「たけしの日本教育白書2008」観覧記-1

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 スタジオ観覧を申し込むと,先方から電話やメールがやってくる。たぶん,申し込んだ時点で「教育関係者」したので,食いつきが良かったんだと思う。何度かやりとりして,観覧させてもらうことになった。

 それが決まると,当日の受付のための通知が郵送されてくる。封書にはフジテレビではなく,別のイベント会社の住所があった。なるほど,こういうエキストラの仕切りは委託された業者が担当するらしい。興味本位で会社をネット検索すると,フジテレビ関連のイベントをいろいろと請け負っている(フジテレビにとっては)馴染みの下請け会社のようだった。

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Img_5345 番組自体は19:00からスタートするが,私たちはお台場のフジテレビに16:10集合だった。のんびりと出かけたら,ちょうどぎりぎりに到着することになってしまったのだが,指定された場所には受付が設けられていて,ずらっと行列。200名ほどの参加者がいると聞いていたから,特に驚きはしなかったが,こんな風に受け付けているんだぁ…と素朴な感想を持った。ただ,教育関係者の受付はなかなか始まらず,30〜40分くらいそのまま待たされた。

Img_5346 フジテレビには,フジテレビクラブという会員組織がある。そのままずばりフジテレビファンクラブというわけだが,番組の情報やいろいろな特典,そしてこんな風に番組観覧やエキストラの募集などが行なわれる。今回も多くの人たちがフジテレビクラブ経由で募集と応募をしたようである。だから皆さん慣れた様子。

 さらに教育関係者の行列を眺めていても,どうも何度か番組に出演した経験がありそうな教育関係者が並んでいて,グループで楽しそうに話したり,テレビ局の人とよく知った者同士の会話をしたり,なんだか独特な雰囲気も感じられた。こうした企画に協力的な現場の人というのは,どうしても限られるから,常連さんが生まれるのは当然だと思うけれど,新鮮さがどの程度担保されるかは少し疑問に思えた。


 受付では,通知の提出と,ネームタグや書類の受け取り,そして交通費の受領のための手続きをする。そして,いよいよフジテレビ局内に案内される。

 やはり放送局なので,入構に関しては警備が厳しい。といっても案内係の人に連れられて,とことこ歩けば,控え室となっているスタジオに到着する。すでにほとんどの人たちが席について,説明待ちをしていた。

 ずらっと並んだパイプ椅子には,メッセージ用フリップと○×プレート,そしてサンドイッチとお茶が置いてある。長丁場なので,事前に食事するように指示があったが,軽食は有り難い。

 番組進行に協力する誓約書を書き,本日のテーマ「変わらなきゃ」に沿って,あなたは何を変えるかという質問の答えをフリップに書くことになった。そして全員が揃ったところで全体説明。番組進行に関する説明と,フリップやプレートの使い方,そして人による退場時間の違い(小学生や高校生や帰りの都合がある人はCM中に退場するのである)と退場の仕方の説明があった。とりあえず僕は最後まで居残り組である。

 しばらくトイレ休憩。本番40〜50分前だったか,本番のスタジオへの移動が始まった。僕は最後の方だったので,あとからスタジオに入る。テレビスタジオとしては大きなセットだったが,皆さんがテレビ画面から感じるほどには大きくはないセットに,200名の観客がずらっと座る。僕は向かって左端に座った。ゲスト席の真後ろ。

 スタッフは50人程度があちこち動いたりしている。出演者として,佐々木アナが入り,西山アナが入り,伊藤アナが入り,大島アナや後から高島アナも入る。本番15分前ぐらいには,いよいよ慌ただしくなり,スタジオの照明も全開になってくる。セットと向かい合わせに巨大なスクリーンが設置されていて,私たちは映像をそれでモニターする。なので,時々出演者や観客が上を見上げていたり,別の方向向いていたりするのは,その画面を見ているせいである。

 やがて爆笑問題が入ってきて,スタジオが沸く。前番組の最後に次の番組の告知が入るが,そのための撮影があっという間に始まって,「このあとは!たけしの日本教育白書!」というコールで生放送された。いやぁ,なに,このあっさり感。あれで,日本全国に流れちゃったわけだ。恐ろしい…。

 いよいよ本番直前,照明が落ち,ビートたけしがスタジオに登場。やはりスタジオが沸くが,たけしはクレーンに乗り込んで,オープニング撮影のために宙に浮いた。「大丈夫だろうな,これ!」とか言ってみんなを笑わせていた。

 そして,本番の秒読み。みんなスクリーンを見つめて,緊張の瞬間である。そしてCMが明けて,私たちのスタジオが映し出された。

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 生放送の進行は,見た目淡々と続いていた。しかし,どうやら,(当たり前であるが)様々な展開を想定して動いていたらしく,放送が始まるまでにあちこちでチラチラ見えていたリハーサル映像や台本や準備の内容を照らし合わせてみても,かなり放送過程で進行を臨機応変に変更していたことが伺われる。もちろん,確認したことではないので,あくまでも憶測だが,本来はもっと違う番組進行を予定していたように推察されるのである。

 ビートたけしも爆笑問題も,今回はかなり抑え気味。でも番組としてどうやって面白くするか,バランスに気を遣っていたようだ。そのせいなのか,意外や意外,テレビ生放送中の議論としては議論が盛り上がり,それもあって全体進行に変更が加わったと思う。どのコーナーの議論もそれなりに盛り上がっていたと言っていい。

 興味深いのはCM中,出演者がお互い議論の続きやフォローや確認をしあったり,「なんか方向が違うんだよなぁ」とつぶやいていたりと,テレビの議論の難しさをそれぞれで調整している様だった。短い時間のやりとりや言動なのだが,それがすごく面白いし,大事な部分にも思えた。「ああ,この人たちはやはりテレビ的エンターテイメントのプロなんだ」と感心した。


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 「たけしの日本教育白書2008」の評価をインターネット上で検索すると,その内容は実に様々であった。ちなみに視聴率は11.2%ということらしい。この数字の読み方は専門家ではないので分からないが,素人知識で12%が平均的だと聞いているから,少し残念な数字なのだろう。あの夜は殺人事件の容疑者自首というニュースもあったし。

 とにかく,人によって番組について触れる箇所が違うしその評価も違う。それゆえに,様々なテーマを詰め込みすぎて,どれも中途半端だったから面白くないという評価も少なくなかった。

 僕は,逆に現場に立ち会ってしまったので,放送されたものを評価することは出来ない。確かにたくさんのテーマを詰め込んでいたということと,時間制限ゆえに十分議論が尽くされなかったのだろう事は認める。

 その上で,僕は,今回の放送は,大変出来が良かったのではないかと思っている。民放の情報バラエティ系の教育関連番組がなしえる限界の中で,かなり高い水準だったと評価している。

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 まず,いろいろなものを詰め込みすぎたという点については,これはおそらく,生放送であることと,テレビ番組構成上,どうしても避けられない。

 というのも,今回はたまたま議論が盛り上がって,時間の足りない事態が生じてしまったが,場合によっては,あまり議論が盛り上がらず,ネタを早く消化しすぎて,時間が余るパターンもあり得た。
 そのため,観客席には,○×プレートを持った200名や,それぞれのフリップにメッセージを書いて,いつでもインタビューできるように準備していた人たちがもっといたのである。なのに今回,数人のインタビューと1回だけの○×質問で終わってしまうくらい,時間が足りなかった。トロッコ問題に関するFAXの扱いが小さかったのも,同じ理由だと思う。

 では,盛り上がった議論は,良いものだったかという点については,僕も議論が尽くされたとはいえないと思う。けれども,これも腹八分だったと思えば,すべてのテーマについて実にちょうどいい具合の飢餓感を残して終われたと思う。逆説的にはいろいろ考えてもらうのによい効果を生み出しているのではないか。各テーマについてあれ以上の議論を続けていたら,議論が煮詰まって,ダラダラした印象を増幅させてしまう。

 親子問題については,「気絶するまで褒める」という提案について,まあ,少々突っ込みづらさもあったためぼんやりとしたやりとりが続いたが,事件の犯人の親子関係についての映像は,結果的にはその夜に別の事件の犯人が自首したニュースが流れて,翌日からその犯人の父親のインタビューが報道されるあたりで,すごく考えるきっかけを提示したと思う。

 2chやネット関係のコーナーは,特にネット界隈の関心が高かっただけに,事前に伝えられた内容とも違ってしまったため,かなり評価が低かったりした。けれども,この部分は,おそらく先方の事情が変わってしまって,制作者側も当初の予定と変わってしまい,かなりトーンダウンせざるを得なくなってしまったように見受けられる。もちろん,そんなことはスタジオで一言も説明はなかったけれども,なんかそんな痕跡が見え隠れしていた。
 ただ,おかげで,かなり落ち着いた議論の場にもなったと思う。目新しさはなかったし,埋め合わせた部分の議論は少し強引だったかなとも思うけれど,匿名だと思っていても,ログデータが残っていることから,書き込み主は特定されるのだという事実を番組で再度確認できたのは,よかったと思う。

 学校教育,特に教育委員会に関するコーナーも,現職知事の話を交え,教育委員会と教育長と教育委員会事務局の関係を改めて確認してみせたことは,最低限のレベルを達成して好感が持てる。
 そして,知事や実際の教育委員,そして現場の先生たちの発言によって,地方分権改革との関係,責任所在が曖昧化してしまう複雑な仕組み,それを今後どうしていくべきなのかについて,現状の形の理由も踏まえながら,ゆれながら議論できていたのは,素晴らしい出来だと思う。

 確かに,あの議論を,背景知識なしで聞くと,結論の見えない中途半端な議論にしか聞こえないが,背景事情を知った上で改めて議論を聞くと,限られた時間と全国放送という条件の中で,如何に問題をバランスよく議論すべきかを全員が配慮しながら議論していたこと,そしてそこそこ良い議論が出来たことに,感嘆するはずである。

 僕は東国原知事も橋本知事も,実に上手な人だなと思った。タレント活動を通じて,テレビで出来ることの限界を肌で感じ知った上で,現在の職務で経験し直面している事態や制度,そしてその歴史的な事情についても,ちゃんと理解した上で,うまい具合の均衡点を探ろうとしていた。それを他の出演者やゲストが,非常にうまい具合にサポートしていたと思う。今回は人選の勝利だったと思う。

 最後に石原知事わ交えた議論については,退場後だったため,十分聞くことは出来なかったが,教育における地域の重要性について東国原知事が言及したと聞いている。それは今後,この国が今以上の地方分権を推し進めることになったときに鍵となる考え方だと思う。地方分権と地方自治のあり方と一緒に教育を考えるという入り口に誘う,とても良い方向性だと思う。


 繰り返すように放送されてものを見たわけではないので,内容のバランスが良かったのか悪かったか視聴者的には分からないし,見る人によって関心を持つポイントが異なる以上,複数のテーマを扱った今回の番組に対する評価が千差万別になるのは当然だと思う。
 けれども,僕自身は,番組裏側の動きも含めて見たとき,番組制作の諸条件の中で「よくぞ頑張りました,しかも出来はなかなか良かったです」といえるんじゃないかと思う。それがテレビ的に良かったかどうかは,実は全然関係ないので,番組関係者はしっくりこないかも知れないが,教育を扱った民放情報番組としては,花丸あげても良いと思う。

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 テレビ番組制作に関して補足説明を。フジテレビでもどこでも,テレビ局には,「報道」と「制作」と「編成」という種類に属する大きな部署がある。この3種類は,基本的に派閥みたいなものなので,仕事内容が違うのは当然として,結構対立関係にあったりする。

 「編成」というのは,テレビ局の放送する番組に関して管理している部署である。何をいつ放送するのかの決定権を持っているのは,この部署である。どんな番組を制作するのかも,ここの許可が必要というわけだ。そうでなければ,放送枠を確保できない。
 「報道」というのはニュースを扱う部署で,ニュース番組などの報道番組を制作する。テレビ局の良心と言われることもある。だから,テレビ局の中でもここに属している人は比較的真面目だと言われている。
 「制作」では,報道以外の番組が制作される。実際のテレビ局では,番組のジャンルによって,さらに細かい部署分けがなされている。ドラマをつくる部署と,バラエティ番組をつくる部署と,情報番組をつくる部署などに分かれていたりする。


 「たけしの日本教育白書」をつくっている制作陣は,フジテレビの情報制作局というところで,これはめざましテレビとか,とくダネ!とかの情報番組を制作している部署である。

 つまり,逆の言い方をすれば,報道番組制作ではなく,またバラエティ番組制作でもない,という位置づけである。平たく言うと,真面目でもなければ,おふざけでもない,というポジションである。

 情報番組制作だから,それなりのお役立ち感を満たすリサーチを踏まえながら,豪華なタレントやゲストを呼んで,明るく楽しい番組をつくるということを,テレビ的に上手にこなせる作り手による教育関連番組だったわけである。

 その範疇でのプロの仕事を見させてもらったと思うし,なるほど,生放送によるテレビの教育議論ということと,それをテレビ的に成り立たせるための様々なアイテムというのが,それぞれちゃんと役割を果たしたんだということが分かって,本当に興味深かった。

 それは同時に,テレビの限界でもあるわけだ。議論が白熱しすぎて煮詰まってしまったら,番組的に盛り上がりを挽回することは容易ではない。そう考えると視聴率やスポンサーの手前,本当の徹底討論は難しい。

 地方分権の議論に入り込みすぎると,東京都の扱いや,総務省との関係にも気を遣わなくてはならない。情報制作局がそこまで考えている部署かどうかは分からないけれども,少なくともフジテレビもどこも,テレビ局は総務省から免許をもらっているので,地方自治や分権改革について,特に文部科学省との対立図式の上での議論をやり過ぎると,政治的には微妙なのも確か。それと同じく政府と日教組の問題についても,触れれば触れたで,たぶんあちこちから槍が飛んでくることになる。そこをうまく切り取ってしまったことに,ある種の限界というか,上手さというか,情報系番組の作り手の考え方を見ることが出来て,面白い。

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