企業の歴史と技術との距離

2018年3月7日はパナソニック社の創業100周年の日でした。

その日の新聞には都道府県毎に特別に用意された広告が掲載されたのをご覧になったかも知れません。

日本の家電ブランドとして世界に知られる「パナソニック」ですが,10年前まで国内向けには「ナショナル」というブランドが存在していて,昭和の時代に生まれた世代にとっては,ナショナルブランドの方に親しみを持つ人も少なくないはずです。もっと上の世代にはお馴染みだった「ナショナル坊や」の記念復活も,そうしたファンの存在を物語っています。

日本の家電メーカーはパナソニックだけではないし,百年企業の先輩は日本電気や東芝などたくさんあるわけで,今回の話題がことさら特別というわけではないのですが,とある調査によると今年100周年を迎える企業は全国で1760社もあるということで,それぞれの企業が積み重ねてきた歴史というものについて,考えてみるのも大事ではないかと思った次第です(関連記事)。

常々思っているのは,企業の皆さんに,社史や事業分野の歴史についてまとめた情報を公開維持して欲しいということ。たとえばデジタル教材として,Webサイトの形で公開してもらえれば広報的な役目もするだろうし,あるいは編纂した社史のPDFをダウンロード公開してくれてもいい。パナソニックのように100周年記念用に構築したサイトも,なるべく残し続けて欲しいのです。

同業他社同士が公開している歴史サイトがあれば,学校の調べ活動の時に,それらを比較しながらその分野のことを勉強することができるでしょうし,Wikipediaとのよい意味での緊張関係をつくることで,歴史への深い検討や理解が可能になるかも知れません。

余裕があるなら,教育分野への貢献として,初めから教材や教育向けサイトとして作成してくれることも有り難いことですが,特別な手間をかけずに自社の歴史と事業を社会に発信してもらえれば,それが学校教育にとっても有り難い教材となり得るのです。

日本の企業は,自社の歴史をWebサイト等で公開するのが当然。

そんな認識が広まると,よいなと思います。

もう一つ,日本の家電メーカーという点に絡めて思うことは「ものづくり」。

いまさら「ものづくり」なんてことを持ち出したら,「情報時代」と叫んでいるくせに「工業時代」に逆戻りがお望みか?と言われてしまいそうです。

ただ,日本は「ものづくり」の国だと言われてきたわりに,日本の学校教育におけるものづくり,たとえば技術教育は,片隅に追いやられ追い込まれ,平成29年・平成30年の学習指導要領においても扱いは大きくありません。

パナソニック社が100周年を目前とした2017年中から,次の100年に向けた姿勢をアピールしてきたキャンペーンサイトを眺めていると,家電が電気で駆動するものから情報で駆動するものへと進化しているのだなということを感じます。

それと同じように,学校における技術教育も,手工・製造の技術や電気・電子の技術に留まらず,情報・通信の技術まで手がけるように進化していくべきだったはずです。ハードウェアとソフトウェアの両輪に関する教育も,そうした順当な進化のもとで具体化されたはずです。

ところが,1962年に中学校の技術科が実施されてから数えれば55年間。途中から家庭科と組まされて単独教科ではなくなり,しかも家庭科が小中高の連続性を持っている一方で,技術科は中学校のみ(小学校にも高等学校にも技術科がない)。この異常な組み立てを放ったらかしたまま,今年,プログラミング教育がフォーカスされている。

このことに違和感を抱かない教育関係者はいないはずですが,問題が大き過ぎて,みんな諦めてしまうのです。あるいは,カリキュラム・マネジメントを積極的に推すことで,瓢箪から駒を期待しているのかも知れません。

こんなにも技術の恩恵を受けて発展してきた国はないはずなのに,技術を教育するということを真剣に扱ってこなかったツケが,今後もいろんな形で現れてくると思います。