研究発表「アブダクション習得としてのプログラミング教育の検討」

日本教育工学会 研究会発表 20190309

林向達(2019) アブダクション習得としてのプログラミング教育の検討.
日本教育工学会研究報告集, 19(1): 651-658.

報告集原稿
https://drive.google.com/file/d/1aAtpf6Aed5BGgni9yWbAtDyZZgM74x0a/view

発表スライド

アブダクション習得としてのプログラミング教育の検討 @Google Slides


curriculumとpathway

日本教育メディア学会年次大会2日目。

朝の身支度に時間がかかり遅れて会場に着く。課題研究1「情報活用能力の育成に資するメディアを活用した教育実践」に加わって,発表や議論を聞いていた。

小学校外国語やプログラミング教育に隠れてしまいがちであるが「情報活用能力」という言葉が学習指導要領に登場するのは平成29年版が初めてとなる。

平成元年の中学校「技術・家庭科」における選択領域「情報基礎」の導入や平成11年の高等学校・普通教科「情報」の新設といった改訂を経て,およそ30年もの歳月をかけて学習指導要領の中に「情報活用能力」という言葉が入ったことになり,確かに今さら感も強い。

ようやく正式な学習指導要領上の文言となった「情報活用能力」を,どのように学校の教育課程の中に位置づけるのか。情報活用能力育成のためカリキュラムの模索が一層活発化しているのは確かである。

課題研究の議論でも,デジタル・タキソノミーを援用した情報活用能力モデルカリキュラムの開発について報告があったことから,体系的なカリキュラムデザインやカリキュラム・マネジメントについて言及された。

教科横断的な資質・能力を重視した学習指導要領の実施を目前に,学校におけるカリキュラム・マネジメントのもと,教育課程をマッピングしながら矢印を結ぶ作業が,先進校を中心に行なわれている。

そんな試みをあれこれ見ていると,それに「カリキュラム」という言葉をそのまま使っていてよいものか,ふとした疑問も湧く。

やりたいことは「カリキュラム」(curriculum)という体系なのか。

むしろ「パスウェイ」(pathway)といった道筋を描きたいのではないか。

中教審答申において学習指導要領を「学びの地図」と表現していたが,そのメタファを活かすならば,地図におけるそれぞれの目的地へのルートを探索しているか,その候補を生成しようとしているのかも知れない。

付け加えるならば,この場合,単に人力のルート探索をするというだけでなく,辿ろうとする道筋のイメージ(通過する場所や続く景色の様相への想像力)を持っておくことが大事になる。

これまでも教科書会社の教師用指導書がモデルコースや指導のルートを提案してきた。けれども,あらかじめしつらえられたコースやルートを辿るだけでは立ち行かなくなってくるのが新しい学習指導要領の考え方ではないのか。

そのため先生たちは,自分自身で目的地まで辿ることが出来る力能を持たなくてはならない。地図を読み取って,どの道を選択するのか判断する際に,どこをどう通過することで学習者にとって豊かな学習のパスウェイ(軌跡)になるのかという想像力が必要なのだと思う。

学びを旅路に喩えるならば…

あらかじめ決めたルートやコースで充実した旅もある程度可能かも知れないが,相手の嗜好に合わせてガイドをしながら旅路を紡ぎ出すことで,より学びを深める機会となるのではないか。

こう考えると,カリキュラムという言葉で考えるよりも,パスウェイという言葉で考えていった方が,学校の先生方にとって(それを感得するまで遠回りかも知れないが)今後より必要となる職能を得るのに適しているのではないかと思われる。

そもそもカリキュラムでは大き過ぎて個々の先生方には荷が重いはず。

カリキュラムからパスウェイへ。発想の転換も必要かなと考えた学会参加だった。

教員のメールアドレス

2018年8月29日に「学校における教育の情報化の実態等に関する調査(平成29年度)」の速報値が公表されました。
コンピュータを始めとした機器の設置台数やインターネット接続状況,および,教員のICT活用指導力について悉皆調査したものです。

この実態調査は昭和62年から始まっていますので,調査結果を経年的に追うことは,ほぼ平成30年間の教育情報化の変遷を追うことだと言えます。もっとも実態調査には,質問項目設定や調査実施実態,調査結果処理などに不明点や課題が多く,日本の学校情報化のおおまかな傾向を知ることはできても,細かな数値を検討することにはあまり向かない問題点も残ります。

とはいえ,こうした実態調査の公表内容から,文部科学省といった行政側が教育の情報化について何を着目しているのか知ることはできます。

たとえば,平成29年度調査で「SIM内蔵PC等」についての質問項目が追加されたことが速報値資料からわかります。つまり「SIM内蔵」端末がこれから学校現場に入っていくことを想定していることになります。

また,昨年度の調査結果報告から周辺機器の導入台数が削除されました。プリンタやデジタルカメラといった周辺機器に関しては,重視しなくなったということを読みとることができます。

調査結果の公表方法にも,文部科学省や関係者の意図が働いています。たとえば,なかなか進まないICT環境整備を奨励するために,昨年から都道府県と市町村ごとの整備率を比較できるように資料公表するようになりました。

比較の指標は「教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数」「普通教室の無線LAN整備率」「超高速インターネット接続率(30Mbps以上)」「普通教室の電子黒板整備率」「統合型校務支援システム整備率」「教員のICT活用指導力」が取り上げられています。

これらの指標が指し示す環境整備は確かに重要であり,新しい学習指導要領に基づく学校教育を支える基盤としても求められています。

ただ,あらためて考えてみると,過去ずっとこのようなタイプの環境整備を求め続けてきたように思えますし,内容は「ハコモノ」発想といえなくもない。

かつてコンピュータのハードウェアは予算化され導入してみたものの,ソフトウェアまで手が回らなかったことを反省し,ソフトウェア予算を重視する流れが生まれたことがありました。実態調査もソフトウェアに関する項目が加えられていたのはそういう流れがあったからです。

いまはインターネットの時代となって,私たちは何かしらのアカウントを利用することが当たり前となりました。たとえばメールアドレスについても実態調査には項目が設定され調査結果が公表されています(上図)(経年データ)。

さて,平成も最後となるこの機会,全教員にメールアドレス付与することを採用自治体(主に都道府県レベル)に必須化するよう勧告すべきと考えます。

現在は小中高校等の全教員数でいうと67.8%がメールアドレスを付与されている状況。
学校別では,小学校で57.3%,中学校で57.1%,高校で95.3%,特別支援学校で90.5%という付与率です。

単に付与されればよいというわけではありません。

この調査では「どこから付与されたか」がわかりません。

ご存知の通り,教員異動は市町村をまたいで都道府県内を動くことがあります。これは県費職員として採用され,異動ごとにそれぞれの市町村自治体に所属する場合があるからです(実際の教員採用や雇用形態は様々です)。
市町村レベルでメールアドレス発行すると異動のたびに,アドレス変更手続きが発生することになり負担です。そもそもメールアドレスを発行する余力の無い市町村もあります。

これを都道府県レベルで発行する方針にすれば,市町村の違いなく一元的に都道府県下の全教員がメールアドレスを利用できることになります。すでに大分や埼玉でこうした事例が展開しています。

ある程度の規模の企業なら,入社すればその企業でメールアドレスが発行され付与されるのは当たり前の時代です。情報活用能力を育成することが目指されているご時世でもあるのですから,教員一人一人がメールアドレスを付与されるという状況に置かれて,それをどう扱うべきかを自分たちが校務等の中で経験的に学び蓄積していくことも重要です。

教員がメールアドレスを持って何をするのか,懐疑的に考える人々が多いことは承知しています。

たとえば,教員がメールアドレスを持つと,保護者からの連絡を受け取らなくてはならなくなり,対応に追われてしまうのではないかという想像が膨らむのが一般的に多いようです。

しかし,教員のメールアドレス所有,すなわち,保護者に公開してメール受信という流れを選択する必要性や必然性はありません。

教員メールアドレスは,校務での利用を中心にデザインしつつ,研修や研究関係の対外連絡用,教育・教材サービス利用の登録用などに活用することを奨励していけばよいのです。児童生徒や保護者からの連絡の受け取りは別の方法を用意することで全体のバランスをとるべきです。

ICT環境整備は,ハードウェアを揃えることが目に見えることもあって分かりやすいのかも知れません。しかし,クラウドが当たり前になってきた今日では,端末整備よりもアカウント整備をどうするかが遥かに重要になってきています。

教員のメールアドレス(メールアカウント)をどのように設計して,どのようにインフラとして提供するのか。この問題は遅かれ早かれ直面する問題なのですから,文部科学省・総務省・経済産業省はもっと明確に都道府県レベルでの教育職員へのメールアカウント付与を勧告すべきです。

平成30年間を振り返って,教育情報化が螺旋階段を上りつつも,なかなか上手くいかないのはどうしてなのかを考えると,こうした基本的なステップを避けたままだからだと思わざるを得ないのです。

「プログラミング」を考える

2018年8月11日に行なわれた三重県教育工学研究会の夏季セミナーに参加してきました。

「新時代の教育を切り拓く プログラミング教育を探る」というテーマで企画され,「子どもが主役のプログラミング教育で学びを深める」と題して開催されました。授業実践事例の報告とプログラミング教育に関する講演,パネルディスカッションが行なわれました。

ふらっと参加したのですが,お声掛けしてくださる方々も多くて,思わぬ歓迎を受けたりしてました。

講演では,千葉県柏市の教育研究所にいらっしゃる西田光昭先生が,プログラミング教育に関する最新動向と柏市での長年の取り組みを紹介されました。パネルディスカッションでは,NPO法人みんなのコードの竹谷正明先生と亀山市立能登小学校の谷本康先生が議論を展開しました。

企業ブースも多数参加があり,各社PRで製品に触れる機会もあり盛りだくさんでした。

こうしたセミナーのような場を粘り強く展開することは大事なのだなとあらためて思いました。

さて,プログラミング教育。

最近は,関連ポータルサイト(「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」)もインタビュー記事を掲載するなど情報発信にも力が入ってきたようです。

プログラミング教育について書くと,二文目には否定的なことを書いてるんじゃないかと思われがちですが,それは私の職務上,疑問を投げかけることから思考を発動させるのが定石になっているからです。

実は,夏季セミナーのパネルディスカッションで,発言する機会をいただきました。

登壇者の発言をフムフムと聞いていたものですから,そのタイミングで気の利いた質問を用意するのがとても難しく,また思い付いた言葉を唱え始めてしまいました。

曰く「なぜプログラムではなくプログラミングという言葉なのだろう。あるいはプログラミングという言葉は消えて使われなくなるのではないだろうか」とか。

頭の片隅で「このセミナーは先生たちが集まっていて,これからどうプログラミング教育すればいいかを学びに来ているのだ」と分かっていたというのに,どうしてこうも自分は疑問を呈する思考回路の持ち主なのか,自分でも困ってしまいます。

私がそのとき抱いていたのは,西田先生がお話しされていた「プログラミング教育を普及させるために先進・先導事例を通して多くの人の理解を得る」必要性に対して,多くの人の理解を得る際に提示されるイメージがもっと鮮明でなければならないのでは?という疑問でした。

つまり「プログラミングって何?」という問いで生起するイメージを共有できるかどうかです。

そのとき「プログラミング」という言葉を使っていることの不思議さも感じないわけにはいかない。

たとえば音楽に喩えるなら,私たちは「作曲」に相当する言葉を使っていることになります。「作曲教育」自体は大変興味深い議論対象ではあるけれど,それは普通の感覚で考えたとき,音楽の範疇で最優先に取り組まれるべき事項だろうか。大概は,作曲する前に「鑑賞」することを優先するのではないか。

これをプログラミング教育に引き付けて考えるとき,私たちは「プログラミング」よりもまずプログラムを「観察」することから始めているのではないか。「プログラム観察」を経て,やがて「プログラム作成」を体験するという区分を明確にすることが必要なのではないかとも思えてくるのです。

「プログラミング教育とは,プログラム観察とプログラム作成の体験と学習から構成される」といった暫定的な共通イメージを描く必要があるのではないかという問題提起です。

もちろん,プログラム観察とは何か,プログラム作成とは何かという,さらなる描き込みは必要になりますが,プログラミング的思考なる言葉で煙に巻くよりは潔いのではないかと考えます。

こうして考えていくと「プログラミング」という言葉が代表面して学習指導要領に書き込まれるのは今期改訂の範疇限りで,次期改訂の際には「プログラミング」という言葉は消えて「コンピューティング」という言葉が後継候補に上っているかも知れません。仮にプログラミングという言葉が残ってもコンピューティングの中の一部分として登場する位置付けになると思います。

そんなことを夏季セミナーに参加しながら考えていたわけですが,今一度,現時点で何をすべきかということに頭を切り替えるなら,先生方は,徹底的に「プログラム観察」をすることかなと。私たちの日常生活に潜んでいるたくさんのプログラムを掘り起こして再認識するだけでも,大変な作業です。

そのうえで,プログラム作成に挑戦すると,観察の成果が生きてくるかも知れません。

研究発表「Computational Thinkingに関する言説の動向」

日本教育工学会 研究会発表 20180527

林向達(2018) Computational Thinkingに関する言説の動向.
日本教育工学会研究報告集, 18(2): 165-172.

報告集原稿
https://drive.google.com/open?id=1RlR0G1frJ0yorGQL8zUJGo1YcEoGKaW9

発表スライド

Computational Thinkingに関する言説の動向 @Google Slides


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