【講義後記】20081115

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 非常勤講師先での講義も4回目となり,気がつくと日付も11月半ばとなっていた。授業の展開としては,ぼちぼち深みにはまるところに誘わなければならないが,相変わらず回り道をしているので,展開が強引になっているかもしない。

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 「初等教育の内容と方法」では,先週の番組鑑賞についてフォローした。非正規雇用教員の問題は,悲観的な側面が大きい。しかし,非正規雇用教員と括った中には,時間単位で勤務する非常勤講師だけでなく,年間契約の専任講師も含まれている。それぞれの立場において苦しい面と,あるいは,妥協できる面があったりもする。
 要するに,構造的な問題として解決しなければならないという問題の捉え方と,現実的にはその役目を引き受けなければならない立場に立った場合の捉え方を,単純に一緒にしてしまうのは,それも少し乱暴というわけである。もちろん,一方の問題が他方の問題への認識を曇らせてしまうことがあってはならないのだけれど。

 それから,ようやくテキストを使った授業に入った。テキストを使うというのは難しい。基本それに準じるとはいえ,その通りなぞるだけなら予習か復習で淡々と読んでくれればいい話であって,生身の講師が90分の時間,多くの学生を拘束する意味がない。とはいえ,実際にはテキストを熟読して授業に臨んでくれる人は少ないし,読んできても理解が十分でないのが前提だから,どうしても授業中にテキストをある程度なぞることになる。

 「なぞる」なんて書くと簡単そうだが,実のところ,なぞることほど難しいことはない。下手になぞれば,単なる棒読みになりがちで,お昼ご飯を食べた私たちには,子守歌以外になりようがない。
 そこで,一生懸命,単調にならないように抑揚をつけたり,話を脱線させたり,突然読むところを飛ばしてみたりと試してみるのだが,あれ何だろうね,眠たい時ってのは,つねられても眠気が消えないものである。

 ただ,考えてみると,この日はテキストを使うぞとばかり張り切っていたものだから,教室の温度がかなりポカポカであることに気がつけなかった。最後に書いてもらったコメントによれば「今日は教室が暖かすぎました」とか「エアコンの温度下げて欲しかったです」という意見が多数。ははは,それは授業中に言って欲しいなぁ…。

 とにかく,テキストを駆け足で眺めながら,必要な箇所について指摘したり,ポイント解説したりして,あっという間に授業時間が過ぎてしまった。次回は学生たちもテキストを少しは意識してやってきてくれるだろうから,ビュンビュン飛ばしていきましょう。

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 「教材論」の授業は,各学生が調査する教材や教具などの対象を決定し,似たような調査対象がある者同士でグルーピングを行なった。基本的には個人による調査課題なのだが,協力できるところは複数で取り組んだ方がいいし,他者の進捗や取り組み具合を知ることはよい刺激にもなるはずなので,そのような活動形態にした。


 調査対象は,電子辞書から始まって環境デザインまで様々。ちょっとちょっと,教材論なのにとお思いかもしれないが,まあ,世の中何でも教材になりますよってことで,かなり幅広く扱っている。

 オーソドックスに教科書について調べたいと考えている人もいるし,教材マンガと少年マンガの比較や,競合通信教材同士の比較,市販の参考書の傾向調査,NHK教育テレビの番組や組織について,福祉機器の現状,学校の教室の机などの配置や,掲示物の構成について,あるいはゲーム教材や廃材などを教材化する方法といったことまで,本当に多岐にわたる。

 やり始めてわかったが,卒業論文指導みたいな感じになっきた。もちろん,現時点では問題設定がおおざっぱだから,卒業論文テーマにするには,いくらもダイエットが必要だが,もしかしたら,何人かの人にとっては今回の課題が卒論に役立つかもしれない。そういう想像をすると,だいぶ楽しくなる。


 学生という身分は,学ぶことを正式に許されているわけなので,実際の企業や外部の人にコンタクトをとって教えを請うたり,協力していただくことも,やりやすい立場である。さらに「授業の課題なのです」という口実が付け加えれば,なおのこと外部の人に協力を要請しやすいだろうということで,積極的にコンタクトをとりなさいとけしかけている。

 もちろんご迷惑をおかけしてはならないが,何かあったときには私が責任をとる覚悟なので,是非とも学生のうちに,いろんな社会人と接触して欲しいと考えている。僕らは世界の騒がしさや賑やかさに対して,圧倒的に経験不足だと思う。まして,最近は学生もバイトやサークルやらで忙しく,世界に向けて出かけられていない。あくまでも教材論という切り口でしかないが,授業の中で社会と接触してみることは,結構意味のあることじゃないかなと思っている。


 「教材論」に関する教科書(テキスト)というのは,実は(教育学の分野では)あんまり無い。原理について語っている論文や文献が無くはないものの,教員養成課程における教材論の素材としては,すべてを埋め合わせるものにはなり得ない。だから,世間一般の教材論の授業は大概,教科との関連において具体的な教材づくりや教材分析に関する議論を行なう。

 あるいは,コースデザインとかインストラクショナルデザインといった知見を援用して,学習内容(コンテンツ)がどのような機能や構造を持っているのかを見通し,デザイン原理に基づいて開発する様を学んだり実践する授業もある。
 こちらは,教育工学の様々な知見も豊かで,確かに学習プロセス(教育システムまでも)を見通した上でコンテンツ開発について学べるので,大変賑やかではある。
 ただ,どうしても僕には,理論的な議論としては(教材論なのだから)わかるとしても,実際に論を動かそうとするときに使う筋肉が違ってきちゃう気がして,中核としては扱えないでいる。担当しているのが,教材開発者養成講座とか,人材育成担当者養成講座だとかならわかる。でも初等中等教育教員養成なので,使う筋肉は違うはずなのだ。

 というわけで,教科にも紐つかず,教育工学からも逃れて,初等中等教育段階に関係する教材論を語ろうとするとき,そんなものがあるのかどうなのか,実のところ,誰も示してくれてはいない。
 そういう,未開拓みたいなところに,コソコソ出かけていくのが好きなので,任された学生たちを連れ立って,旅に出ているというわけである。

 今回,学生たちが頑張って調査してまとめてくれる内容が,なかなかのものだったとしたら,きっと生きた「教材論」のテキストになるんじゃないかなとひそかに期待を寄せている。こんなに多彩な教材教具を一遍に扱った教材論のテキストは,そうはないでしょ。
 取材先がある場合は,先方の許可も必要だし,学生たちの賛同も必要だが,みんなの成果をWebなどで公開できたらと思う。それこそ教材を作った「教材論」というユニークな授業になるな。

 どうかそのときまで,体力と気力が残っていますように…。

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