その後の財務省

 学校教育に予算が必要だと主張するとなると、その相手は財務省になるわけで、これがまた昔から文教にとって手ごわい相手であるのはご承知の通り。
 それはいまも変わらないようで、先日(2013年5月27日)に財政制度等審議会が出した「財政健全化に向けた基本的考え方」には文教についてこうまとめられていた。
=====
5.文教
(1)文教予算について
 平成25年度から始まる第二期教育振興計画の策定に向けて、公財政教育支出について、将来的に恒久的な財源を確保してOECD諸国並みに引き上げることを目指すべきとの議論がある。これは国民に約8.5兆円の負担を求めること(公財政支出は16.8兆円から25.2兆円となる)(*17)を意味するものである。
 過去20年間少子化が進むほど教員数をはじめ公財政支出は低下しておらず、在学者一人当たりの支出額は増加傾向にある中で、教育・教員の質は上がったのか、どのような成果があったのか具体的な検証を行い、国民に示すべきである(*18)。
 教育予算については、このように徒に予算増に走るのではなく、国民の最大の関心事である教育の質向上に向けた施策の明確な成果目標とロードマップを定め、改善サイクルが働くようにすることが重要であり、成果につながる質・手法の改善とあわせて資源を投入する仕組みを構築していく必要がある。
 財政面から見ても、我が国の教育に係る公財政支出(対GDP比)が低いのはこどもの数(在学者の人口に占める割合)が少ないからであり、こども一人当たりでみればOECD諸国と比べて遜色はない。また、そもそも少子化が進行すれば教育に係る公財政支出の総額は減少する構造にあることが考慮されていない[資料II-5-1、2、3参照]。
 現在の我が国の教育に対する財政支出については、他の歳出と同様、国の一般会計ベースで見れば約5割が赤字国債で賄われており、今後、継続的な財政健全化の取組が必要となることを踏まえれば、将来的にも増税による税収増を教育予算の量的拡大に振り向けられる状況にない。
(2)高校無償化について
 平成22年度から実施されている高校無償化制度は、全額国庫負担により、公立高校の授業料は不徴収、私立学校の生徒に対する就学支援金の交付が行われている[資料II-5-4参照]。
 そもそも学校の設置者はその経費負担を含めて学校を管理するのが原則とされている。また、私立学校は大学等を除き都道府県が所管している。こうした原則等を踏まえ、幼稚園から高等学校までの運営費は主として地方が負担し、就学者に対する経済支援も義務教育の授業料不徴収等を除き、地方が支援内容を決める仕組みとなっていた。全額国庫負担の高校無償化制度は高等学校の運営に国はほぼ関与しない中での措置であり、全ての生徒を対象としているとは言え、国・地方の役割分担の観点から再検討の余地がある。
 今後所得制限の導入を含め、見直しの検討が行われることとなっている。しかし、もともと地方がそれぞれの所得の状況等も踏まえ授業料減免措置を講じていた中に国が無償化制度を導入した経緯に鑑みると、所得制限を導入するということであれば、個々の実情に応じたきめ細かい支援を可能とする観点から、国の関与を極力減らし、地方の役割を高める方向で検討するのが大原則である[資料II-5-5参照]。
 すなわち、所得制限の導入は、高所得世帯の授業料を軽減する必要性は相対的に低く効率的な制度とする観点から適切であるが、その際、都道府県毎に所得水準は大きく異なることも踏まえ、都道府県の判断で所得制限の水準等を決める制度とすることを検討すべきである。これに関し、高校無償化は政策目的・効果が明らかでなく、本来廃止すべきであるとの意見もあった[資料II-5-6参照]。
 私立高校等の授業料に対しては、高校無償化(就学支援金)及びその加算措置に加え、地方事業である私学助成の一般補助及び授業料減免支援という4本立ての支援となっている。私学助成における支援手法は全ての生徒を対象とした一般補助を重視するか所得に応じた授業料減免支援を重視するか都道府県に裁量がある現状も踏まえ、高校無償化の加算措置は地方事業である私学助成の授業料減免支援に一本化することを検討すべきである。
 国が基準を定める現行制度を前提に所得制限を導入すると県や学校現場の事務負担や事務コストが膨大になることが懸念される。無駄を排し、効率的な制度とする上でも、地方事業とすることを検討する必要がある[資料II-5-7参照]。
 給付型奨学金を導入し、低所得世帯の高校生に対する支援を強化すべきとの議論があるが、高等学校の進学率は98%となり、経済的理由による中退者は全国の高校生の0.03%(335万人中945人)に留まっている。また、地方が一般財源で無利子奨学金を実施しており、29県で高校卒業後一定の所得を得るまで返済を猶予する所得連動返済型の導入を行うなど、支援の充実が図られている。こうしたデータを前提とすると、地方による現行の無利子奨学金とは別に国として新たな奨学金支援を行う必要性は見出し難い[資料II-5-8、9参照]。
 高校中退事由の多くは学業不適応等によるものであることを踏まえると、所得制限により節減される財源を就学支援に振り向けるのではなく、その一部を活用し、低所得世帯のこどもの小中学校段階からの学力向上をはじめ、国として教育の質向上に真に資する施策への支援を検討すべきである。

*17 2009年の教育機関への公財政支出及びGDPを前提とした数字。
*18 例えば、OECDは、「PISAの結果を見れば、成績が良い国は学級規模よりも教育の質を優先している。日本では教育への追加投資の多くが学級規模の縮小に充てられていることが問題の本質である」「これまで、日本は教員の質への投資よりも学級規模の縮小を優先する傾向があった。この優先順位は修正される必要があり、この報告書はそのための実例を多く提供している」と指摘している(OECD2012 “Lessons from PISA for Japan”)。
=====
 前段の「将来的にも増税による税収増を教育予算の量的拡大に振り向けられる状況にない」と高らかに宣言するあたり清々しさも漂うが、他国と同水準でよいのかという判断については国民のコンセンサス形成をしなければならないと思う。
 後段も財政的な眺めからはそのように見えるのだなと妙に感心する。
 ただ、「教育の質向上に向けた施策」ならば議論する余地があるといった調子の内容なので、ビタ一文出すつもりはないということではないところが用意された逃げ道か。
 とはいえ、この教育の質向上ほど確信的なものを出しづらいテーマはないわけで、財務省は相変わらず手ごわい相手なのだと分かる文書であった。