魅せられて

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 この週末かけて,とあるセミナーのレポート作成仕事をしていた。ほぼ文字起こし的な仕事なので,聞き直しや資料再確認,通訳さんが誤魔化しちゃった部分の探索と確認など,うんざりする作業が続く。疲れて集中力が低下して,作業効率が落ちて,またつかれるという悪循環。

 「うぁ〜」と叫んだかどうかは記憶にないが,仕事を放棄して映画を観に行くことにした。週末に映画一本観る余裕のない人生を送っているなんて…。こんなときこそ逃避行である。

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 初めて観たディズニー映画が何だったのかという記憶は正直ない。熱烈なディズニーファンとしての行動をとるわけでもない。けれども,根っからのディズニー好きだと思う。夢と魔法があってもいい,心のどこかでそう思っている。

 しかし,ディズニー哲学に共感はしても,ここしばらくディズニーが不調であったことから,全体の印象が霞んでいた。肝心のアニメ映画で,経営や製作現場に関わるいろいろなドタバタもあって,最近の作品は往年の威光は感じられなかった。ピクサー・アニメーションスタジオが一緒になったとはいえ,その部分以外に変化はないんじゃないかとさえ思っていた。

 ところが,実際には着実に復活の道を歩んでいるようである。たぶんこれからいろいろなところで変化を感じることになるだろうが,今回観に行った『魔法にかけられて』は,ディズニーの持っているテイストがほとんどすべて注ぎ込まれた正真正銘ディズニー映画だと思った。

 というか,2時間映画にディズニーテイストをすべて詰め込んだせいで,ある意味でノンストップ・ディズニー映画である。アニメから実写,そしてディズニー自身が使ってきたお約束を徹底的にパロディする作風は,人によっては悪い冗談からつくったB級映画と思うかも知れない。けれども,こうしたコメディタッチもディズニーのお家芸であり,しかも,大まじめでやっているから,2時間は飽きるどころか極上のディズニー体験を味わうことができる。

 宣伝文句のようにディズニーを越えたとは言えないが,「これぞディズニー映画」であることは間違いない。

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 夢と魔法に憧れる精神性は,アメリカンドリームを抱きつづけるアメリカ人の精神性と密接である。つまり,ディズニーの世界とは,かつてのアメリカ世界とほぼイコールだといえる。あるいは宗教までさかのぼって,キリスト教世界とでも考えると面白いのだろうか。

 そういう意味では,日本的なものを考えたときに,ジブリがあって,『となりのトトロ』にみられる日本観や宗教観が人々の心をとらえているあたりに,月並みだけれど写し鏡的な構図をみることもできる。それがまた,アメリカに住む人達にも好まれていたりするあたりも似ている。

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 原題は「ENCHANTED」(魅せられて)。ある意味シンプルなディズニー映画だから,名作傑作として残るかどうかは心もとないが,シンプルだからこそ魅了される映画である。

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コメント(1)

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 作業も一段落したので,この映画に関する情報をあちこち眺めていた。同じような感想や考察を書いている人が多くて「やはりなぁ」という感想。米国ではかなりの人気を博してiTunesでは販売もレンタルも第1位だという。

 映画に対する評価は,どれも好意的で,新しいプリンセスの誕生と演じたエイミー・アダムスの好演を讃えている。しかし一方で,曲数の絶対的な少なさや他の俳優の演技の弱さなどを指摘する声もあり,いわゆる「メリーポピンズ」のような傑作とまではいかないことを皆がある意味残念がっているようでもある。

 確かに「メリーポピンズ」は永久不滅の傑作であり,記憶に残るメロディの数も多い。この傑作を相手に勝てる映画はそうそう無いが,「魔法にかけられて」はその天秤にかけられたというだけで十分評価されたといえるだろう。

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 現実世界にやってきたプリンセス(の卵)のジゼルを行きがかり上世話することになる弁護士のロバート。彼は自分の娘に,母が去った以上の悲しい思いをさせぬべく,強い女性になってもらうため,お伽噺や夢が叶うといった話を積極的にはしないとジゼルに語る。
 「僕は"夢が叶う"なんてあり得ないことを娘に信じて欲しくないんだ」(I don't want to set her up to believe in this "dreams come true" nonsense.)

 ジゼルはそれにこう答える。
 「それでも"夢は叶う"ものよ」(But dreams do come true.)

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 それはまるでウォルト・ディズニーが世間に語りかけようとしたセリフそのものであるようにも思う。あるいは,ディズニーのクリエイター達が自らに言い聞かせるために用意したとでも言おうか。
 この映画がディズニーの復活を思わせ,世界中で好意的に受け止められているのは,その原点を再訪しようとした素直な姿勢とある程度の成功を収めたからだと理解できる。メリーポピンズは魔法を使ったが,ジゼルは夢を信じることでハッピーエンドを迎えたのである。

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