[教育情報化の歴史のシミ][#2] 「ミレニアムプロジェクト『教育の情報化』」

 教育情報化に関する過去の資料を漁ろうとすると、否応なくインターネット上の情報リソースを掘り起こさなければならないときがあります。
 ところが、ネット上でのみ公開されていた情報は、役目や関連事業が終わったりすると削除されることもありますし,サイト・リニューアルやサーバー引っ越しなどのタイミングで失われたり、リンク切れになっているものも珍しくありません。
 ネットの世界には、「後から参照したいもの」を保存する手段がいくつかありますので、それを駆使して掘り起こすということになりますが,あれば幸せ、なくて当然ということを覚悟しないといけません。

 オリジナルのサイトやデータが消えてしまった資料の一つが、1999年終わりに立ち上げられたミレニアム・プロジェクトの一環である「教育の情報化」について解説した文書『「ミレニアム・プロジェクト」により転機を迎えた「学校教育の情報化」 -「総合的な学習」中心から「教科教育」中心へ-』。
 通称『「ミレニアムプロジェクト『教育の情報化』」の解説』と呼ばれる文書です。
 2000年7月に作成され,2000年8月に行なわれたインターネットと教育フェスティバルの催事で配布されたり、当時のWebサイト「まなびねっと」(http://www.manabinet.jp/)で公開されていたものです。
 正式題目にあるように、当時は総合的な学習の時間に注目が集まり,IT機器(いまならICT機器)の使い方もどこか目新しさを追いかけた落ち着きのないものと受け止められ始めていた頃だったのですが、そこにはっきりと教科教育での活用をうたって、分かる授業を訴え,さらにはIT機器に対する考え方についても見直しを迫るものでした。

 しかし、Webサイトの更新やリニューアル、ドメインの廃止といった過程で、この文書も削除され,正式な形では入手できません。
 検索をすると、内容を写し取ってミレニアムプロジェクトのことなどをまとめ直して公開している私的なサイトのものを発見できますが,HTMLファイルなので単体文書としては扱いにくいです。
 そこで、インターネットのアーカイブサービスから探してみましょう。
 当時の文部科学省生涯学習政策局「まなびねっと」(2001年12月12日時点)はこちら
http://web.archive.org/web/20011221152104/http://www.manabinet.jp/
 そこからリンクをたどれば、『「ミレニアムプロジェクト『教育の情報化』」の解説』についてのページ
http://web.archive.org/web/20020210144922/http://www.manabinet.jp/it_ed.html
 そしてPDFファイル『「ミレニアムプロジェクト『教育の情報化』」の解説』を入手できます。
http://web.archive.org/web/20040726195731/http://www.manabinet.jp/it_ed.pdf

 ちなみに、『「ミレニアムプロジェクト『教育の情報化』」の解説』はPDFファイルにも表記されているように2000年10月に一部改訂を施しているようですが,まだ細かく比較していないので改訂点は不明です。分かり次第、また追記してみようと思います。
 
 
(2012年3月22日初出)
 
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 「教育情報化の歴史のシミ」シリーズは,Facebookページ「教育情報化の後先」で掲載されたコラムです。こちらのブログにも再録しておきます。
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[教育情報化の歴史のシミ][#1] 『情報教育に関する手引』

 『情報教育に関する手引』というものがあります。学習指導要領の改訂と歩調を合わせて作成され,現在は『教育の情報化に関する手引』という名前になっています。
 今回のネタは,平成元年の学習指導要領改訂の時に初めて登場した『情報教育に関する手引』が一体何年に作成されたのか,です。
 「手引」の最新版である『教育の情報化に関する手引』(平成22年)を参照すると,明確に「平成2年7月」という日付が書いてあります。つまり1990年です。
 ところが,興味深いことに『情報教育に関する手引』について触れる様々な記事や論文を漁ってみると「1989年」であるとか「平成3年(1991年)」であるとか記録しているものがあるのです。
 実際,私自身(林向達)が所有している実物の冊子の表紙には「平成3年7月」と記載されていますし,奥付の発行年は「平成3年8月30日」と明記されています(付け加えるなら,私の所有しているものは平成4年に再版したもの)。
 また,丸善が発行している『情報教育事典』の項目「情報教育の手引き」では,「平成3年8月に文部省が作成した冊子体資料は…」と記述しています。
 さらに,文部科学省のWebサイトに掲載された会議関連の配布資料の中にも「平成3年7月」と明記されたものがあります。

 ここまでの事実を総合すれば,次のような単純な推測ができます。「平成2年に出来上がった手引の内容を印刷発行したのが平成3年である」と。
 Webで公開することが一般的ではなかった時代ですから,そのようなズレがあっても不思議ではありません。
 だとすれば,「平成2年(1990)」と「平成3年(1991)」の混乱はこれが理由となるのでしょう。「1989年」になってしまった理由についてははっきりしませんが,年号と西暦の変換間違いかも知れません。

 しかし,この話には続きがあります。
 内容の完成と冊子の発行がズレたという説にも疑問を投げ掛ける記録が残っているのです。
 「平成2年7月」の日付で冊子化された『情報教育に関する手引』のことを紹介している記事が存在します。文部科学省が発行していた『教育と情報』平成2年11月号には,表紙の写真付きで『情報教育に関する手引』の内容と出版社と値段まで明記されているのです。
 その痕跡は「平成3年7月」と表紙に印刷された実物の冊子にも残っています。文部省初等中等教育局長が記した「まえがき」の日付は「平成2年7月」なのです。
 ということは,冊子には2つのバージョンがあるということでしょうか。しかし,残念ながらそのことを説明できる情報を見つけられていません。もし,単純な誤植であるならば,再版時に訂正されなかった理由が謎になります。

 『情報教育に関する手引』について指し示す場合,内容が完成したことを説明したいのであれば「平成2年7月」を使用するのが妥当ですが,広く流布するための冊子が発行したのが「平成3年7月」と考えるべきなのか,「平成2年7月」(あるいは平成2年内)と考えるべきなのかは,調査を続けているといったところです。  
 
(2012年3月1日初出:3月22日ノートへ転記)

【後記】20120322
 この「歴史のシミ」について、いろんな方からの情報のもと、印刷冊子には2つのバージョンが存在したという結論にいたります。つまり、「平成2年7月」表紙の白表紙(内部用)版と、「平成3月7月」表紙の市販版です。
【追記】20121221
 なお,現行『教育の情報化に関する手引』は開隆堂から印刷冊子が販売されています。
 
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『デジタル社会の学びのかたち 教育とテクノロジの再考』

新バージョンが出ています。


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  A・コリンズ/R・ハルバーソン 著(稲垣忠 編訳) 『デジタル社会の学びのかたち 教育とテクノロジの再考』 北大路書房 http://www.amazon.co.jp/dp/4762827908

 新しい書籍が出ます。

 

 ”Rethinking Education in the Age of Technology: The Digital Revolution and Schooling in America”(→amazon.com)という洋書の翻訳本です。

 教育とテクノロジの関係について様々な見解が飛び交っているようですが、じっくりと深く考えてもらえているかどうかと問えば、残念ながら、印象や直感、あるいは個人的経験から意見を述べるものが多いのではないでしょうか。

 この書は、アメリカの事例や歴史を用いてはいますが、この問題を深く掘り下げた内容となっています。  米アマゾンでの評判も悪くないですし、翻訳版には日本の読者向けの座談会記録も用意されていますので、この分野に関心のある方は是非。推薦のことばを引用します。

 

推薦のことば

 「コリンズとハルバーソンは、学校をデジタル時代に連れ出すために、さらには学校を超えて、テクノロジが教育を豊かにするための、大胆なビジョンを示している」
 アダム・ガモラン ウィスコンシン大学マディソン校教育学部長

 「学校は問題を抱えたコンセプトである。コリンズとハルバーソンはなぜそうなのか、 私たちには何ができるのかについて、確信をもっている」
 ロジャー・シャンク 元エール大学およびノースウェスタン大学元教授  『学習・eラーニング・研修におけるストーリーと学習』の著者

 「学校の内外で行われたここ何十年かの研究を描くことで、コリンズとハルバーソンは、テクノロジが現在の教育に対してどのような課題と、新たな機会を投げかけているのかについて、鋭く、一貫性のある分析をしている。テクノロジに満たされた世界を生きる将来の世代が何をするべきか、関心のある親、教育者、学生にとって読んでおくべき1冊である」
 カート・スクワイア ウィスコンシン大学マディソン校  『コンテンツからコンテキストへ −−経験をデザインするテレビゲーム』の著者

 「力作だ。著者は広範な事象を取り上げるだけなく、それを深いレベルでまとめあげている。鋭く(時に息をのむほどの)洞察を、現在の苦境にあえぐ教育に投げかけている。それは、デジタルという特権を与えられたテクノロジ・リッチな日常生活と、私たちが学校とよぶ、時代遅れの産業モデルの学習との間で綱引きが起きているという真実である。私は本書を教育について真剣に考えているすべての人に勧める。歴史的な事実としてだけでなく、未来の世代を担うすべての人々、教育学や社会学を学ぶ者、教師、親、デザイナー、生涯学び続ける人々への願いでもあるからである。コリンズとハ ルバーソンは今日のグローバル化・ネットワーク化・『フラット化』(フリードマン)が進む社会において新たな『ホーレス・マン』に十分なり得るのではないだろうか」
 コンスタンス・ステインケラー ウィスコンシン大学マディソン校  『教育工学としてのMMOG(多人数オンラインゲーム)』の著者

 「学校の外で、あるいは生涯にわたって学習者に広がりつつあることをふまえて教育の本質を再考することは、今世紀に私たちが取り組むべき中心的な課題の1つである。コリンズとハルバーソンは、第2の教育革命を描いている。テクノロジをいかした社会デザインがもたらす価値や機会が、どのように学習環境をこれまで主流だった『学校』から拡張されていくべきか、そしてされていくのかを示している。教育に関心のあるものすべてが読むべきだ」
 ロイ・ピー スタンフォード大学  『テクノロジ・平等性・学校教育』の著者

 この翻訳本は、稲垣忠先生に声をかけられた仲間で作業しました。

 稲垣忠(東北学院大学)

 亀井美穂子(椙山女学園大学)

 小川真理子(椙山女学園大学)

 林向達(徳島文理大学)

 金子大輔(北星学園大学)

 益川弘如(静岡大学)

 藤谷哲(目白大学)

 深見俊崇(島根大学)

 というわけで、私もお手伝いをさせていただきました。いやはや、大変な作業でした。共同作業のおかげでなんとか終わったようなものです。

 そんな苦労の末の一冊、ぜひご一読を。

研究発表「日本の教育情報化の実態調査と歴史的変遷」

 徳島県FS実証校である東みよし町立足代小学校の公開授業の翌日に岡山大学へ移動して,JSET(日本教育工学会)研究会で研究発表しました。

20121027 日本教育工学会研究会@岡山大学
林向達「日本の教育情報化の実態調査と歴史的変遷
 日本教育工学会研究報告集, 12(4), pp139-146
発表原稿PDF
https://dl.dropbox.com/u/6195338/rin_jset20121027.pdf
(Googleドライブ:https://docs.google.com/open?id=0BxBSvLJGifj0S1RrZ3JRMWs4SGc)同一ファイル
発表スライド
http://www.slideshare.net/kotatsurin/jset20121027
(グラフ:編集利用可能)
コンピュータ整備台数内訳.ai
https://docs.google.com/open?id=0BxBSvLJGifj0SmRDZDJIQ1VON28
コンピュータの周辺機器台数.ai
https://docs.google.com/open?id=0BxBSvLJGifj0UTNubVhrcV9RTkE

 文部科学省が昭和62年度から継続して行なっている教育の情報化の実態等調査について,コンピュータと周辺機器の整備について過去のデータを整理しグラフ化したのと,1985年以降の教育情報化に関する歴史年表をまとめたものです。
 電子黒板や1人1台端末,デジタル教科書といったキーワードで人々の関心が高いはずの「教育の情報化」という領域ですが,実はその実態や歴史を知る手ごろで正確な情報はほとんどありませんでした。
 実態に関しては,毎年調査結果が更新され提示されていますが,文部科学省が出す資料のグラフをコピペするだけでは見えないものもあります。今回はコンピュータと周辺機器に絞って,経年的かつ視覚的にも実態が反映されるようにグラフ化しました。
 歴史に関しては,強いて挙げれば文部科学省「教育の情報化に関する手引」という文書が,教育の情報化の進展に関して解説していますが,それを除けば,年表を掲げて広い範囲を概観しているものは,ほとんど無いと思います。
 まあ,忘れたい過去もたくさんありますでしょうが,逆に,たくさんの取組みをちゃんと繋げて見る努力も必要で,今回作成した年表はそのための基礎資料となるはずです。

 この研究は,もうしばらく集中的に情報収集して,データを充実させていこうと思います。そのあとはライフワーク的に史的記述を進めていければと思っています。
 なお,年表作成にあたっては細心の注意を払って情報の確認をしているつもりですが,紙面スペースの関係上,言葉足らず情報が不足していたり,誤解を招く部分があったり,明らかな間違いもあるやも知れません。お気付きの点ありましたら,ぜひ情報お寄せください。