「さんすう刑事ゼロ」

 新学期が始まったということは,NHK学校放送も新しい番組がいくつかスタートしたということになります。
 ご縁あってNHK教育放送企画検討会議に出席したことがあったので,早くから春の新番組を楽しみにしていました。
 特定番組製作に関わってはいませんが,これもご縁あってある新番組の関係者の方々と事前の意見交換をしたことがありました。そんなわけで,今回のイチ押しは「さんすう刑事ゼロ」という番組です。
 昨夏にパイロット番組が製作され,学校でも好評だったことから新番組と相成ったようです。ちなみに今日の学校放送番組(教育番組)はほとんどがインターネットで番組が公開されていますから,見逃してもネットで動画が見られます。
 「さんすう刑事ゼロ」の主人公を演ずるのはモロ師岡さん。これだけでも一部の人々にはピピッと来てしまいますが,刑事サスペンスもののエッセンスを10分番組にぎゅーっと詰め込んだ贅沢なドラマづくりも視聴者をくすぐります。
 実際に第1話と第2話が放送されましたが,反応は上々。
 ネットの反応だけを見ていると,出演者の方たちのファンが集まってきて視聴しているようで,学校放送番組というよりは普通のミニドラマを楽しんでいるようなところがあります。

 番組のつくりを凝ったのはいいが,肝心の教育番組としての評価はどうか。
 ドラマの世界観や脚本の面白さばかりに気を取られて,さんすう自体から注意がそれないか…という懸念は意見交換の時にも出てきた話題でした。それに刑事物というのは犯罪と隣り合わせですから,物語のベースが盗みに端を発していたりすることを問題視する立場もあるかも知れません。これは製作者側もそれなりに気を使っている部分のようです。
 意見交換の場では私たちが交わした論点は,作り込みと毎回のねらいとのバランスをどちらも大事にすることでした。
 昨年度の新番組「歴史にドキリ」は弾けた作りが個人的に好きな番組でしたが,授業で使うのは難しいところもありました。先生達にとっては,もう少し大人しい歴史番組の方が授業で見せやすいからです。一方で,子ども達にドキリ・ソングが好評だった面もあり,その辺がもう少しうまく噛み合えば…という課題が残りました。
 「さんすう刑事ゼロ」もドラマとしての贅沢な作り込みが持ち味ですが,事件やトリックの奇抜さを前面に出し過ぎても算数の活用というねらいがぼやけてしまう懸念が心配されたわけです。
 そこで,一つの解決策が「ドラマ展開のバターン化」だと思います。
 この辺は第1話と第2話を見て,勝手に想像しているのですが,事件発生と推理と解決の展開順をパターン化し,できるだけ算数の謎が前面に出るように配慮した脚本を用意することを目指していると思います。
 こうすると,動画を一時停止するタイミングも分かりやすくなるので,授業でも使いやすくなります。教室で考える場面も設定しやすいわけです。
 そうした制約の中,出演者とゲスト出演者の魅力,脚本の面白さ,ドラマ舞台の贅沢で丁寧な作り,キャッチーなBGMの演出が番組の魅力を高めているのです。

 実際,私も繰り返し動画再生して見てしまうくらい面白いです。
 ここから更なる算数の活用世界に導けるかどうかは先生や周りの大人次第ですが,このドラマの世界観を拝借しながら,発展的な内容を自分たちで事件化し,推理・解決するような活動が広がると面白いなと思います。
 それにしても,ゲスト出演者のトップバッターが池田鉄洋さんで,第2回は小沢真珠さんとは,これはもはや学校放送番組の人選じゃありません。^_^ 記録に残るだけの番組ではなく,記憶に残る番組になるといいですね。