教育学習とICT関心有り人向けマストドン

教育学習ICT分野のマストドンを立ち上げました。

年中行事になってるサーバー見直し作業のついでに、Twitter後継のSNSツールとして注目を集めつつあるMastodon(マストドン)の独自インスタンス(独自サーバー)を立ててみました。

単なるプライベートMastodonを作るのでは意味もないので、インスタンスの趣向として「教育とICTに関心のある人達向け」ということにしました。まだ実験段階なので学校の先生方や業界の関係者を中心に入っていただいて、いろいろ試してもらってからじわじわと広がってもらえたらと思っています。

ちなみに「elict-mastodon」(エリクト・マストドン)と名乗っています。いまのところelict.netというアドレスで開設中です。ちなみにEducation & Learning with ICTが由来です。教育でのICT活用についてはもちろん、情報活用やプログラミング等の教育学習についてもトゥート(書き込み)し合えればと思います。

私のマストドンアカウントは kotatsurin@elict.net となります。

構築のこと。

Mastodonは、個人単位でのインスタンス構築も可能ですし、そういう使い方もありですが、むしろ関心グループ単位で構築するのに向いてるかなと思います。

Mastodonインスタンス構築には、必要なソフトウェア等がパッケージングされた「コンテナ」を導入して動作させるDockerというプラットフォーム環境を利用するのが比較的簡便な方法です。レンタルサーバーを借りるなどして、Docker環境とMastodonコンテナをインストールしてインスタンスの出来上がりというわけです。

しかし、elict-mastodonではDockerは使用せず、レンタルの仮想サーバー上に一からMastodonをインストールする方法をとりました。面倒が増えるので特段のメリットはありませんが、サーバー構築の学習やノウハウを蓄積ができるというのが理由です。パッケージングされたものを使う方が便利ですが、少しでも裏側に触れたいと思うのがプログラミング的思考っぽいでしょうか。

個人やグループが構築した方が面白いはずなのですが、そのための敷居がまだまだ高いので、また少しずつ構築の手順について紹介していきたいと思っています。

ちなみに今回のサーバーは、EX-CLOUDというレンタル仮想サーバー(クラウドVPS)と契約したものを使用して、CentOS7というシステムを選択しています。ドメインも同サービスで取得しました。

Elict mastodon

アプリやサービスをレビューするということ

 日頃,教育と情報のフィールドを眺めていると,様々な製品やサービスに触れることになります。自分に合っているものを選択できるというのが一番よいことなので,基本的には「あるべき」形が一つに定まることはないと考えています。

 しかし,教育関係のアプリやサービスについて評価したり論じる必要もあるため,私なりにレビューの観点を持たなければなりません。とはいえ,これも固定的な観点があるというわけではありません。対象のアプリやサービスの目指しているところで評価するに当たって,次の問いかけを軸にして観点を探していくことにしています。

 「なぜ他の方法や形式をとらず,どんな理由でそのようになったのか」

 この問いかけに尽きます。

 私個人は構造がシンプル(簡潔)で柔軟性があり,飽きのこないデザイン,外部に対してオープンなものであることを嗜好します。その方が利用者側として「分かりやすい」と経験的に感じているからです。

 しかし,もしそうしない理由が他にあるのであれば,その理由を尊重すべきと考えています。つまり複雑なものになった理由が目指すものに照らして納得できれば,そのことを否定はしません。ときに簡潔さと柔軟さは相反要素になりますし,バランスの問題は常に悩ましい論点ですから。

 けれども,ときどきその理由が見えないものにも出くわします。

 他に分かりやすい方法がありそうなのに,そうしなかった例を見ると,その理由を探ろうと試行錯誤したり想像を巡らせるのです。アプリやソフトの場合は,プログラミングのレベルに遡って,たとえば「基本ソフトの制限だから」とか「設計上で別々に扱わざるを得ないから」とか,考えられる理由があります。それが納得できれば仕方ないことになりますし,納得できなければ努力が足りないということになります。それはそのアプリやソフトが何を目指しているかによるわけです。

 ネットサービスの場合も設計やプログラミングの話がありますが,サービスを利用することで,利用者がどのような行動をとって,どう変化したり,どう利用を継続していくのかという利用モデルやユースケースといったものを描いて,それが納得できるものかを検討することになります。たとえば授業支援システムの類いを利用すると先生や児童生徒はどんな行動を強いられたり,どんな学習活動を実現できて,その後もどのようにサービスと関わっていくのかを想像しなければなりません。それが現実的か非現実的かを見極めるわけです。

 教育工学という学問は,まさにそういう研究をしているものということになりますが,実験環境を整えて統計的な調査をするという次元に至らずとも,「なにゆえそうなのか」という問いかけはいくらでも可能です。場合によっては哲学的な問いかけとして考えることもできると思います。

 私のこうしたスタンスは,レビューを文字にすると相手に対して厳しい批判になってしまうことは重々承知しています。ダメ出しばかりしているように読めるのは私の文才の無さゆえですが,しかし,「なにゆえそうなのか」という問いかけはとても大事だと考えます。

 もちろん多くの場合で「なにゆえそうなのか」という問いに答えがないこともあります。考えていなかった,気づいていなかった,分かっていたけどできなかった,そう問う必要はなかったから…そういう答えもあり得ます。ならばそれが現時点での問いへの答えというだけのことです。

 「なにゆえそうなのか」という問いを踏まえて,その後,アプリやサービスがどう更新されていくのかが淡々と評価されていくわけで,悪くなるのか良くなるのかは,その時々の評価結果次第ということになります。

 そう考えると,巷のアプリストアで書き込まれているアプリレビューの内容は,レビューする立場としてもう少し考えてから書いて欲しいと思えるものが多すぎます。「使えね,氏ね」なんてレベルのものはかつてより少なくなりましたが,それでも感情丸出しのものは今も少なくありません。

 プログラミング教育に注目が集まっているような雰囲気もありますが,そのような取り組みの中には,同時に他者のプログラミングに対する視点を育むということも含まれてくると思います。単にプログラミング言語を習得し,ソフトウェアの構造を知るだけではなく,その知識を踏まえてソフトウェアやプログラミングの文化をどう育んでいくのかという考え方や態度の面についても関心を高めていく必要があると思います。

 私自身もダメ出し文章が多いことを自戒しながら,もう少し建設的なレビューを会得したいなと思います。

THE WALL (リコー)

 株式会社リコーには「TAMAGO Lab.」というプロジェクトがあり,ビジネスに役立つ卵的なソリューションを生み出す活動をされています。

 主にモバイル端末用アプリの開発を通してアイデアの提案をされているのですが,その中には学校で使うにも面白そうなものがいくつかあるのです。

 たとえば会議資料の配付や回収の便利な「Smart Presenter」は,少人数での話し合いの場で資料配付するには手軽なアプリです。(本格利用の場合は別途サーバーソフトを購入することで350名までの会議ができます。)

 「Idea Card」というアプリは,個々の端末でデジタル付箋を作成して,司会者端末にどんどん共有していくことができるアプリです。班活動のときのアイデア出しに便利だと思います。

 他とは少し違うテイストのアイデアが盛り込まれたアプリを開発しているのがリコーの「TAMAGO Lab.」なのです。

 2013年11月に,新しい卵として「THE WALL」がリリースされました。

 これはWebとiPhoneアプリを組み合わせたWebベースのディスカッションツールです。Webブラウザ上に表示したホワイトボードは,ペンと消しゴムで自由に書き込むことができて,ページも増やすことができます。

 ページは小さなサムネイルで一覧できるだけでなく,サムネイルをドラッグ&ドロップしてページに貼り込むことも可能です。サムネイルはクリックするとページジャンプをするので,簡単なハイパーカード的作品を作ることもできるのです。

 基本機能はこれだけのシンプルなものです。工夫次第で複雑なハイパーリンクスライドを作ることもできるというわけです。

 しかし,このTHE WALLの肝はそこじゃありません。

 THE WALLに書き込まれたデータを保存したり,再度開いたりする方法がユニークで,他にはなくエレガントなのです。

 THE WALLのデータを保存する場所としては,ユーザーのGoogle Driveを指定するようになっています。Google Driveに保存できることは少しもユニークではありませんが,それは核心ではありません。重要なのは,どうやって個別のユーザーのGoogle Driveに保存させるかなのです(保存場所などは要望次第でDropboxやEvernoteにすることは技術的に不可能じゃありませんから)。

 THE WALLでは各ユーザーにiPhoneアプリをダウロードさせて,それぞれの端末上でGoogle Driveの利用承認の手続きを最初の一回だけ行ないます。あとはWeb画面にある保存ボタンを押して出てくるQRコードを使って,Web画面で作業したデータと各ユーザーのGoogle Driveを紐づけ,インターネット上で保存処理するように動かすのです。

 つまり保存は,画面の保存用QRコードをiPhoneアプリで読み取るだけ。  逆に開く場合も,画面の開く用QRコードをiPhoneアプリで読み取るだけ。

 QRコードを読み取るだけで,みんなで見ているパブリックなTHE WALLと,自分だけ閲覧できるプライベートなGoogle Driveとをデータが行き来するのです。しかもログイン手続を一切省いて(すでに承認済みだから)。

 電子黒板と生徒用の端末とをリンクするために電子黒板にQRコードを表示させて端末で読み取るという仕組みはすでにありましたが,Google Driveといったプライベートな領域をつなぐところまでは届いていませんでした。

 個人ストレージというプライベートな領域を,学校の電子黒板といったパブリックな領域と接合する方法も,ログイン手続きの煩雑さを考えると決して簡単なものではなかったわけですが,そこにiPhoneアプリを噛ませるというアイデアは実にエレガントです。

 この仕組みであれば,先生がTHE WALLに板書した内容は,各自がQRコードにiPhoneをかざすだけで各自のGoogle Driveに転送されるわけで,授業中に板書で忙しいために講義内容を聞き漏らすということも防げます。講義中は必要最低限のノートだけ取れば,板書はあとで保存できるからです。

 また,各自がTHE WALLを使って作成し,Google Driveに保存したデータを,教室の大画面に提示したい場合にも,各自のiPhoneでQRコードを読み取るだけで,自分のGoogle Driveから教室の大画面に転送されるため,先生が支援システムを操作したり,ファイルサーバから開いたりする手間が省けます。

 これはApple TVなどのAirPlay切り替えにも似ていますが,AirPlayと違ってQRコードを読み取るという物理的な行動が必要になるため切り替えミスを防ぐこともできます。

 THE WALLは,自由線と消しゴムとページ・サムネイルで作画するシンプルなHTML5ベースのディスカッションツールで,まだまだ進化する余地は大きいですが,iPhoneアプリを使った保存と開く操作のアイデアは他にはない素晴らしいアイデア機能です。

 自分一人で使う分には,iPhoneとQRコードを使う保存方法は回りくどいだけですが,それぞれプライベートな保存領域を持った者が関わりあう場で使うツールの保存方法としては理想的なやり方です。

 今後は,他のノートアプリと連携して使えるようオープンな形で発展して欲しいと思います。