学習場面の類型化はバラバラに…

 

 2014年6月21日にNew Education Expo 2014 in 大阪の国際セッションに登壇させていただきました。

 当日は日本における教育情報化の施策についてご紹介する役目だったのですが,相変わらず語りまくり,韓国からのゲストに通訳する人にご苦労かけてしまいました。付き添っていた大学院生の方に「先生,すごく早口…」とチクリ言われてしまいました。>_<;

学びのイノベーション事業の実証研究報告書は,分厚くて読むのが大変とはいえ,その後あんまり話題にならないので,私なりに活用方法をご紹介しました。

 「教育の情報化ビジョン」で示された「一斉学習」「個別学習」「協働学習」のイラストをバージョンアップし,事業で実践された事例を踏まえた「学習場面の類型化」として報告書に提示しました。イラストの一覧は概要資料に掲載されています。

 このイラストを眺めているだけでは仕様もないので,雑誌の付録のようにチョキチョキとハサミで切って,バラバラのカードにしていただきたいのです。

 本来であれば,このカードの組み合わせパターンを分析した上で,パターンの法則のようなものをお示ししたかったというのが本音なのですが,それはまた今後の課題ということで,皆さん自身でカードをいろいろ並べながらパターンを生み出していただきたいと考えています。

 21世紀型スキルを踏まえた授業づくりは,「前向きアプローチ」と呼ばれる目標創造型の学習活動デザインがイメージされています。あらかじめ目標が決まっている目標到達型の学習活動をデザインする「後ろ向きアプローチ」(あるいは逆向きアプローチ)とは異なります。

 これまではどちらかというと(目標から学習活動を導き出す)後ろ向きアプローチが授業づくりになじみがあったわけですが,(個々の学習者の学習現在地点から望ましい目標を紡ぎ出す)前向きなアプローチも組み合わせていくことが求められています。

 その上で評価についても,知識が生み出され構築されていくことを評価できる「変容的な評価」というものを受け入れていく必要があります。

 この「変容」という言葉は難しいのですが,評価の物差しが人によって伸び縮みするという意味ではありません。むしろ,多種多様な物差しを駆使して,適切な評価が可能になるように組み合わせを変えていくことにイメージが近いと思います。

 学びのイノベーションの学習場面一つ一つや,状況に埋め込まれる変容的な評価の細かな一つ一つも,いままで見たこともない新たなものが持ち込まれるというわけではありません。それらを学習者中心にどう組み合わせて配置し,配置替えし続けていくのか,その基盤と営為を学校教育に持ち込むことこそ重要なのです。

 学びのイノベーション事業は,フューチャースクール推進事業と合わせて展開していたこともあり,教育の情報化やICT機器活用といった側面が強烈に目立っています。学習場面イラストもほとんどがICT機器の利用シーンを描いたものです。

 もうお分かりかと思いますが,学習場面でICTを活用するか否かも,また組み合わせの問題であり,紡ぎ出す目標に応じて要不要をデザインしていくことが求められています。

 学校教育が担うべき新たな教育学習活動を支える基盤や道具としてICTは有用ですし,変容的な評価を可能にするためにもテクノロジーは多いに活用すべきでしょう。教育におけるICT活用の推進は,その可能性に対する国の条件整備として行なわれれているものです。

 その上で,学校での教育と学習においてICTをどのように活用していくのか,目的目標等に応じて吟味していくことが望まれるのです。  

教育系SNSは日本で普及するのか

 教育系SNSとは,教育利用に特化したFacebookあるいはmixiであると喩えることが出来ます。教育に特化しているわけですから,そこには授業や教育課程,評価などの要素が加わっているわけです。

 教育系SNSは,授業支援ばかりでなく,授業と家庭学習をつなげたり,先生同士をつなげて教育リソースを交換するなどの手助けをしてくれます。また保護者を招き入れて授業の進捗を見てもらったり参加してもらうことも出来ます。

 古くは「学級王国」と揶揄され閉鎖的だと批判もされてきた日本の学級も,新しい指導方法やツールによって,ますます世界に開かれるとともに,そのような世界に抗していく弛まぬ努力がいままで以上に必要となってきているのです。

 教育系SNSは,一般的なSNSほど外界と接続するわけではない点で,公道ではなく自動車教習所のような空間になり得るのかも知れません。SNSの持つ利便性を教育学習に生かしつつも,その光と影を学ぶことが期待されているのだと思います。

 「教育系SNS」は,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・システム/サービス)が注目をされてからの言葉ですが,これと似たものはeラーニングシステムなどに見られます。  専門的にはLMS(ラーニング・マネジメント・システム)あるいはCMS(コース・マネジメント・システム)といわれるシステムの中に含まれ,古い呼び方をするなら「電子掲示板」によるソーシャルなコミュニケーションの展開が企図されていたわけです。

 現存するものは,だいぶ現代風になって柔軟に使えますが,当時のシステムはメニューや機能の区分あるいは場所が決まっており,レクチャーとコミュニケーションを有機的に繋げるのが難しい代物でした。掲示板に書き込むことも敷居の高さがありました。

 それがSNSといったコミュニケーション手段の台頭で,ネット上でのグループ対話のしやすさが増したように思われます。Twitterが「つぶやき」という考え方を前面に出したことで,素朴な疑問を文字にする活動に力を与えたともいえます。

 それまでは高等教育や先進的な高等学校で使われるのがせいぜいであったLMSでしたが,教育系SNSの登場によって,小中学校段階での活用にも可能性が見いだされてきました。

 教育系SNSが盛んなのは,やはり米国です。  大小様々なサービスが展開していますが,有名なのが「Edmodo」と「Schoology」の2つです。どちらも日本語化されており,日本からも利用できます。

 もっとも,どちらも日本語化については言語切り替えに対応したという段階で,サービス全体が日本語化しているというわけではありません。しかし,さすが大手の教育系SNSだけあって機能はどちらも充実していて使いやすいです。

 ちなみに,EdmodoはFacebookにイメージがよく似ており,シンプルな使い勝手です。Schoologyはコース概念をハッキリと打ち出して,LMS的な使い方にも対応しているといった印象です。それぞれの長所短所があります。

 日本産の教育系SNSも登場してきていますが,Edmodoの日本語化によってサービス強化の動きも強まっていくのかも知れません。機能競争はもちろんですが,むしろ日本の学校で使ってもらうためには学校の実情に合わせてサービスを手厚くできるかどうかも問われてくるわけで,単に高性能であればよいということはありません。

 教育系SNSが日本の学校に普及するのかどうか。

 もちろん,学校のICT環境整備に大きく影響を受ける事柄です。月並みに書けば,現在のところは,まだ普及を議論することさえできないといった段階。

 しかし,情報端末とネットワークを組み合わせる利用方法において,自分たちの活動を記録する場所をインターネット上に確保する必要があることも事実で,その選択肢の一つが教育系SNSであるということも確かなことです。

 今後どのように利用したらよいのかを研究していくことは大変重要だと思います。

「教育と情報の刊行物探訪」の本音

 ニューズレター「教育と情報の歴史通信」第2号を配信しました。

 今回の冒頭コラムでは,教育と情報を主題にした定期刊行物について振り返ってみました。私が知り得る範囲でどんな刊行物があったかを表にまとめてあります。

 各刊行物の刊行期間をあらためて確認していたのですが,それだけでも結構大変な作業になってしまいました。日頃からまとめておかなかったツケが回ったわけです。しかし,こうして表にしてみると,刊行数は多いような少ないような。でも感慨深いですね。

 『NEW教育とコンピュータ』の休刊はまだ記憶が新しいとばかり思っていたら,もう7年前のことになります。その後,この分野の市販定期刊行物はありません。ほとんどが企業PR誌であるのはコラムに書いた通りです。

 印刷媒体の方が残り方が成熟していると書いたものの,実はこの話には続きがあって,企業PR誌がメインとなっている現状には問題があると書きたかったのです。

 企業PR誌は,広範に配布しているものも少なくありませんが,たとえば国立国会図書館に納本されているものはほとんど無く,企業側にもバックナンバーが無い場合もあり,最初に入手できなければ,後から遡って参照することが電子情報以上に困難な場合も少なくないのです。

 所詮は企業PR目的の媒体なのだから,保管価値はないという考え方もあるかも知れません。しかし,ときどきの実践記録やICT活用事例を掲載しているのは確かですし,ものによっては専門家や研究者による解説も掲載している場合もあり,一般定期刊行物が少ない今日においては,責任を持って残しておく努力も必要なのだと考えます。

 国立国会図書館が企業PR誌の納本を受けつけていないことも考えられるため,調べて対策を考えないといけませんが,とにかく何らかの形でこれらの情報が集約され共有されるように努力する必要があると考えます。

 刊行物探訪には,まだまだ語るべきことがありますが,それはまた続きのコラムでゆっくりと書ければと思います。