勝利の方程式

 スクールニューディール政策が残した支流は,多少の混乱はあれど,教育の情報化に関心を集める程度には生き残っています。

 皆さんは同じくくりにしか見えないかも知れませんが,電子黒板と学習者向けデジタル教科書と一人一台タブレットPCは,まったく異なる文脈にあったもので,どれも十分な議論を尽くさないままに合流させられてしまったというのが本当のところです。

 たとえばフューチャースクールの取り組みにデジタル教科書の議論を重ねることは,よいことではありません。重なる部分があり得ることは認めますが,重ならない部分が多すぎて,実りある議論をあまり期待できません。

 斯様に私個人の中では分けて考えているのです。

 すでに多くの企業が行動に移しつつあるので,特別目新しくはないですが,この日本で「教育用」あるいは「学用品」としての〈学習端末〉が成功するための方程式は明らかです。

 AndroidとHTML5とWebサービスを極めること。

 余力があるなら独自アプリでも新規プラットホームに手を出しても結構ですし,理想のデジタル教科書をつくるのも素晴らしいチャレンジですが,当面,上記の3つを最低限として標準規格をフォローして商品作りをする他,勝利する方程式はありません。

 Appleは特別。彼らは自分だけの勝利の方程式をもって,ユーザーを引き込むブランドを持っているのです。あの土俵は戦う場所ではありません。あそこはシャープに任せましょう。

 むしろ日本の電機メーカーにとっての警戒すべきはサムスンであることは明白です。技術力が劣っている訳じゃないのだから,素性のよいAndroid端末をつくってしまえば負けるはずはない。

 コンテンツ企業はまだ時間稼ぎができますし,最悪,海外勢の襲来に対しては翻訳権契約でもして間をつなぐ策もあります。

 早く自社の商品をHTML5ベースに移植して,Webサービスとして提供できるようにすることと,EduMallのような課金・配信システムと対等交渉できる組織作りをしていくべきです。複数の課金・配信システムにコンテンツ提供するような形にできれば,ユーザー側のシステム導入の選択肢が増えるというものです。

 将来はともかく,地盤をつくる現在において,シンプルなAndroidタブレットとPDFやePUBなどのコンテンツが各社から提供されれば,教育現場にも徐々に端末とコンテンツが浸透するはず。

 残る問題があるとすれば,体力が持つかどうかかも知れない。

文教製品に必要なこと,5つのポイント

 WIRED VISION「Apple社のメディア戦略、5つのポイント」という記事に着想を得て,文教製品についても次のような5つのポイントがあるのではないかと考えツイートした。

(1) 文教製品は,完成させた製品で語って欲しい。中途半端な事務機転用商品で語るなら,いらない。

(2) 文教製品は,学校生活の物語を作るものであって欲しい。フリーズしてデータを失ったり,接続がうまくできずに諦めて,物語が途切れてしまうなら,いらない。

(3) 文教製品は,使いやすさと美しさのデザインにこだわって欲しい。操作にまごつくUIや洗練されてないデザインで,児童生徒学生の感性がざらつくなら,いらない。

(4) 文教製品は,入念に計画された製品で,生態系を育めるものであって欲しい。教室の置き場に困るような筐体や他社製品と組み合わせると機能せず,教室空間で生態系を組めないなら,いらない。

(5) 文教製品は,教師および児童生徒学生が使いたがるものであって欲しい。見ていて楽しい,使って嬉しい,そこにあって欲しいと思うものこそ,欲しい!

 具体的なイメージも必要かと思って「完成させた製品」の一つの例として書画カメラの「みエルモん」を挙げたりした。

 だからといって機器だけというわけではなく,ソフトウェアやコンテンツでも同じことを指摘したいのである。

 学校教育現場のニーズをすくい取ることは当然の努力として,それを文教製品としてどうまとめあげ,かつ完成された製品として人々をどう魅了するかを真剣に考えて実現して欲しいということである。

 そのためなら,教育現場にも研究分野にも協力者はたくさんいるはずだ。