林向達『わたしの情報活用』

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林向達『わたしの情報活用』(カラーPDF版:約122MB)
http://homepage.mac.com/rin/.Public/rin_watashino2003.pdf

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 必要があって過去の記録を見返していたついでに自分の書いた本のことを思い出す。2000年,まだ短大教員として働いていた時に,東京の出版社の人が訪ねに来てくれた。「教科書つくりませんか」って。

 パソコンの演習を担当していたので,その受講生が利用するためのテキストをつくるというわけである。その短大や大学の全体で同様な授業を受ける学生の数はそれなりになるから,小規模とはいえテキスト販売が出版社にとって商売になるというわけである。出来が良ければ一般販売でも売れるだろう。

 ただ,教科書をつくることと,教科書を採用することとは,まったく違う力学が働いていて,当時の僕には,そのどちらに対しても十分な準備がなかった。だから,出版社の方とお会いしてから2年ぐらいは,何も進展しなかった。それでも,出版社の方は中部地区への出張シーズンがくると,毎回訪問してくれた。

 そのことが何より申し訳なかったので,僕はいい加減,授業のためにつくったハンドアウトをまとめる形で教科書執筆に取りかかることにした。だから教科書というよりは,見開きをコピーすればすぐ配布できるようなプリント集みたいにしようと方針を決めた。
 そして,出版社の方の手を煩わせないように,全部自分で編集して,完全原稿(PDF)を渡すことにした。

 結局,時間が無くて尻つぼみ気味の内容になってしまったけれど,出版社の人に原稿を渡して,2003年3月に『わたしの情報活用』という教科書が出来た。価格を抑えるために装丁は極めてシンプルだった。担当していただいた出版社の女性にお任せをして,表紙はクリーム色の地にピンク色の文字という意外と可愛らしいものになった。


 初めて教科書を使った授業は,気恥ずかしかった。しばらくして,出版社の女性が訪ねに来てくれて,会社でも結構評判がいいですとお世辞を言ってくれたことは嬉しかった。全部自分で編集したことに「ここまでやるか」という声もあったと聞いて苦笑いをした。

 それからしばらくして彼女は,その出版社を都合で辞めることになって,その後会うこともなかった。刊行後,僕の担当する授業数が少なくなって,当初の販売予定数を消化できなくなった。もしや,その引責で彼女は辞めることになったんではないかと,本当かどうか分からないまま勝手に心の片隅で気にし続けていたりする。


 あるとき学生が,授業のコメント用紙に「家でお母さんが先生のテキストを見つけて,これ分かりやすいと言ってパソコンの勉強してましたよ」と書いてくれた。それから短大を辞めるまで,自分が使うテキストの最後のページに,僕はずっとそのコメント用紙を挟んで持ち歩いていた。


 たくさんは売れなかったし,担当の人は出版社を辞めちゃったし,僕も短大を辞めちゃったけれど,その教科書を「分かりやすい」って言ってくれた人が一人でもいたことは確かで,そのことに僕は感謝したい。

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 その教科書をつくるにあたって,事前に「いずれインターネット上に公開したいのですが…」と聞いた時,「大丈夫です」とお返事いただいた口約束が,いまでも有効であることを信じて,ここにPDF版を公開します。しかもカラーで(教科書はモノクロ印刷だった)。

 もう時間も経過して,基本ソフトもアプリケーションソフトも大変化していますから,役には立たないかも知れませんが,こんな教科書もありましたということで…。興味のある方は,検索して,出版社に注文してください。

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