20180511 滋賀県都市教育委員会連絡協議会

ご無沙汰してます。りん研究室です。

平成30年度が始まって、すでに5月中旬ですが、あれこれやっているうちにブログの更新が滞ってました。研究室は、新しく加わってくれたゼミ生たちとの活動や4年生たちの卒業研究の取り組みも始まって賑やかです。

2018年5月11日に滋賀県近江八幡市で「滋賀県都市教育委員会連絡協議会」が行なわれ、ゲスト講演者としてお呼びいただきました。文部科学省の事業でご縁を頂いてから近江八幡市にお邪魔していますが、今回は他市の教育長や教育委員の皆さんもいらっしゃる前で「ICTの可能性 〜過去と未来をつなぐもの〜」というお話をさせていただきました。

翻訳に関わった『情報時代の学校をデザインする』(原題 Reinvented Schools)にご関心を持っていただいていたこともあって、その本のご紹介をしつつ、ICTまわりについてお話しすることになりました。本は、特に教育委員会レベルの皆さんに読んでいただいたり、考えていただき、自分たちなりの情報時代の学校教育を描いていただくのがとても重要だと思うので、これは願っても無い機会と思いました。

それだけだと商売っ気が強すぎるので(ええ、それが私の大人げないところですが)、歴史を振り返ると称して過去の関連文献を書影とともに辿りました。否定派・肯定派の様々な文献があったわけですが、否定するにしたって、肯定するにしたって、こういう蓄積をちゃんと参照しようねというお話です。ご紹介したもの以外にもまだたくさん文献はあります。

『情報時代の学校をデザインする』も、アルビン・トフラー『第三の波』を参照する形で工業時代と情報時代の議論を展開しています。ある意味ベタなパラダイム議論ですが、Sカーブの説明はシンプルなだけに理解を得やすいようです。

物事の始まりからしばらく(A点からB点)は生産性や成果など緩やかですが、やがて劇的な改善期間(B点からC点)を迎えて、いずれ上限に達する(c点からD点)のがSカーブ。

しかし、Sカーブの上限に達したものの、さらに上の域を目指さざるを得ないニーズが発生した場合、どうしたらよいのでしょうか。その場合、別のSカーブに移行するという選択があります。本では、米国の鉄道輸送と飛行機輸送の2つのSカーブの喩えで説明しています。

増加する輸送ニーズに応えるため、飛行機が持っているポテンシャルに期待して導入を始めるわけですが、鉄道が長い時間をかけて達した上限と比べると、飛行機の初期段階の生産性はまだ低い水準で推移するため、飛行機に対する懐疑的な意見も根強いことになります。それでも飛行機が本領を発揮するまで地道な整備と投資を続ける(E点からF点)ことで、やがて鉄道を超えるポイント(F点)を迎え、飛行機は安全性の高い輸送手段としての地位を確立するに至るというのがSカーブ的な説明となります。

どのように具体を解釈するか、様々な態度があり得ますが、教育とICTについても同様なことが言えるのではないかというのが私たちの議論になります。つまり、ICTを活用した教育・学習も地道もしくは周到な準備期間無しに、劇的な改善を迎えることはできないという至極まっとうな捉え方をしようということです。

それは、A点からB点(別の図でF点を迎えるまでの踏ん張り期間)を覚悟して積み上げなければならないということですが、残念ながら日本の教育の情報化の歴史を振り返ると、この踏ん張り期間の積み上げるべき時に積み上げができていなかったことが、現在、大きなツケとなって私たちに降りかかっているのです。

こうなると、もはや「地道に」では足りなくて、「周到な」策を用意しなければ、期待するような成果を得ることは難しいということになります。

そもそもこの本はICT活用を中心には書いてなくて、情報時代の学校を再発明しようというテーマであり、学習を取り巻く私たちのパラダイム(見方・考え方の枠組み)を転換しなければならないことを書いてます。

とはいえ、いきなりマインドを替えるというのは毎度唐突な話なので、最近邦訳が登場した『ライフロング・キンダーカーテン』に絡めて、幼児教育の世界で言われている「環境を通した教育」を考えてみることも意味があるのではないかとお話ししました。

つまり、私たち自身を学びに仕向けていく環境や状況に置くことが大事なのだと。その環境や状況を作り出していく努力を小中高大はもちろん、生涯学習全体で真剣に取り組んでいかなければならないということです。その原点が保育や幼児教育にあることを、教育委員会に関わる人々が再発見することが重要なのかなと思います。

そうなると、もはや一つひとつの市区町村が個別に取り組んで済むような次元ではなく、こうした連絡協議会のつながりを今まで以上に活用して、県域や県レベルでの連携を具体化していくことが求められるのだとお話しした次第です。

相変わらず話に熱が入って時間ちょいオーバーでしたが、懇親会の場ではいろんな教育長や教育委員の方にお声がけいただき、個々の疑問についてご一緒に考えてみるなど時間を過ごせました。

それから、今回匿名質問箱サービス「Peing」も冒頭にご紹介してQRコードで体験してもらったりしたのも評判良かったです。やはりいろいろ体験していただくことが大事だなと思います。とにかくよい機会をいただきました。