コンピュータを使った学力テスト

それをなぜ「学びの保障オンライン学習システム」と呼んだのかは分かりません。

文部科学省がコンピュータを使用して実施するテスト(CBT)を実現するため開発したシステムは「MEXCBT」(メクビット)と名付けられました。

CBTとは「コンピュータ・ベースド・テスティング」(Computer Based Testing)の頭文字をとった言葉で,文字通り,コンピュータ上で受験することを意味しています。コンピュータ使用型調査とも書かれます(紙を使った筆記型調査は「ペーパー・ベースド・テスティング」Paper Based Testingとなるわけです。あまりそう呼ぶことはないですが…)。

つまり,CBTシステムは,テスト実施システムのこと。

ところが,令和2年度補正予算説明で,文部科学省製CBTシステムを「オンライン学習システム」と呼称して,堂々と「CBTシステム」とも併記しています。

この無茶苦茶な呼称混乱は,小さく「・学習(問題解答)実施」と書き添えていることから,命名者達の意図したことをちょっとばかり想像することはできます。(この文言はその後の図では削除されています)

つまり,ドリル問題を解く活動を「学習」だと思えば,「学習システム」と言えなくもないでしょ,という事のよう。

タイミングはコロナ禍によって,全国一斉休校を体験した後です。学校教育が停止し,「学びを止めない」として様々なオンライン教材が提供されたことが社会的にも知られていましたから,それと似たようなものを導入するのだと説明した方が通りがよかったのだろう事も推察されます。

実際,当時の文部科学省の様々な取り組みが「学びの保障」というキーワードで統一的に情報発信していましたから,CBTシステムもその一環に組み入れたのは方略として当然だったのだろうと思います。


こうして,CBTシステムのプロトタイプ版開発事業が始まったわけですが,ロードマップとしてはこうなっています。

そして,MEXCBTのプロトタイプ版は,こんなイメージのシステムです。

利用者には一人ひとりIDとパスワードが割り振られ,MEXCBTシステムのもつ認証システム部分でログインして,CBTシステム部分でテストを行ないます。

場合によっては,この他にも利用している学習コンテンツとかサービスとかがあるでしょうけれど,そちらはそちらで登録して利用しているので,別の範疇ということになります。

上図は,簡略化したイメージです。

正確性を期すため,構想段階の図をNIIシンポジウム資料から拝借したのがこちらになります。(動画資料

プロトタイプ開発を請け負ったのは「内田洋行」(表立っては「オンライン学習システム推進コンソーシアム」)で,国際学力調査で利用されている既存のCBTシステム「TAO」を基盤として,そのCBTシステム部分に,内田洋行が開発した実証用学習eポータルシステム「L-Gate」を認証システム部分として組み合わせたのが「MEXCBTプロトタイプ版」というわけです。

このことが,令和3年後期から始まる「MEXCBT拡張機能版」の活用事業において,他社製の学習eポータルも交え始めたときにややこしさを抱かせることになりますが,その話は後述します。

下が、活用事業を始めるための機能改善や拡充の説明スライドです。

ここでMEXCBTにどんな変化が起ったかというと,認証システム部分とCBTシステム部分を明確に分け始めたことでした。

プロトタイプ版のシステムではくっ付いていた,利用者のログイン作業を担う「認証システム」部分と,問題の出題や解答・採点を担う「CBTシステム」部分を,拡張機能版では分かりやすく引き離したのです。

その上で,「CBTシステム」部分のみを新ロゴのもと「MEXCBT」と呼び,「認証システム」部分は「学習eポータル」と呼んで,いろんな会社が開発して提供してもよい形に移行したわけです。

(システムに出入りする認証システム部分が分離されたといっても,MEXCBT側に直接接続することはできず、必ず認証システム部分である学習eポータル側を経由しなければならないのが上図の肝です。)

文部科学省 総合教育政策局 教育DX推進室の桐生室長は,このようなシステムを部分部分に引き離した形を「ブロック」が組み合わさるイメージで説明します。

たとえば,おもちゃのレゴブロックが一定のルールにもとづきながら多様な部品で大きなブロック作品を構成できるように,このようなコンピュータシステムも,各社が国際規格のルールにもとづいて協調して開発することで,一つの大きな学習・CBTシステムを構築することができると考えるわけです。

かつ,各社が競争的に部品開発を行なってくれれば,特色あるユニークな部品を利用できる可能性も生まれることになります。利用者(この場合,教育委員会レベル)は複数の選択肢から,よりよい「学習eポータル」を選ぶことが求められます。


2021年11月1日に行なわれた「MEXCBT(拡張機能版)」活用に関する説明会の時点では,4社のシステムが名乗りを挙げていました。(順不同)

教育プラットフォーム主要4社がそろって学習eポータルに対応(教育とICT Online)
https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/06/21/00003/110200287/
どこまでが無料?「学習eポータル」対応サービスを比較
https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/06/21/00003/111100298/

各社とも,文部科学省が「活用事業」の予算化している間は「無料」提供するとしているので,とにかくどこかのシステムを選択して試してみればよいということになりますが,いずれは本格利用のタイミングで有料化されるため,導入に携わる関係者は頭を悩ませているのです。

そして,ここでややこしい問題は,内田洋行の「L-Gate」です。

内田洋行は,MEXCBTプロトタイプ版の開発にかかわっている会社のため,文部科学省に提供した学習eポータル「実証用学習eポータル L-Gate」とは別に,自分たちで販売できる商品のための学習eポータル「商用学習eポータル」を開発する必要がありました。

文部科学省に差し出したとはいえ「実証用学習eポータル」の開発ではノウハウが蓄積されたでしょうから,別途「商用学習eポータル」を開発するといってもゼロからというわけではなかったはずです。(おそらく実際には逆で,商用開発していたものの機能制限版を実証事業に提供していたと思われます。)

ややこしい問題は,商用と実証用とで同じ「L-Gate」というブランド名を使っていることと,文部科学省に差し出した「実証用学習eポータル」は文部科学省から継続的に無料で提供される予定だということです。

だったら,そのまま実証用でよくない?とか,同じL-Gateに移行したらいいんじゃない?とか,そういうなかなか微妙かつもっともな疑問が出てくるわけです。

ところが,同じ名前なのに実証版から商用版へはそのまま移行できないし,実証用が継続されるという話もいつまでなのかは国の予算次第で,いつ放り出されるかわからない。

4社から選ぶという話は,やはり避けて通れない話なのです。

(20211203追記)

株式会社COMPASS社が,同社のQubenaを学習eポータルとしてMEXCBTと連携できることを発表しました。


学習eポータルに関して,詳細やより専門性の高い解説はこちらの記事が参考になります。

特に,認証システム部分のシングルサインオンに関しては,児童生徒教職員の膨大なアカウントに関わる話ですので,学習eポータル選びで一番重要な検討項目でしょう。3つ目の記事が参考になります。


システムのお話がこうして進行している一方で,CBTシステムを使って行なう学力調査に関しても,準備は進んでいます。

2021年11月26日には,全国地方自治体の関係者を対象とした「地方自治体の学力調査等のCBT化検討研究会」がオンラインで開催されました。

MEXCBTシステムを利用する学力調査は,全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)だけではありません。

それぞれ地方自治体が独自に行なっている地方の学力調査もMEXCBTシステムを利用してCBT化することが可能です。つまり,CBTシステムを各自治体で準備・維持する必要はなくなるうえ,全国や国際的な学力調査もほぼ共通の使い勝手で受験できるメリットがあります。

こうした分かりやすいメリット以外にも,各地方自治体が協力し合うことで,MEXCBTを利用した学力調査をより質の高いものへと育てていくことができるはずですが,そこには課題や問題もあり得ます。

今回の研究会は,MEXCBTシステムを地方の学力調査というより児童生徒に近いところで利用する際,そのメリットを最大限活かすためには何が必要なのか,どんな問題があるのかといったことを共有し,解決策を探り始めるため設置されたと考えることができます。

とはいえ,議論する時間的猶予はそれほど多くは残されていません。

MEXCBTシステムの導入は,全国学力・学習状況調査のCBT化によって避けられない道ですし,CBTシステムから返ってくるデータをどのように児童生徒の学習活動や教職員の教育活動に生かすのかという「データ駆動型」の取り組みにも目配せをしないわけにはいかなくなっています。

こうした情報をなるべく早く吸収しつつ,皆さんの経験や考えのもとで向き合っていく必要があります。