教育: 2008年6月アーカイブ

ED-MEDIA

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 6/30〜7/4にオーストリアのウィーンで「ED-MEDIA」という国際学会がある。いろいろな先生方はもちろん,ゼミ生の中でも何人かが旅立って学会参加する。

 残念ながら私は,人生の貧乏期真っただ中ということもあり,ウィーンに出かけることは叶わない。というか,修士論文の中間発表が控えているので,海外渡航している場合じゃない。人生ね,お金とタイミングの影響は大きい。

 それでも一昨年,泣きながら翻訳に関わったペーパーの生まれ変わりが見事発表となっているので,身体は日本にあるけれど,気持ちは他の人に託して空想参加である。人間ね,思い込めばもうそこはウィーンなのである。

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 海外渡航はしないが,今週末は米国に住む妹家族が日本にやって来ている。姪っ子甥っ子たちと久し振りに会える。本当は研究しないといけないけど,しばらく伯父さんモード。

 打ち上げた花火が思いの外花開かずに落ちてしまう悲しさ。教育振興基本計画は,そういう物悲しさがある。もう少し優雅に表現すれば,ささやかな線香花火を見るような,そんな感じなのかもしれない。

 お忘れかもしれないが,我が国は平成18年の暮れ行く中で教育基本法を改正した。そこで文部科学省が手にしたアイテムというのが「教育振興基本計画」であった。

 この国には「ナントカ基本計画」という類いの施策があって,多くは「閣議決定」という手続きを経て,具体的なアクションに結びつけていくものとして扱われている。つまり,「基本計画」を提案し,閣議決定されれば,計画実施のための予算確保の根拠になるわけだ。

 旧来の教育基本法を新しいものに変える必然性はあまりない。けれども,教育振興基本計画を策定してもよいと認めてもらえるなら,変えない理由もない。改悪と人はいうけれど,具体的な基本計画を立てて閣議決定さえすれば,教育予算を確保できる(そして別の言い方をすれば権益確保もできる)のだから,飛び込んでみよう。それが平成18年の暮れに見た夢であった。

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 そして,平成20年6月27日。みんなの期待を盛り込んだ(かも知れない,盛り込んでないかも知れない)教育振興基本計画の原案は,財務省や総務省の反対を斥けることもできず,念願だったはずの「具体的な数値目標」を盛り込めずに7月1日に閣議決定されることとなった。予算確保(そして権益確保)の夢は淡くも消えていくというわけである。

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 文科省の人々は嫌がるかも知れないが,この攻防を観戦できる場所の一つが,財務省・財政制度等審議会の財政制度分科会財政構造改革部会で配布された資料の上である。

財政制度分科会財政構造改革部会(平成20年5月19日提出資料)

 実は,同じ論戦は1年前の同部会で行なわれており,今回は再戦。財務省が繰り出してきた「反論」は,基本的に昨年と同じであるが,その提示方法は,分かりやすさを追求してより説得性を高めるため,様々な飛び道具やレトリックを駆使していて圧巻である。これ以上やったら,コメディの域に達してしまう。

 もちろんこれは財務相側の一方的なパンチであり,公平な試合場面を見ていることにはならない。とはいえ,ここで改めて思わざるを得ないのである。教育をまじめに論ずることが難しい時代に入ってしまったのだなと。

 財務省は「OECD平均と比べることにどれほどの意味があるというのか」と主張する。なるほど「成果」を重視する立場からすれば,OECD平均という漠然とした目標の示し方が気に入らないのもうなずける。しかし,だとすれば「先進5カ国と比較して遜色ない」云々という文言も,いかほど意味のある反論といえるのか。

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 まあ,しかし,教育振興基本計画に具体的な数値目標が盛り込まれたとしても,膨大な項目のどれがどの順番で実現されるかハッキリしているわけではないのだから,目標達成の難しさは変わらないという予見もあり得る。

 むしろ,財務省の一部会に提出したこの資料の内容を,もっと人々が吟味する場をつくり,文科省vs財務省から多くを学ぶよう仕向けていくことが重要だと思う。今回の資料は,いかにもテレビ向きな作り方であり,ミスリードする可能性にも満ちているが,人々の注目を集めやすくした功績は認めるべきである。ならば,なおさら,この資料を肴に,私たちは教育についての見識を深める機会にしなければならない。

情報教育の流れ-2

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 情報教育に関する動向の歴史を,学習指導要領の変遷に重ねて眺めてみる作業の続きをしてみたい。とりあえず情報教育にかかわるトピックスを資料などもとに書き出してみよう。

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S25 全国放送教育研究会連盟 設立

▽S33-35 学習指導要領改訂

S45 情報処理振興事業協会(旧IPA)設立

▽S43-45 学習指導要領改訂 〜高等学校の情報技術科(工業),情報処理科(商業)

S46 日本教育工学協会(JAET)設立

▽S52-53 学習指導要領改訂

S57 日本教育工学振興会(JAPET)設立
S59 日本教育工学会(JSET)設立

▼S59-62 臨時教育審議会 〜「情報活用能力」

S60 情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会議
S60 〈コンピュータ教育元年〉
S61 コンピュータ教育開発センター(CEC)設立
S61 『コンピュータと教育』
S61 『未来の教室〜CAI教育の挑戦』
S63 学習ソフトウェア情報研究センター 設立

▽H1 学習指導要領改訂〜選択領域「情報基礎」

H2 「情報教育に関する手引き」
    →「情報活用能力」の4つの観点提示
H5 『教室にやってきた未来』
H6 情報化教育促進議員連盟設立
H7 「100校プロジェクト」(通産省)
H8 「こねっとプラン」(NTT)
H8 コンピュータ利用教育協議会(CIEC)設立
H8 『コンピュータのある教室』
H8 中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」
H8 情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の進展等に関する調査研究協力者会議
    →「情報活用能力」の観点が3つに見直される
H9 『新・コンピュータと教育』
H9 『不思議缶ネットワークの子どもたち』
H10 教育分野におけるインターネットの活用促進に関する懇談会

▽H10 学習指導要領改訂

H11 『マルチメディアと教育』
H11 衛星通信を活用した教育情報配信ネットワークの在り方に関する調査研究協力者会議
H12 教育情報ナショナルセンター機能の整備に関する研究開発委員会
H13 「e-Japan重点計画」
H14 『教育工学への招待』
H14 初等中等教育におけるITの活用の推進に関する検討会議
H14 「情報教育の実践と学校の情報化」(新「情報教育に関する手引」)
H14 「e-Japan2002プログラム」
H15 教育における地上デジタルテレビ放送の活用に関する検討会
H15 ICT 教育推進プログラム協議会 設立
H15 『デジタル社会のリテラシー』

▽H15 学習指導要領改正

H16 『実践的情報教育カイゼン提案』
H16 『メディアとのつきあい方学習』
H16 情報処理推進機構(IPA)改組設立
H16 教育情報化推進協議会 設立
H16  初等中等教育における教育の情報化に関する検討会
H17 デジタル放送教育活用促進協議会 設立
H17 e-Japan目標達成年 〜目標達成ならず
H17 ポスト2005における文部科学省のIT戦略のあり方に関する調査研究会
H18 「IT新改革戦略」「重点計画-2006」
    →教員1人1台のコンピュータ整備を目標として掲げる
H18 教員のICT活用指導力の基準の具体化・明確化に関する検討会
H18-19 学校教育情報化推進総合プラン
H19 ICTメディアリテラシー育成プログラム(総務省)
H19 教員のICT活用指導力の基準(チェックリスト)
H19 学校のICT化のサポート体制の在り方に関する検討会
H20 『わかる・できる授業のための教室のICT環境』

▽H20 学習指導要領改訂

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 まだ十分な年表ではないが,おおよそこんな感じである。年号変換を勘違いしているものがあるかもしれないが,だいたいこんな順序で出来事や出版物が登場した。

 これと先の年表と掛け合わせて考えると,情報教育の流れを考える材料にはなりそうである。

情報教育の流れ

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 研究会のミニ講座「新学習指導要領と情報教育」を担当することになったので,下調べのために,あらためて学習指導要領や情報教育に関する政府関係の資料や,巷の解説書を見渡している。
 最近,日常的な情報収集をさぼっていたので,結構大変。文部科学省の努力もあって,必要な資料はたくさん開示されているから,情報を集めることは楽になったが,逆に膨大な情報を整理して理解するのは難しくなっているようにも思う。

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 学習指導要領の改訂。私たちは,それがほぼ10年周期で改訂されてきたという歴史を教わった。けれども昨今では学習指導要領を取り巻く環境や認識も変わり,改正も行なわれているので,10年単位で変わるという話は,そろそろ忘れた方がよさそうな時代に入ってきた。

 それに伴って「新しい学習指導要領」とか「新学習指導要領」という呼び方も,だいぶ混乱気味になっている。30代後半の私にとって「新学習指導要領」と聞くと平成元年改訂のものを思い浮かべてしまうのだが,私より上の世代の方はもっと以前の改訂を思い浮かべる人も出てくるだろうし,下の世代は平成10-11年改訂のものをそう思うかも知れない。いまやそれは平成20年改訂のものを指すわけであるが,じゃあ次の改訂も「新学習指導要領」となると,古い資料を漁る身には結構厄介な表現で勘違いを引き起こしやすい。是非とも「S52-53学習指導要領」とか「H20学習指導要領」とか年号表記していただきたいものである。

 学習指導要領の変遷については,文部科学省の「新しい学習指導要領」ページ内にある「参考資料(リンク集)」で開示されている資料など,あちこち説明があるので参照していただきたいが,おおよそ次のような変遷である。


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S33-35改訂:教育課程の基準としての性格の明確化
     →「(試案)」が取れた指導要領として有名
S43-45改訂:教育内容の一層の向上(「教育内容の現代化」)
     →そして「四六答申」が出るも実現せず
S52-53改訂:ゆとりある充実した学校生活の実現=学習負担の適正化
     →「教育の人間化」,落ちこぼれ問題の反動として

(S59-62 臨時教育審議会)

H1改訂:社会変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成
     →「新しい学力観」と「生活科」が鍵語
H10-11改訂:基礎・基本を確実に身につけさせ,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の育成
     →学級崩壊への対応と学力低下議論の始まり
H15改正:学習指導要領のねらいの一層の実現の観点から(「確かな学力」)
     →世紀を超えた学力低下論争の末に…「学びのすすめ2002」
H20改訂:「活用」型学習
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 いやはや,気がつけば21世紀です。何やっていたんでしょうか私たちは…。

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 さて,情報教育の方はどうなっていたか。上の変遷と対応させながら流れを追うことにしよう。ただ,その前に,情報に関わる歴史的な出来事を確認してみたい。そもそも情報教育が重要視されてきたのは,情報を扱う機会増え,それに関係する機器などが生活に入り込んで利用が日常化したからである。その変化を大雑把に押さえてみたい。

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S21 東京通信工業株式会社(現ソニー)設立
S30 日本初のトランジスタ・ラジオ
S33 ソニーへ社名変更
S33 ダイエー開店
S34 「少年マガジン」「少年サンデー」創刊
S35 所得倍増計画

▽S33-35改訂〜拘束力強化

S37 ビートルズ来日
S39 東京オリンピック
S43 映画「2001年宇宙の旅」
S44 「8時だよ全員集合」開始
S45 大阪万博

▽S43-45改訂〜「教育の現代化」

S46 NHK完全カラー化
S47 情報誌『ぴあ』創刊
S51 家庭用VHSビデオ発売
S51 NEC社「TK-80」
S51 アップルコンピュータ社「Apple I」
S52 アップルコンピュータ社「Apple II」
S52 「月刊アスキー」創刊
S53 日本語ワープロ「JW-10」

▽S52-53改訂〜「教育の人間化」

S54 シャープ社「MZ-80K」
S54 NEC社「PC-8001」
S56 IBM社「IBM PC」(PC-DOS)
S57 カード式公衆電話
S57 「ログイン」創刊
S57 「PC-9801」
S58 「PASOPIA7」「MSX」
S58 「ファミリーコンピュータ」(ファミコン)発売
S59 アップルコンピュータ社「Macintosh」
S59 NHK衛星放送
S60 つくば科学万博
S60 パソコン通信「アスキーネット」
S60 「PC-8801mkII SR」
S61 パソコン通信「PC-VAN」
S61 使い捨てカメラ「写ルンです」
S62 パソコン通信「NIFTY-Serve」
S62 「一太郎Ver3」
S62 国鉄からJRへ

▼S59-62 臨時教育審議会〜教育の自由化路線

S63 ドラゴンクエスト3発売
S63 初の完全デジタルカメラ「DS-1P」
S63 「アエラ」創刊
S64 「ゲームボーイ」
S64 天安門事件・ベルリンの壁撤廃

▽H1改訂〜「新しい学力観」

H2 エプソン互換機
H2 「FM TOWNS」
H3 リーナス・トーバルズ「Linux」
H6 携帯電話販売自由化
H6 個人向けインターネットプロバイダー誕生
H6 「Yahoo!」始動
H7 マイクロソフト社「Windows95」
H7 レッドハット社「Red Hat Linux2.0」
H8 「Yahoo! Japan」始動
H10 アップルコンピュータ社「iMac」
H10 「google」始動
H11 NTTドコモ「i-mode」サービス開始
H11 「魔法のiらんど」開始
H11 「2ちゃんねる」開始

▽H10-11改訂〜「生きる力」

H12 「プレイステーション2」発売
H13 電子マネー「Edy」実用サービス開始
H13 電子マネー「Suica」正式サービス開始
H13 「iPod」発売
H13 アップルコンピュータ社「MacOS X」
H13 マイクロソフト社「Windows XP」
H14 マイクロソフト社「Xbox」
H15 「Skype」配布開始
H15 「Second Life」始動

▽H15改正〜「確かな学力」

H16 「iPod mini」発売
H16 おサイフ・ケータイ開始
H16 「mixi」開始
H18 「モバゲータウン」開始
H17 愛地球博
H17 「iTunes Music Store」始動
H18 ワンセグ放送開始
H18 「プレイステーション3」「Wii」発売
H19 マイクロソフト社「Windows Vista」
H19 「PASMO」サービス開始
H19 iPhone発売
H20 iPhone G3発売

▽H20改訂〜「知識活用」型

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 こうしてみると,当時の社会状況を思い浮かべながら学習指導要領が改訂されていく様子を想像しやすいだろうか。だいぶ長くなってしまったけれども…。

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 つづく

ICT活用授業力ゼミ

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 この週末に「ICT活用授業力ゼミ」という研究会が行なわれる。メディア教育開発センターの中川一史先生を中心に,今後継続的に続けられる研究会の第1回目。

ICT活用授業力ゼミ
http://www.broadbandschool.jp/event/Seminar.html
 ※私の肩書きは正しくは「東京大学大学院学際情報学府」です。ごめんなさい。

 僭越ながら,トップバッターの一人としてミニ講座を担当することになった。しかも「新学習指導要領と情報教育」なんて大きなテーマをいただいた。雑誌を読む感覚でざっくばらんに進行しようということなので,詰め込みすぎずに,軽い前座のつもりでテーマについて話そうと思っている。
 

日本賞受付中

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 いつも気がつくと授賞式と特別番組の日がやって来て,あっという間に去っていき,毎年知名度がなかなか上がらない「日本賞」は,ただいま作品応募を大々的に受付中である。

 いま,このときに日本賞とは何かを知っておくことは良いことではないだろうか。ここで宣伝しないから,いつも知られず終わるのだと思う。

 そもそも世界の優れた教育番組に賞を与えるために,我らがNHKが世界に向けて設けた国際コンクールである。実は長い歴史があるのだが,日本国内の知名度は残念ながら高いとは言えない。しかし,世界の教育番組制作関係者にとっては注目すべきコンクールとして,毎年優れた作品が寄せられるという次第である。


 そして今回,教育番組国際コンクールであった「日本賞」が,時代に対応してなのか教育コンテンツ国際コンクールとして新たに生まれ変わり,番組という形式にとらわれない音と映像によるコンテンツを審査対象にすることになった。


 残念ながら個人応募は受け付けておらず,何かしら教育に携わる団体や組織としてでないと応募はできない。関われるとしたら,視聴者としてNHKが展開する教育フェアの番組やイベントに触れるぐらいだろうか。それが日本賞の知名度不足や距離を遠くしている原因かも知れないが,ぜひ,この機会に日本賞についてサイトを見ながら勉強してみてはどうだろうか。

 水曜は小学校お手伝いの日。先生方とゆっくりお話する機会はほとんどないが,たまに隙間時間のタイミングが合ったりした機会に,あれこれ教えてもらう。現場の日常は,ある程度知っているつもりでいても,学校毎に違うということもあるし,重ねた経験の異なる先生方の眼を介すると,同じものでもまた違った見え方をするので奥深い。


 昨今,教員養成の現場に〈実務家教員〉を配置することが条件に掲げられていて,現場経験○年以上という方々が大学教員になっている。現場の日常を肌感覚で知っている実務家教員が,養成現場で指導することによって現実との乖離を最小限にし,実践的指導力もしくはその構築素地が調えられた教員志望生を輩出していることが期待されているのだと思う。あるいは教育研究の方面にも,良い影響があることが望まれているのだと思う。

 私は高等教育でしか現場経験がないので,研究対象にしている現場については未経験な〈非・実務者教員〉ということになる。それゆえ,現場の肌感覚の有無に関しては勝てない部分がある。その分,限られた現場訪問の機会と自身の想像力を使って,少しでも現実に近づこうと努力する。そこで実務家教員に見えないものも見えてくると信じて努力を積み重ねるしかない。競争しているわけではなくて,むしろ互恵的に切磋琢磨するということを目指して。


 理論と実践,知識と現実といった様々なギャップがある。教員養成と教育現場との乗り越え難いギャップというものもある。そこのところを逆にどうメリットに変えていけるのか,それを考えることも大事だと思う。

NEW Education Expo 2008

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 2008年6月5〜7日にかけてNEW Education Expo in 東京が行なわれた。Expo自体は13回目を数えるが、私が参加するようになったのは一昨年からなので、今年で3回目の参加となった。

 本当は同日にBEATセミナーが東京大学・福武ホールで行なわれていたので、そちらも気にはなったが、公開授業を見たかったのと、後期からの非常勤のネタを集める必要もあったので、Expoを選択。BEATセミナーは、あとから身近な人たちに様子を聞くことにしよう。

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 昨年は何かが間違ってセッションの登壇者になったが、今回は一来場者に戻って気楽な気持ちで最終日に出かけた。Expo自体は年々来場者も増えているようで盛況であった。

 ただ、個人的には不満と不安が募った。私が参加した3年間だけを考えても、トピックスの目新しさはあっても、本質的な状況の進歩はないように思われた。確かに新しい学習指導要領においては、教科の域にまで情報にかかわる文言が入り込み、情報教育や教育の情報化は、いよいよ本格化するように思われている。

 ところが現実には、情報教育や教育の情報化のための環境整備に着手することが、ますます困難な状況になってきているようにも見える(ex.地方分権化)。賑やかだった企業展示ブースは、私の目にはますます混沌として、そこにいる誰も教育市場におけるグランド・ビジョンを描けていないように思われたのである。

 3年間、差し出されたパンフレットを受け取ったり受け取らなかったりを繰り返して集まった、そのパンフの山を比べてみると、ある種の固定化されたパターンとバラバラさ加減に、私は大きな不安を感じざるを得ない。弱者は当然のことながら、強者にとっても、どこまで持ちこたえれば道が開かれるのかが見えないチキンレース状態にある。いや、むしろ小回りが利かなくなっている分だけ、その消耗具合は想像以上なのではないか(ex.学研etc)。

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 それでもこうして毎年、教育関係の大規模なイベントを継続的に開催しているNEW Education Expoの関係者の皆さんには頭が下がる。私は、教育市場が活性化し、教育に貢献してくれる企業がハッピーになってくれることを心底祈っている。

 たとえば、英国ロンドンで毎年行われている世界最大の教育関係展示イベント「BETT」は、世界から教育関連の企業が集まり大変賑やかである。NEW Education Expoが目指している一つの理想だと思うが、ここに集う企業の人たちは「企業人」であると同時に、教育を支援する「貢献者」としてプライドに満ちた姿勢で参加している。またそこに参加するあらゆるレベルの教育関係者もまた教育界を活性化させたいという思いで集う。そして、BETT会場は、異なる立場の人たちがセミナーや展示物を話の肴に教育を語らうサロンの集合体と化すのである。

 私は、ここにNEW Education Expoが次のステージへ飛躍するヒントがあるように思う。いまのExpoには、セミナーや展示物、あるいは教育の未来について参加者同士のみならず、企業の人々と語らう場も余裕もほとんどない。意見交換会は場を移して別途行なわれるが、それは来場者のほとんどを返した後だ。それで語らうべき人々と語らえているだろうか。


 私の懸念は、現時点の規模において、こうした場に集う私たちが教育について語らいを持ちえないとしたら、今後どうやって教育の市場は互恵的な関係を発展させながら大きくなっていけるのか。このままではあまり幸せな未来はないんじゃないかと思えるのである。ともに教育文化をくつる者同士になるのか、それとも消費文化を分担する者同士になるしかないのか。

 ある意味、NEW Education Expoが変わることができるとき、教育市場の新しい在り方が始まると思う。