iWork for iCloudが意外とよい話

Appleはこの名称をあまり使わなくなっていて、現在は Pages, Numbers, Keynoteと各アプリの名称を並記する場合が多くなっています。ご存知、Apple社が開発提供している事務仕事系アプリ群のことです。

iWork for iCloud
https://www.icloud.com
Pages
https://support.apple.com/ja-jp/pages
Numbers
https://support.apple.com/ja-jp/numbers
Keynote
https://support.apple.com/ja-jp/keynote

Apple社の端末用に提供されているアプリですが、かつてはバラバラに有償販売されていました。それがワンセットで販売される際に「iWork」と名付けられ、やがて無償提供されるようになったという歴史があります。

基本的にはAppleデバイス専用のアプリという位置づけであり、他のプラットフォームのユーザーとの受け渡しを考慮すると、あまり広範には使われない印象があります。つまり、内輪で済ませられる用途にちょっと使う…くらいな感じです。

ちなみに主要プラットフォーム上のアプリは次のような対応関係になっています。


 Microsoft社

Google社

Apple社
Office 365Google WorkspaceiWork
ワードプロセッサWordドキュメントPages
表計算ExcelスプレッドシートNumbers
プレゼンテーションPowerPointスライドKeynote
クラウドストレージOneDriveGoogleドライブiCloudドライブ

ワープロ文書は、Word形式を扱う機会が多いと思います。アプリのシェアから考えて、自然とそうなると思います。

ただし、完成した文書の配付や閲覧目的であれば、変換してPDF形式を用いることも多いでしょう。印刷レイアウトを正確に再現できる点からも、編集目的がなければ、むしろPDFの方があり難いくらいです

昨今はChromebookの採用も増えてきましたし、クラウドで文書共有することも当たり前になってきました。そのためGoogleの各サービス利用も増えてきました。Webサービスですから、マルチプラットフォームですし、クラウドに自動保存される利便性もあります。

以上のことから、仕事相手もマイクロソフト系ユーザーならOfficeをベースに、相手がGoogle使っていそうで気軽に作業を始めるならWorkspaceをベースに、という使い分けで事足りそうです。

OfficeとWorkspaceは一長一短

普段はOfficeかWorkspaceかの使い分けで済ませられます。

しかし,問題は、Webアプリ版(クラウドバージョン)です。

Webアプリを含めて検討すると,この2つは一長一短なのです。

Office 365の場合

Office365アプリは、専用アプリだと,確かにマルチプラットフォーム対応しています。

プラットフォームの違いによって専用アプリ自体がサポートできる機能に違いが生じてしまう技術的制約はありますが,できるだけファイルの互換性を保ちつつ、可能な限り個別のプラットフォームで快適に使えるよう頑張ってはいます。

ただし,Webアプリ版はそのレベルには達していません。

以前に比べると改善の努力は見られますが、基本的にWebアプリ版のOffice365は未完成。

正確にいえば、専用アプリと連携して使うにはバランスが悪いのです。既存のファイルに対するフォントやレイアウト処理が不十分で、ビューアとして使用することもあまり期待できないレベルです。

専用アプリで作成したものをOneDrive保存によるクラウド経由で開こうとすると、期待通りに再現してくれないことがあります。

たとえばWordの場合,段組みがサポートされていません。テキストボックスもサポートされていないので,Webアプリ内では画像として扱われ,位置によってはかなりズレて配置表示されます。新規でテキストボックスは追加もできません。ただしPowePointの場合は,テキストボックスも図形も扱えますので,そういう意味でもWebアプリ版は完成度がバラバラな未完成な状態というわけです。

最初からWebアプリで新規作成し,Webアプリ単独で使う分には、その範囲内で不満なく使うことが可能だと思います。誰もWebアプリ版は使わないから関係ない、と済ますことも出来ます。

しかし、クラウドのご時世ですから、Webアプリ版もある程度の完成度を高めて、連携利用が満足できるレベルにしてもらえた方がよいように思います。

Workspaceの場合

一方、Workspaceは、もともとクラウドベースのWebアプリサービスです。

最初からWebアプリベースで作業することを承知で利用するので、緻密なレイアウトを要求するレベルでなければ、かなり汎用的に利用できます。

ただし,Webブラウザや端末の種類・性能に強く影響も受けることも事実です(これは他のものも同様です)。

たまに入力や編集の作業でWebアプリの挙動が期待通りに動かなかったり不安定になることがあるという弱点もあります。特に共同編集の場合には混乱に拍車が掛かることがあります。

Workspaceは,個々のWebアプリとしての完成度は高い方ですが,たとえば図形描画を例にとると,ドキュメントの場合とスライドの場合とで扱われ方がまったく異なります。この不統一は,大いに問題です。

また,完成度が高いといっても機能が豊富という意味ではなく,むしろ機能はミニマムで,まだこれから機能追加される状態にあるともいえます。いわゆる「ベータ版文化」の色が残っていて,常に改変が行なわれるがゆえに,不安定になることも覚悟しなければなりません。

さらに、GoolgeサービスをiPad OSで利用する場合に特有のことですが、Google WorkspaceをWebブラウザ(Safari)から利用することが難しくなっています。利用できないわけではないですが,専用アプリに飛ばされてしまうように作られていて,面倒くさいかも知れません。かといってiPad用の専用アプリは完成度が低いため、フル活用することが難しくなっているのです。

自分が使う範囲で問題が発生しなければOfficeとWorkspaceのどっちかを選んで使えばよいだけなので、ここでいう一長一短にさして実害を感じない場合がほとんどだと思います。

けれども、道具は幅広く試してみて、可能性を広げておくことも大事です。

実は、ここまで触れずに残っていたiWorkは、意外とよい選択肢かも知れないからです。

iWorkはアプリとWebの連携がスムーズ

Apple社のiWork(Pages, Numbers, Keynote)の専用アプリは、Apple社の端末にしかありません。

WindowsやChromebookで利用するにはWebアプリ版(for iCloud)を使うことになります。しかし,先ほどからWebアプリ版にはいろいろ問題があると書いてきました。

iWork for iCloudにも問題があるのではないか?

実は,iWorkのWebアプリ版は、専用アプリとスムーズに連携するように作られています。

Webアプリ版のレイアウト性能は一番高いといえるかも知れません。しかも,Pagesの場合とKeynoteの場合とで図形描画の扱いが変わってしまうなんてことはありません。統一されています。その点でもOffice 365やWorkspaceと異なります。

また,文書などの見栄えが、専用アプリとWebアプリ版とでほぼ同じになるように完成度を高めています。

もっとも、これにはカラクリがあって、iWorkの専用アプリ自体がシンプルなので、複雑な機能がない分、Webアプリでも機能を再現しやすいのです。もちろん完ぺきではなく,専用アプリで実装されている機能の一部(たとえば縦書きのテキストボックスなど)は,Webアプリ版で利用することが出来ません。

使ってみれば分かりますが、シンプルとはいえ、表現機能に柔軟性があるので、かなり自在な文書作成が可能です。

フォントもAppleデバイスで利用できる「ヒラギノ」シリーズがちゃんと用意されています。それも見栄えの統一性や再現性の高さに貢献しているのだと思います。

WindowsやChromebookからiWorkを利用する場合,別途AppleIDの登録が必要になりますが、それだけでWebアプリ版の完成度の高いiWork for iCloudを利用できるのですからお得です。

作成した文書はPages, Numbers, Keynoteの各形式はもちろん、Office 365用の形式でダウンロードも可能ですし、PDF形式でダウンロードすることも出来ます。

Webブラウザや端末の種類・性能に影響を受けるところは他と同じですが、それを差し引いても、作成する文書の見栄えを重視しながらマルチプラットフォームで利用できるものはiWork for iCloudがおすすめだと思います。

徳島県立高校 学習用端末を知ろう

関連INDEX

この記事自体は県立学校が導入したCHUWI UBookについてです。
これとは別に徳島市他が共同導入したCHUWI Hi10Xについてはこちらの記事へどうぞ。

〈追記 20231114〉

〈/追記〉


前回までのあらすじ

以前、GIGAスクール構想実現事業の一環として小中学校に導入された学習者用端末について、徳島県内で起こった端末不良問題をきっかけに取り上げました。

そのブログ記事に追記したように、徳島県では県立高等学校でも学習者用端末を貸与のため導入しました。

入札の公告などは次の通りです。

高校生の投書

2021年7月4日付け徳島新聞の「若い声」欄に、とある県立高等学校の現役高校生の投書が掲載されました。これを紹介したTwitterの写真付きツイートが拡散したのです。

投書タイトルは「物足りぬGIGAスクール」というもの。GIGAスクール構想実現事業の範疇で小中学校に導入された学習者用端末を徳島県では県立高等学校にまで広げたこと。しかし、期待していた端末の現実に失望したこと。また、学校でのインターネット接続速度も十分とはいえず、これではGIGAではなくてKILO、せいぜいMEGAがいいところ。さくさく動くスマホになれた高校生にこれを強制するのはいかがなもので、これに血税を浪費していないか、十分考慮計画された事業だったのかと辛辣な内容でした。

この投書や投書紹介に対して様々な反応がなされたわけです。

そして、その後、徳島県立高等学校に導入された端末について情報提供をいただきましたので、ここでご紹介したいと思います。

それから、新聞に投書した高校生ご本人からのメールをいただき、投書に書き切れなかったお話をいろいろ教えてもらいました。適宜ご紹介します。

徳島県立高等学校で導入した端末

投書の中で、「家で充電できず、キーボードはいかにも安物で使いづらい。スペックは案の定最低レベル」と揶揄された端末はどういうものなのか。

メーカーと機種

前回の記事では、学校で端末を使用している様子を報道したニュース映像から端末を推測しました。しかし、実際に端末を使用している高校生の方から情報提供をいただき、端末が「CHUWI社製Ubook」という機種であることを確認しました。

調達仕様

徳島県で調達する際の仕様に関して、次のような表の情報提供もありました。

OSは、小中高校でWindows10 Proに統一したようです。

充電について

Ubookの充電仕様は、ピンプラグ端子で専用ACアダプタに接続して12V/2Aで充電するタイプ。

小中学校に導入されたHi10Xは、USB-C端子で専用ACアダプタに接続する12V/2Aタイプでしたが、それと高等学校に導入されたUbookでは接続で使うプラグ端子が違っています。

このため、専用ACアダプタを携帯しなければ、家に持ち帰った際に充電できないということになり、投書で指摘していた通りの問題があります。

【新聞投書の高校生さんから…】

このACアダブタの端子が、イヤホンジャックにもささってしまう仕様で、それぞれ端末の左面・右面についているものですから指し間違いが多発するんです。勿論、皆初めて触れる端末で、なおかつ何の周知もされていないので言われないと気づくわけがありません。結局、何回も私と先生で差し替えることになりました。今では皆が気をつけるようになって収まっているのものの、これが新入生が入るたびに起こると思うと、はぁ…と思ってしまいます。

なお、追加の充電アダプタを夏休み前に配布することになったとの情報も寄せられました。

スタンドやキーボードについて

スタンド

Ubookは、マイクロソフト社のSurfaceを模したタブレットPCのため、端末を立てる機構やキーボードについても、Surfaceをマネしようとしたものになっています。

元ネタのSurfaceの場合は本体裏の盤面半分がヒンジ機構で起き上がりスタンドになるデザインですが、さすがに難易度の高い製造技術が必要なので、Ubookの場合は外枠が曲がる形でスタンドを実現しています。耐久性が心配ですが。

【新聞投書の高校生さんから…】

この端末は、サーフェス型で机上に置くときかなりスペースを取ります。そんなに大きくない学習机ですから、まあみんなよく落とします。その時、背面が金属製であるのに対し側面は樹脂製で、当たりどころが悪いとUSBポートの部分が曲がったり、接着が甘いのか外れたりします。明らかに教育現場にはあっていないです。

確かに、このタイプのスタンドだとフットプリント(端末が占有する領域)がどうしても広く必要になりますから、スタンドが机の縁からはみ出て端末が落ちることも多くなりそうです。端末が落下する様子を想像するだけでも寒気がします。

キーボード

また、キーボードはタブレット画面のカバーにもなるタイプで、これを開いて、部分的に磁石で端末と引きつけることでキーボードに高さ(角度)をつけるようデザインされています。このタイプのものはChromebookタブレットでも採用しているものがあります。

このタイプは、どうしても部品が多くなるため、剛性の高いしっかりしたキーボードだと重たくなってしまいます。一方、そこで軽量化を目指すと、逆にキーボードがたわみやすく打ち難いものになってしまいます。新聞投書でも「いかにも安物」と評されていました。

【新聞投書の高校生さんから…】

キーボードで打ち込みを行ったとき、いちいちへこむようになっています。こういった点が「いかにも安物」と感じた所以です。
また、このキーボードは純正の英語配列ではなく、日本語配列のものになっています。互換品を使っている可能性もありますが、アジア合同会社がCHUWI社とのコネクションを持っていることを考えると、特注したものなのかもしれません。

市販品では英語キーボード設定のみですので、日本語配列のものを用意したのは特別かも知れません。私個人的には日本語配列を用意したことは悪いことではないと思っていますが…。

高等学校のインターネット接続環境

この部分に関しては、新聞投書された高校生ご本人の文章を引用します。

【新聞投書の高校生さんから…】

文字数の制約で端末本体の話の後にそのまま書いてしましたが、こちらは端末というよりそもそものネット環境の問題です。
Wi-Fiの機械自体は良いものらしいのですが、そもそもの回線が古いままで、回線がパンクしている状況です。数人が使うくらいなら10Mbps程度でるのですが、クラス全体で使った場合、ひどいと数十Kbpsしか出ません。アプリケーションのダウンロードなんぞしようものなら、数十分はゆうにかかります。自分のクラスが使っていなくても、他クラスが使っていると教員用PCもネットに繋がりにくくなり、困っている次第です。

この他、隣りクラスのWiFiとの混線状況も生じている様子で、ネットワーク環境に関しては、接続が可能という程度でとりあえずは済ませた状態のようです。

投書へのリアクションに対して

Twitterに投稿された元の紹介ツイートはすでに削除されており、Togetterで記録されたものやいくつかのWebサイトで記録されたものが残っているのみです。

今回、直後に巻き起こった拡散やリアクションの大きさには、投書された高校生本人も、また紹介ツイートをした方もびっくりされていたようです。

様々なリアクションに、やはりいろんな思いを抱かれたようで、新聞投書では伝え切れなかったことやネット上のリアクションへの返答も届けたかったそうなので、私に情報を託してくださいました。

その中には、スマホ事情についてのお話もありました。

【新聞投書の高校生さんから…】

リツイートの中にはスマホや自身のPCを使えばいいじゃないかという意見もありましたが、私の高校では、スマートフォンに関しては登校後は電源OFF、PCは持ち込み禁止という規則になっています。先生によっては、臨機応変にスマートフォンでの代替を認めてくれる場合もありますが、全員ではないので、やはり不便です。(私自身のスマホはAndroidのローエンドモデルなので大した性能ではないですが、それでもやはりスマホの方が早いという…。PCは普段インテルcorei7搭載のノートパソコンを使っています。)

その後の学校や教育委員会の対応

高等学校での環境整備はまだ完成しているわけではなく、今後次のような整備が予定されているようです。

  1. 1学期終業式までに、家庭で端末の充電ができるように家庭用のACアダプターを生徒1人に1個貸与。
  2. 夏休み中に、学校のインターネット回線の増強を予定。
  3. 夏休み中に、学校・家庭でより安全にインターネットを利用できるためのフィルタリングソフトを導入予定。

こうした取り組みを保護者に向けて連絡をしたようです。


というわけで、徳島県立高等学校関連の学習者用端末やネットワークについて、Twitterやメールでお寄せいただいた情報をもとにご紹介しました。

予想されたことですが、これらはすべて学校や教育委員会の内部と生徒や保護者といった限られた範囲だけに情報が伝えられただけで、外部にはまったく何も公開されていません。

投書にあったような「血税で賄われている」という意識はそもそも教育分野では希薄だし、学校教育に関わりの無い人間に対してむやみに情報公開する必要はないというのが基本姿勢でしょうから、このまま時が過ぎて終わりそうです。

どんなに酷い状況でも我慢して耐え続けやり過ごすこと。

日本の学校教育でこれまでもこれからも強く推し進められているのは、この基本姿勢であり、今回のGIGAスクールや学習端末関連の出来事においても、それを押し通して児童生徒たちに我慢してもらうことが教育だということになりそうです。

個人的には、とても残念に思いますが。