大阪市 学校教育ICT活用事業

 本年度から大阪市の学校教育ICT活用事業に関わることになりました。新しい出来た小中一貫校である「むくのき学園」(大阪市立啓発小学校・大阪市立中島中学校)のコーディネータとしての仕事です。

 国が進めていた「フューチャースクール推進事業」「学びのイノベーション事業」の方向性を積極的に地域の学校教育で推進していこうという意欲的な取り組みです。事業自体はすでに昨年度から7校のモデル校によって開始され,ニュースにもなっていました。

 今回,新たなモデル校として開校したばかりの「むくのき学園」も参加することになり,そのコーディネータも新規に追加することになったわけです。関西に近くて,iPad大好き研究者を探したら私が居たみたいな感じだと思います(半分冗談です)。

 小中一貫教育に関しては,様々な議論が展開していることはご承知の通りです。法律上で「中等教育学校」が規定されている中高一貫教育とは異なり,小中一貫教育は法律による明確な定義がありません。

 小中一貫研究をされている西川信廣・牛瀧文宏らの定義として次のようなものがあります。 「小中一貫(連携)教育とは,小学校教育と中学校教育の独自性と連続性を踏まえた一貫性のある教育をいい,第一義的には小中9年間の教育課程の構造的理解を通した教師の指導力向上を目指す取り組みである。」 (『小中一貫(連携)教育の理論と方法』ナカニシヤ出版2011)

 この西川・牛瀧の見地からは,教師の変化に一貫教育の意義を着目しているということになります。実際,小学校と中学校という学校文化が異なる教育をつなげるのは,先生方の仕事を大きく変えざるを得ないわけで,挑戦的な試みといえます。

 一方,小中一貫に対しては批判的な立場も少なくありません。たとえば,9年間を通した教育の効果について,まだ十分な効果が示されていないともいわれます。また,学校統廃合の問題は,地域の学校が失われる立場にとって深刻な問題として受け止められています。

 小中一貫教育に対する様々な議論は,確かに有機的に繋がってはいますが,分けて考えていかないと建設的な未来を見通すことが難しくなることも肝に銘じておきたいところです。

 私が関わる「むくのき学園」は施設一体型の小中一貫校であり,同じ屋根の下で児童生徒が学ぶ形の学校です。これから学校を見学する予定なので,雰囲気については後日ご紹介するつもりですが,学校のWebサイトを除くとすでに様々な取り組みを重ねている様子が伝わってきます。

 モデル校には同じく施設一体型の小中一貫校である「やたなか小中一貫校」が参加して,先行して取り組んでいますので,そこの成果も教えていただきながら,コーディネータとして「むくのき学園」の取り組みを見守っていけたらと思います。

 従来の小学校・中学校の名前は残っているものの,一貫校として新しい学校が出発したばかりですので,学校の文化を作り出すことで一生懸命な時期だと思います。

 私の役目は,外部の人間としてその取り組みを言葉にして返したり,対話の相手としてICTに関しても何か気付いてもらったりすることだと思います。慌てずにじっくりと学校の成長を見せていただくつもりです。  

20140411 学びのイノベーション事業実証研究報告書

 2014年4月11日付けで文部科学省「学びのイノベーション事業 実証研究報告書」が公表されました。文部科学省Webサイト等でPDFが公開され,各地方自治体の教育委員会にも印刷された冊子が送付される予定です。

 学びのイノベーション事業実証研究報告書の公表について(文部科学省)  http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/04/1346534.htm

 学びのイノベーション事業実証研究報告書(文部科学省)

 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/030/toushin/1346504.htm

【追記】

 一括ダウンロード版も「教育の情報化」サイトで公開されました。まとまったものが欲しい方はこちらでダウンロードしてください。

 「教育の情報化」学校教育分野ページ

 報告書(概要)は分厚い報告書の各章要点をスライドにまとめてありますので,実証研究のおおよそを知りたい場合には,これを参照するのが手っ取り早いです。

 事業の取組みをご報告する部分と,取組みから今後への示唆を書いた部分とで成り立っています。第2章から第7章には報告と示唆の両方が含まれていて、第8章は今後への示唆をまとめた章といえます。

 「あるべき姿」を示唆しているのか,「考慮すべき事項」を示唆しているのか,解釈や理解はいろいろ可能なのかも知れませんが,まさに解釈と理解の議論を通して望ましい方策を考え実行して欲しいというのが実証研究が取り組まれた意義でした。

 この続きは,読み手や実施者に委ねられているのです。

 国の事業に関わることになった私も,報告書作成の末席を汚して名前を掲載していただいています。第4章「ICTを活用した指導方法の開発」部分の内容整理に関わりました。

 全国の実証校からご報告いただいたICT活用実践の事例を学習場面の側面から分析し,「学習場面に応じたICT活用事例」として類型化する作業を事務局の皆さんとご一緒にしたというわけです。その他,報告書案について発言する機会をいただきました。

 末席とはいえ,名を連ねた以上は今回の報告書について私も片棒を担いだ一人(なんかもっと違う言い方があるような気もしますが…)ですから,いろいろ解説をしなければならない立場ともいえますし,ご批判を受け止める必要のある立場だと思います。

 3年分を一つの報告書に詰め込んでしまったので,盛りだくさんになり,読むのも大変で,突っ込みどころも多いのでしょう。別冊資料編に分けるなど,作成する側の配慮もあるのですが,総花的にならざるを得なかったことは複雑な心境ではあります。

 また,私が関わった「学習場面に応じたICT活用事例」は,「教育の情報化ビジョン」に記載されていた分類やイラストのバージョンアップをするという前提があり,もう少し授業づくりに生かせるパターンランゲージ的な装いを盛り込めないかと思っていたのですが,結果としては類型化枠組みみたいな雰囲気に落ち着きました。

 この作業の中で,「忙しさは罪」であるということを確信した次第で,もう少し早くに時間をとって作業をし提案が出来たら,別のアイデアも出てたかも知れません。

 言い訳はともかく,残された時間の中で,採用されるかどうかは別として,報告書案への意見やアイデアを考えて提出してました。こういう立場に立てる機会はもう多分ないので,悔いだけは残さないように。

 結果,提出文案はほとんど没でしたが,会議での発言を汲み取っていただいたところが,あちこち有るような無いような…そんな感じです。

 一つの報告書といっても,特別支援やデジタル教科書,教育効果や留意事項などセクションによって専門チームが作業をしていたわけで,その他の部分について私が何某かを関係者として語ることは大変難しいのも確かです。

 実証研究報告書を読むということは,関係者の手を離れた以上,多様な読み方があってもよいのだけれど,その背景を探って読まないとすぐに道に迷うことになる,そういうことも念頭に置いていただきたいなと思います。

 多くの関係者の皆さんが,次の取組みに移られ前へ進まれている中,私は,前の取組みを掘り起すべく後ろに進み始めました。

 ご縁をいただき,国の事業に関わることになった経験は,本来私のような未熟者では得られないはずのものでした。表面的なところしか触れていないとはいえ,行政の動き方や民間企業の取組みなど実体験に照らして理解することが出来たのは本当に貴重でした。

 だからこそ,過去のことをもう一度,ひも解いて理解してみたいと思いましたし,それを全体で共有する必要があると考えるに至ったのです。

 私自身は,学びのイノベーション事業に関わった者として,この次に起こる取組みへのお手伝いをすることもしますが,むしろ,それらが過去からの積み重ねの上に位置づくことをちゃんと示せるように歴史を見える化する方へコマを進めたいと思います。頑張らないと。 

重版予定『デジタル社会の学びのかたち』

 翻訳に関わった書籍『デジタル社会の学びのかたち:教育とテクノロジの再考』に重版がかかりそうとのこと。

 訂正の問い合わせがあったので,誤字や訳の通りが変なところも含めて訂正情報を送りました。意識朦朧と翻訳していた自分を恨みたくなりますが(すみません>_<;),訂正が通ればだいぶマシになると思います。

教育と情報の歴史と過去への複雑な思い

 平成26年度が始まりました。

 昨年度までお世話になっていたお仕事がゴソッと終わり,身軽になったところで,今年度から始めるお仕事がポツポツと始まろうかというところです。

 今年は宣言した通り,教育と情報界隈の歴史に本腰で取り組むことにしたので,ここ最近はそのための準備というか火熾しの作業をしています。

 そのためのメディアとWebサイトを作りました。

教育と情報の歴史研究 http://hei.edufolder.jp

ニューズレター「教育と情報の歴史通信」 http://hei.edufolder.jp/newsletter/

 夏7月と秋11月に関心のある皆さんで集まる研究会を開こうと思って,日付だけ先に決めちゃいました。7月5日に千葉県柏市の県民プラザ(生涯学習センター)で,11月8日に東京都内で開くつもりです。

 ニューズレターは,これまでも公開してきた年表を付録につけて,これからいろいろな話題を提供するメディアとして発行を開始しました。創刊号は年表づくりのきっかけや苦労話を書きました。次号以降は他の方にも書いていただくつもりです。

 年表は,まだ公開用にも作業用にも反映できていない情報がごまんとあるので,地道に整理をしていくことになります。皆さんからのフィードバックもいただきつつ,この界隈の共有年表が出来上がるとよいなと思っています。

 過去を掘り返し始めると,懐かしいだけではなく,残念な気持ちになる過去,辛い過去,悲しい過去,怒りが込み上げる過去も再び蘇ってしまいます。

 年表作成の作業を続けている中で,私も過去に対して張り倒してやりたくなる感情を抱かなかったわけではありません。皆さんの中にも,過去に対していろんな感情を抱く方がいらっしゃるかも知れません。

 場合によっては,かつての論争が再燃してしまったり,事業や取組みの成果や効果に批判が起こったり,感情的な対立を新たに生んでしまう可能性も否定できません。

 先日,東京出張に出かけた際,ある人とおしゃべりをしていて,私が年表づくりをしている話にもなりました。その人は年表作成の必要性には同意しつつも,「この分野の試行錯誤の過去が見えると辛いですね」と複雑な気持ちを口にしました。

 立場によって歴史事象から何を読み取るのかは異なります。成功だ失敗だとカテゴライズすることに終わらず,そのような歴史を踏まえて次を見通すことをしないと,私たちの取組み自体もまた将来の人々に成功だ失敗だと単純なカテゴライズで片づけられてしまいます。

 まだ各人の中では生々しいことではあるかも知れませんが,だからこそ冷静に過去について整理をし,私たちの次の世代に相続あるいは贈与しなければならないと思うのです。

 私が現時点で皆さんにご提供できるのは,コツコツ組み立てている年表と,目立ちすぎる黒子として研究会を企画し開催すること。そのため多くの皆さんのご協力をいただくことになります。私のことは嫌いでも過去のことは嫌いにならず,ぜひとも歴史の旅へ。ご協力よろしくお願いします。  

20140317 学びのイノベーション推進協議会傍聴

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 文部科学省 学びのイノベーション事業は,平成23年度から始まりました。私は1年先に始まっていた総務省 フューチャースクール推進事業の徳島小学実証校で担当研究者をしていましたが,両事業が同じ実証校を共有して事業展開することになり,必然的に関わりを持つことになりました。

 平成26年3月は,両事業の締めくくりの会議が行なわれる月。2014年2月20日には総務省のフューチャスクール推進研究会が第7回を最後として行なわれ。2014年3月17日には文部科学省の学びのイノベーション推進協議会が第6回で最後を迎えました。

 昨年度から学びのイノベーション推進協議会・小中学校ワーキンググループ内の指導方法等検討ワーキングチームで仕事をさせていただき,その成果が報告書に掲載されるということもあったので,すべての締めくくりとして協議会を傍聴しに行きました。

 学びのイノベーション事業実証実験報告書は,事業の中で行なわれた取組みの成果を報告するものです。短時間で読み込むのはなかなか大変な分量で,事前に内容が届いていたとはいえ,協議会の場に揃えられた資料と合わせて吟味し意見を述べるのは大変です。

 それでも事務局側からの説明や作成に関係した委員からの発言も踏まえながら,この3年間を振り返りも含めた委員からの発言が進みました。そのときの様子はICT教育ニュースのWeb記事でも紹介されています。

 記事に触れられている以外にも,委員からの発言には,「こうした成果をこれからの教育課程に位置づける必要がある」「教員養成の現場でのカリキュラムにも具体化しなければならない」「1人1台時代の教育内容にふさわしい教材コンテンツの充実が大事」「文部科学省内の縦割りを超えた連携が期待される」など,考えるべき重要な論点がたくさんありました。

 報告書は8章に分かれており,事業成果を報告する1から7章に対して,第8章が今後へのメッセージということになっています。正直なところ個人的には,報告書案段階の内容でもたくさんの要素がありすぎるなとは思うのですが,やはり今後の情報教育/教育情報化の取組みの拠り所にもなるので,いろいろな意見が挙がってきて,さらに増えそうな感じです。どうぞ読まれる際は根気よく読み解いていただければと思います。(昔の私なら容赦なく批判する点なのですが,立場が変わるとダメですね,ほんと。)

 20140317amm.jpg  この日,行なわれたのは,私が仕事をしたチームやグループの親会です。私は親会のメンバーではないので,基本的にはご一緒する機会はありません。それでもわざわざ傍聴に来たのだからと事務局の皆さんが懇親会の場に誘ってくださいました。

 それでも,普段テレビで観るような親会の委員の皆さんを目の前にすると,私は片隅で小さくなって,場を眺めるので精いっぱい。インターネットの父と呼ばれる村井純先生も至近距離にいらっしゃったので,挨拶しようかどうしようかと心の中で迷ってましたが,これはそういうタイミングではないとグッと我慢して,懇親会も傍聴してました ^_^)。

 写真の3人の談笑は,なかなか目撃し難い機会。この先生方の伝説がよい意味で情報教育や教育情報化に影響してくれればいいなと願いつつ,この4年間に全国を駆け回った自分のご褒美として懇親会を楽しみました。

 報告書は最終的な作業をして,皆さんに届くのは4月ないし5月ごろになるのではないかなと思います。今回の事業が理想型というわけではなく,それぞれの学校で新しい取組みを生み出す際に事業や報告書を踏み台にして欲しいというのが事業の目的でした。そのことが理解されることを願っています。