[FS] 20140210 沖縄県宮古島市立下地中学校公開研究会

 2014年2月10日に宮古島市立下地中学校にお邪魔してきました。総務省・フューチャースクール推進事業と文部科学省・学びのイノベーション事業の実証校として,最後の公開研究会が行なわれたからです。

 大変光栄なことに講演者として依頼を受けましたので,私自身にとってもフューチャースクール推進事業に関わる最後のお仕事として,これまでの活動を踏まえて考えたことをお話した次第です。

「ICTのある学校で学びを深める」

(後日更新)

師走の研究室内整理

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 今日は,本当に久し振りのNo授業,No会議,No出張の日でした。

 もう師走ですので、研究室内の掃除をしたいところです。しかし,掃除するにも文献資料が乱雑に積み上げられているため、まずは文献資料整理から始めなければなりません。

 この数年間は研究室内を放置したも同然だったので、上の写真でご覧いただけるような有り様です。奥に隠れているデスクへ移動するのも大変。

 ぼちぼちまとまった文章を書きたいので,とにかく執筆のための資料を文字通り掘り起こすべく,整理作業に着手しました。

 作業を始めると,辺り一面文献が散らばりますし,興味深い目ぼしい文献を見つけると読み始めたりもするので,10時間経過した状況は整理どころかむしろ渾沌。

 けれど,いままで自分が買い溜めてきた蔵書を見返すと,自分が何を考えてきていたのかリフレクションもできるので,こうした作業は無駄ではないと思います。

 何故にこんなに蔵書を抱え込んだのか。

 私自身に本を買うと安心するという悪い癖がないわけではないのですが,むしろ,いつか自分の研究室生を持った時に,彼/彼女らが資料探しで困らない環境を作りたいなと漠然と考えていたことが大きいと思います。

 図書館が整備された都会であれば図書探しもいくらか楽かも知れませんが,地方の都市だと図書館がそれほど充実していないところも少なくありません。それに教育と情報に関する分野の充実度もバラバラでしょう。

 できれば,りん研究室は文献資料の充実した場にしたいなと思ってきたのです。

 そんなわけで,こんなに散らかっているのですが,ちょっと文献の量に対して研究室が手狭なので困った事態になっているというのが正直なところ。

 そして残念ながら,未だ研究室生はいません。

 少し寂しくはありますが,もうしばらくは気楽な独り研究室です。  

THE WALL (リコー)

 株式会社リコーには「TAMAGO Lab.」というプロジェクトがあり,ビジネスに役立つ卵的なソリューションを生み出す活動をされています。

 主にモバイル端末用アプリの開発を通してアイデアの提案をされているのですが,その中には学校で使うにも面白そうなものがいくつかあるのです。

 たとえば会議資料の配付や回収の便利な「Smart Presenter」は,少人数での話し合いの場で資料配付するには手軽なアプリです。(本格利用の場合は別途サーバーソフトを購入することで350名までの会議ができます。)

 「Idea Card」というアプリは,個々の端末でデジタル付箋を作成して,司会者端末にどんどん共有していくことができるアプリです。班活動のときのアイデア出しに便利だと思います。

 他とは少し違うテイストのアイデアが盛り込まれたアプリを開発しているのがリコーの「TAMAGO Lab.」なのです。

 2013年11月に,新しい卵として「THE WALL」がリリースされました。

 これはWebとiPhoneアプリを組み合わせたWebベースのディスカッションツールです。Webブラウザ上に表示したホワイトボードは,ペンと消しゴムで自由に書き込むことができて,ページも増やすことができます。

 ページは小さなサムネイルで一覧できるだけでなく,サムネイルをドラッグ&ドロップしてページに貼り込むことも可能です。サムネイルはクリックするとページジャンプをするので,簡単なハイパーカード的作品を作ることもできるのです。

 基本機能はこれだけのシンプルなものです。工夫次第で複雑なハイパーリンクスライドを作ることもできるというわけです。

 しかし,このTHE WALLの肝はそこじゃありません。

 THE WALLに書き込まれたデータを保存したり,再度開いたりする方法がユニークで,他にはなくエレガントなのです。

 THE WALLのデータを保存する場所としては,ユーザーのGoogle Driveを指定するようになっています。Google Driveに保存できることは少しもユニークではありませんが,それは核心ではありません。重要なのは,どうやって個別のユーザーのGoogle Driveに保存させるかなのです(保存場所などは要望次第でDropboxやEvernoteにすることは技術的に不可能じゃありませんから)。

 THE WALLでは各ユーザーにiPhoneアプリをダウロードさせて,それぞれの端末上でGoogle Driveの利用承認の手続きを最初の一回だけ行ないます。あとはWeb画面にある保存ボタンを押して出てくるQRコードを使って,Web画面で作業したデータと各ユーザーのGoogle Driveを紐づけ,インターネット上で保存処理するように動かすのです。

 つまり保存は,画面の保存用QRコードをiPhoneアプリで読み取るだけ。  逆に開く場合も,画面の開く用QRコードをiPhoneアプリで読み取るだけ。

 QRコードを読み取るだけで,みんなで見ているパブリックなTHE WALLと,自分だけ閲覧できるプライベートなGoogle Driveとをデータが行き来するのです。しかもログイン手続を一切省いて(すでに承認済みだから)。

 電子黒板と生徒用の端末とをリンクするために電子黒板にQRコードを表示させて端末で読み取るという仕組みはすでにありましたが,Google Driveといったプライベートな領域をつなぐところまでは届いていませんでした。

 個人ストレージというプライベートな領域を,学校の電子黒板といったパブリックな領域と接合する方法も,ログイン手続きの煩雑さを考えると決して簡単なものではなかったわけですが,そこにiPhoneアプリを噛ませるというアイデアは実にエレガントです。

 この仕組みであれば,先生がTHE WALLに板書した内容は,各自がQRコードにiPhoneをかざすだけで各自のGoogle Driveに転送されるわけで,授業中に板書で忙しいために講義内容を聞き漏らすということも防げます。講義中は必要最低限のノートだけ取れば,板書はあとで保存できるからです。

 また,各自がTHE WALLを使って作成し,Google Driveに保存したデータを,教室の大画面に提示したい場合にも,各自のiPhoneでQRコードを読み取るだけで,自分のGoogle Driveから教室の大画面に転送されるため,先生が支援システムを操作したり,ファイルサーバから開いたりする手間が省けます。

 これはApple TVなどのAirPlay切り替えにも似ていますが,AirPlayと違ってQRコードを読み取るという物理的な行動が必要になるため切り替えミスを防ぐこともできます。

 THE WALLは,自由線と消しゴムとページ・サムネイルで作画するシンプルなHTML5ベースのディスカッションツールで,まだまだ進化する余地は大きいですが,iPhoneアプリを使った保存と開く操作のアイデアは他にはない素晴らしいアイデア機能です。

 自分一人で使う分には,iPhoneとQRコードを使う保存方法は回りくどいだけですが,それぞれプライベートな保存領域を持った者が関わりあう場で使うツールの保存方法としては理想的なやり方です。

 今後は,他のノートアプリと連携して使えるようオープンな形で発展して欲しいと思います。

[FS徳島] 20131129 東みよし町立足代小学校公開授業研究会

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 私が担当研究者をしている徳島県東みよし町立足代小学校で公開授業が行なわれました。これが最後の公開授業。足代小らしさが凝縮された実践が披露されました。

 小学校分のフューチャースクール推進事業は昨年度で終了しているため,学びのイノベーション事業の実証校としての公開授業ということになります。

 3年生の国語は,お城までのイラスト地図をもとに「おはなしづくり」に挑戦しました。その際に,イラスト地図のミニチュア(ジオラマ風)を製作し,小型USBカメラを使って道のりを立体的に体感することで,物語への意欲を高める工夫が行なわれました。お話しづくりの作業にはコラボノートを利用。つくったお話しを発表する際にも,そのお話に合わせてUSBカメラを動かし映像を添えるといった活用がされました。

 4年生の理科では,体育館にビニールで作った球体ドームが用意され,オープンソースのプラネタリウムソフト「Stellarium」を使った天体学習が行なわれました。星の動きをあらかじめ予想し,自分たちの学校の風景を合成した今宵の星空を再現することで,星が自分たちの土地の空でどのように動き,どの風景や方角を手がかりにすれば星を見つけられるのかを学ぶことで,実際に子ども達が夜空で星を見つけられるようにするのがねらいです。

 5年生の外国語活動は,「What’s this?」という質問を使ったコミュニケーション活動でした。クイズをタブレット上で製作し,友達同士や他のグループの子達に対して出題をする活動をしたり,問題を製作するにあたって教室内の様々なものの英語名を確認するためAR技術を使って教室内のQRコードを読み取りタブレットから音声を取り出したりする活動も行ないました。

 6年生の算数では,おおよその面積を基本図形を使って求める活動をする際にネットで公開されている「E-Student」という測定ソフトウェアを利用しました。また次回は立体の体積を求めるため,そのイメージを理解するのに「SketchUp Make」というソフトも利用し,ハンバーガーと円柱を比べたりしました。

 当日は,玉川学園大学の堀田龍也先生をお迎えして対談をさせていただきましたが,堀田先生に外部から見た足代小学校の取り組みをお話しいただくことができました。

 すっかり言い忘れてしまったのですが,今回の裏テーマは「立体(3D)」。

 立体造形物や空間的活動など,どの授業も3Dをモチーフにした挑戦を盛り込んだこと,お分かりになった参加者はいたでしょうか。

 足代小学校の取り組みは,どちらかといえばフューチャースクール推進事業的な色彩(ICT機器や技術を授業や学習で使い倒してみる)が強いともいえそうで,それが学習効果的に高いか低いかという尺度が似合わない事例かも知れません。

 しかし,これは誤解して欲しくないのですが,足代小学校はぶっ飛んだ取り組みをしていても授業設計自体を疎かにはしていないということです。

 この日,先生方がパネリストとして登壇したパネルディスカッションでは,それぞれの授業者が授業に込めたねらいを語りましたし,ICT支援員さんからもこの3〜4年間で大事にされてきたのは「授業への配慮」であるということが述べられたほどです。授業への配慮とは,児童達の学びに対する配慮ということであり,丁寧な授業づくりこそが子ども達の学習を大事にすることに繋がることを私たちは常に意識しているということです。

 そして,そのような取り組みを実現するためには,教職員が一丸となって自分たちも学びあい成長することが大事であり,ICT活用への対応とは,新しいプラットフォーム上で学校教育というものを再構築する,一種の原点回帰作業だということを私たちは身をもって理解したわけです。

 足代小学校の中川斉史先生がまとめられたスライドには「学びのイノベーション事業は,教師の協働的な学びや授業作りを促した」ということ。「忘れかけていた『同僚性』の復活=日本の学校が大事にしてきたもの」ということが記されていました。

 実践の見え方が冒険的なものであるのか,あるいは堅実なものであるのか,様々違いはあるのかも知れませんが,いずれにしても先生方が協力しあって学校における学びのための文化を活性化しなければ,どのような道具も宝の持ち腐れであるし,逆にいえば,新しい道具を持ち込むことで新しい環境基盤の上に学びの文化を再構築する契機を作り出すことが,学びのイノベーション事業が目指していることだともいえます。

 というわけで,この公開授業をもって,担当研究者としての私の仕事も一段落つくことになりました。まだ実証校では報告書づくりなどの作業が残っていますが,事業自体はあと4ヶ月で終了です。

 私自身は,あともう少し他校を見て回ったり,情報の整理をして情報発信するなどする予定です。