできるようにしています(座談会01のWebページ)。

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大雑把な感想を先に書いてしまうと,やはり当時と現在で時代背景が大きく違うということを感じました。様々なことが,当時の経済状況や文化意識・時代認識に依存していて,たとえば,同様なことを具現化することは今日だと不可能に近かったりします。

そうした時代に依存した出来事を振り返ることにどれだけの意味があるのか,一般の皆さんには意義のようなものを見出せない取り組みかも知れません。私自身,気持ちが揺らいでしまう部分がないわけではありません。しかし,現在や未来を把握することは,過去に何があったかを知ることから始める必要があります。いまは,そのための記憶や記録の断片を集め留めておく作業が圧倒的に足りないのです。

必ずしも統制された方法で資料を収集管理できているわけではないのですが,とにかく残せるものを収拾確保して残していこうとしています。ご関心ある方は「教育と情報の歴史研究」ページにご注目いただければと思います。

『NEW』誌の創刊は,初代編集長である貞本勉さんとご同僚方の尽力によってなされました。ある意味では,「貞本勉」という人物の軌跡を追うことが『NEW』誌の始まりを追うことになります。

今回の座談会によって,

  • 貞本氏は学習研究社入社前は中学・高等学校で教員をしていた経験がある。
  • 学習研究社への入社は,新たな教育システムの開発に従事するためだった。
  • 当時は,スキナーの「プログラム学習」理論が注目され,そうしたシステムの開発だった。
  • その後,「アナライザー」の開発にも取り組んだ。
  • 教育システムに対する評価が芳しくなくなったこともあり,教育書編集の担当へと変わる。
  • やがてパソコン教育利用の情報誌の刊行の企画が持ち上がる。
  • 既刊雑誌『学習コンピュータ』上の教育情報コーナーとして雑誌創刊の準備が始まる。
  • 『学習コンピュータ』誌が,『合格情報処理』誌と『NEW 教育とマイコン』誌に分化する。
  • 「NEW」という名前は「新しい教育の波」(New Education Waves)に由来する。
  • 創刊時「教育とマイコン」を雑誌名に選択する際,実は「パソコン」など他候補もあった。
  • 創刊前に,パソコン教育利用研究会全国一覧を作成し,各地の研究会の協力を仰いだ。

など,当時の貞本さんの奔走ぶりが見えてきました。

こうした貞本さんのパソコン教育利用情報誌づくりを技術的な側面で支えて来られたのは清水永正さんです。当時は,百科事典編集や情報技術者試験向けの雑誌の編集に携わっており,『マイコンライフ』というパソコン技術情報誌の編集をされていた頃に新しい雑誌をつくる仲間として貞本さんと合流されました。

その後,副編集長として『NEW』誌の刊行を支え,貞本さんが編集長から編集人へと代わられるのを機に『NEW』誌編集長に。その後,編集人へと立場を変えながらも,『NEW』誌の前半期に長く関わられてきました。姉妹雑誌『FD教材データ』や『教材CD-ROM』など,様々な展開にも清水さんは尽力されてきたのです。

また,雑誌の企画指導協力者の1人として岡田俊一先生,そして当時小学校の先生の立場として雑誌に記事を寄せていた原克彦先生も座談会に加わっていただき,当時の様子を教えていただきました。それについても機会をあらためてご紹介したいと思います。

貞本さんが語ったエピソードの一つ,当時開発された新しい教育システムの「アナライザ」にまつわる話がありました。

これは児童生徒に選択ボタンを持たせることで,5肢までの選択質問の回答を集計できるシステムです。これを児童生徒の理解度把握に利用することで,回答に応じた支援に繋げることができるというものです。特に,「その他」という選択肢を選んだ児童生徒に向けてどう対応していくかがとても重要であると貞本さんは語っています。

うまく活用することでよりよい学習支援に繋がり,アナライザーの利用がより進むと考えられがちですが,実際には,うまくいかなかったそうです。

なぜならば,子供たちの現状が把握できるということは,翻って,先生達にとって自分の授業の善し悪しが見えてくることでもあり,出てきた集計結果が自分の授業の未熟さを指し示しても,うまく対応できないまま次から次へと時間が流れていってしまうことで,直に先生達が嫌になって使わなくなってしまうことが起きたといいます。

学習状況の把握や学習履歴の蓄積を学習や支援に建設的に生かすというモチーフは,ビッグデータやAI,アダプティブ・ラーニングなどといった言葉が登場してはいますが,今日の教育とICT界隈でも生き続けています。

最新技術のおかげで,データ解析結果に応じた適切な対応や支援を有効的に提供できるようになっている部分もありますが,とはいえ,先生達にとってはデータ解析結果をどのように活用すればいいのか,そうしたデータに接する際のメンタルな部分について,どう対応しどう処理するのかという十分な蓄積があるわけではありません。直に先生達が嫌になってしまうという,かつてと同じことが起こらないという保証はないのです。

今回の座談会でお聞きした話から,こうした,現在や未来の取り組みで考えなければならないことのヒント等を見つけ出せるとよいなと思います。ただ,そのためにもまだまだ掘り起こしが必要な段階だと思います。

次回の企画は未定ですが,引き続き,座談会企画やバックナンバー記事をたどる企画など考えて実現していきます。