教育と情報の歴史と過去への複雑な思い

 平成26年度が始まりました。

 昨年度までお世話になっていたお仕事がゴソッと終わり,身軽になったところで,今年度から始めるお仕事がポツポツと始まろうかというところです。

 今年は宣言した通り,教育と情報界隈の歴史に本腰で取り組むことにしたので,ここ最近はそのための準備というか火熾しの作業をしています。

 そのためのメディアとWebサイトを作りました。

教育と情報の歴史研究 http://hei.edufolder.jp

ニューズレター「教育と情報の歴史通信」 http://hei.edufolder.jp/newsletter/

 夏7月と秋11月に関心のある皆さんで集まる研究会を開こうと思って,日付だけ先に決めちゃいました。7月5日に千葉県柏市の県民プラザ(生涯学習センター)で,11月8日に東京都内で開くつもりです。

 ニューズレターは,これまでも公開してきた年表を付録につけて,これからいろいろな話題を提供するメディアとして発行を開始しました。創刊号は年表づくりのきっかけや苦労話を書きました。次号以降は他の方にも書いていただくつもりです。

 年表は,まだ公開用にも作業用にも反映できていない情報がごまんとあるので,地道に整理をしていくことになります。皆さんからのフィードバックもいただきつつ,この界隈の共有年表が出来上がるとよいなと思っています。

 過去を掘り返し始めると,懐かしいだけではなく,残念な気持ちになる過去,辛い過去,悲しい過去,怒りが込み上げる過去も再び蘇ってしまいます。

 年表作成の作業を続けている中で,私も過去に対して張り倒してやりたくなる感情を抱かなかったわけではありません。皆さんの中にも,過去に対していろんな感情を抱く方がいらっしゃるかも知れません。

 場合によっては,かつての論争が再燃してしまったり,事業や取組みの成果や効果に批判が起こったり,感情的な対立を新たに生んでしまう可能性も否定できません。

 先日,東京出張に出かけた際,ある人とおしゃべりをしていて,私が年表づくりをしている話にもなりました。その人は年表作成の必要性には同意しつつも,「この分野の試行錯誤の過去が見えると辛いですね」と複雑な気持ちを口にしました。

 立場によって歴史事象から何を読み取るのかは異なります。成功だ失敗だとカテゴライズすることに終わらず,そのような歴史を踏まえて次を見通すことをしないと,私たちの取組み自体もまた将来の人々に成功だ失敗だと単純なカテゴライズで片づけられてしまいます。

 まだ各人の中では生々しいことではあるかも知れませんが,だからこそ冷静に過去について整理をし,私たちの次の世代に相続あるいは贈与しなければならないと思うのです。

 私が現時点で皆さんにご提供できるのは,コツコツ組み立てている年表と,目立ちすぎる黒子として研究会を企画し開催すること。そのため多くの皆さんのご協力をいただくことになります。私のことは嫌いでも過去のことは嫌いにならず,ぜひとも歴史の旅へ。ご協力よろしくお願いします。  

20140317 学びのイノベーション推進協議会傍聴

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 文部科学省 学びのイノベーション事業は,平成23年度から始まりました。私は1年先に始まっていた総務省 フューチャースクール推進事業の徳島小学実証校で担当研究者をしていましたが,両事業が同じ実証校を共有して事業展開することになり,必然的に関わりを持つことになりました。

 平成26年3月は,両事業の締めくくりの会議が行なわれる月。2014年2月20日には総務省のフューチャスクール推進研究会が第7回を最後として行なわれ。2014年3月17日には文部科学省の学びのイノベーション推進協議会が第6回で最後を迎えました。

 昨年度から学びのイノベーション推進協議会・小中学校ワーキンググループ内の指導方法等検討ワーキングチームで仕事をさせていただき,その成果が報告書に掲載されるということもあったので,すべての締めくくりとして協議会を傍聴しに行きました。

 学びのイノベーション事業実証実験報告書は,事業の中で行なわれた取組みの成果を報告するものです。短時間で読み込むのはなかなか大変な分量で,事前に内容が届いていたとはいえ,協議会の場に揃えられた資料と合わせて吟味し意見を述べるのは大変です。

 それでも事務局側からの説明や作成に関係した委員からの発言も踏まえながら,この3年間を振り返りも含めた委員からの発言が進みました。そのときの様子はICT教育ニュースのWeb記事でも紹介されています。

 記事に触れられている以外にも,委員からの発言には,「こうした成果をこれからの教育課程に位置づける必要がある」「教員養成の現場でのカリキュラムにも具体化しなければならない」「1人1台時代の教育内容にふさわしい教材コンテンツの充実が大事」「文部科学省内の縦割りを超えた連携が期待される」など,考えるべき重要な論点がたくさんありました。

 報告書は8章に分かれており,事業成果を報告する1から7章に対して,第8章が今後へのメッセージということになっています。正直なところ個人的には,報告書案段階の内容でもたくさんの要素がありすぎるなとは思うのですが,やはり今後の情報教育/教育情報化の取組みの拠り所にもなるので,いろいろな意見が挙がってきて,さらに増えそうな感じです。どうぞ読まれる際は根気よく読み解いていただければと思います。(昔の私なら容赦なく批判する点なのですが,立場が変わるとダメですね,ほんと。)

 20140317amm.jpg  この日,行なわれたのは,私が仕事をしたチームやグループの親会です。私は親会のメンバーではないので,基本的にはご一緒する機会はありません。それでもわざわざ傍聴に来たのだからと事務局の皆さんが懇親会の場に誘ってくださいました。

 それでも,普段テレビで観るような親会の委員の皆さんを目の前にすると,私は片隅で小さくなって,場を眺めるので精いっぱい。インターネットの父と呼ばれる村井純先生も至近距離にいらっしゃったので,挨拶しようかどうしようかと心の中で迷ってましたが,これはそういうタイミングではないとグッと我慢して,懇親会も傍聴してました ^_^)。

 写真の3人の談笑は,なかなか目撃し難い機会。この先生方の伝説がよい意味で情報教育や教育情報化に影響してくれればいいなと願いつつ,この4年間に全国を駆け回った自分のご褒美として懇親会を楽しみました。

 報告書は最終的な作業をして,皆さんに届くのは4月ないし5月ごろになるのではないかなと思います。今回の事業が理想型というわけではなく,それぞれの学校で新しい取組みを生み出す際に事業や報告書を踏み台にして欲しいというのが事業の目的でした。そのことが理解されることを願っています。  

情報整理中

 「ICTのある学び」という別のブログサイトを立ち上げて,教育と情報関連の様々な情報を整理しストックする作業を見える化し始めています。

 あちこち精力的に動き回っている様子は見えているけれど,私からの論文や著作が出ていないではないかと思われていること承知しています。インプットばかりでアウトプットがないのはよくないこと理解しているつもりです。

 とはいえ,教育と情報の領域は急速に広大になったため,個別ばらばらの地図しか用意されていない状態が続いており,全体を見通す地図を作成する作業をまだこれから取り組まなければならないのが実状。

 私がやろうとしているのは,そんな広大な領域に散らばった地図や資料を集める作業であるとも言えます。残念ながらアウトプットするには,まだまだインプットが足りないというのが正直なところです。

 しかし残り時間的なことを考えると,手元の情報を整理し,少しずつでもアウトプットできる形に整える必要がありそうです。

 ご存知の通り,りんラボはひとり研究室ですので,教え子の手を借りることができません。シコシコと職人的に作業するとなると人生あともう一回必要なので,手のつけやすい事柄から見える化作業をすることにします。

 教育と情報の領域における様々な情報をとりあえず整理してみるには,図表の力を頼るのが一番簡単です。

 「ICTのある学び」では,いままでありそうでなかった一覧表や図解をいろいろ掲載していこうと思っています。硬軟取り混ぜて,これまで意外とまとめられてこなかった情報をストックしていきますのでご活用ください。

 こうやって見える化したものは,執筆作業中の電子書籍に盛り込んで,多少なりともアウトプットにつなげていきたいと考えています。

[FS] 20140210 沖縄県宮古島市立下地中学校公開研究会

 2014年2月10日に宮古島市立下地中学校にお邪魔してきました。総務省・フューチャースクール推進事業と文部科学省・学びのイノベーション事業の実証校として,最後の公開研究会が行なわれたからです。

 大変光栄なことに講演者として依頼を受けましたので,私自身にとってもフューチャースクール推進事業に関わる最後のお仕事として,これまでの活動を踏まえて考えたことをお話した次第です。

「ICTのある学校で学びを深める」

(後日更新)

最近の生物化学研究の成果発表について思ったこと

 1月は行ってしまいました。2月は逃げ、3月は足早に去ると言われるように,残り2ヶ月は気を引き締めないとすぐに年度が替わりそうです。

 ここ数日は,理化学研究所の女性研究員がノーベル級というか,学術的な常識をひっくり返す成果を発表し,世界を沸かせました。日本だけは割烹着に萌えたようですが,いずれにしても大きな話題になっています。

 「体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理」を発見したとするその成果は,一つの細胞が分化し生物が形作られれば,形作られたまま後戻りはしないという常識に対して,細胞を酸性にさらしたら,その形がリセットされて後戻りできましたという実験結果を突きつけたもの。そうやって出来た細胞(今回はSTAP細胞)は最初の出発点の細胞になるわけで,そういうのを「多能性細胞」と呼ぶそうです。別の方法でつくるiPS細胞もこの仲間というわけです。

 小保方研究員が記者発表で若返りにつながるかもと説明したのは,リセットすることが時間を巻き戻すことにも似ているのでそう夢を語ったと思うのですが,それはもちろんリップサービス的な部分もあって,現実はまだ何も言えないんじゃないかと思います。

 それでも,話に便乗してしまえば,細胞に酸性によるストレス(刺激)を与えるというのが今回の初期化する原理なので,オレンジジュース浴なんて美容サービスが登場して,酸性が人の細胞をリフレッシュするのです,とかなんとか宣伝が始まるかも知れません。

 私は,生物化学については素人ですし,ただの科学好きな一般人ですので,素人発想で様々な説明を読んで楽しんでみることしか出来ません。そんな私からすると,今回の発表は次の点が興味深かったです。

 ・研究環境の巡り合わせや研究者のキャリアの積み方
 ・理化学研究所のPR/コミュニケーション手法
 ・iPS細胞の生成方法との対比,報道の扱われ方の対比など

 文系研究者の私にしてみると理系の研究世界は,羨ましくもあり,理不尽でもあり,いろいろ眺めていると面白いです。そうした文脈から,どうしても研究者個人にも興味が湧いてしまうので,私も日本のマスコミがやっているおじさん的報道を興味深く消費している一人ということになります。若い女性が研究の道を歩むというのがどういうことなのか,それは知りたくなるのが人情です。

 一方で,割烹着姿や明るい壁とキャラクターに囲まれた研究室での様子を,結構いろんな角度から記録させた映像素材の露出を見て,理化学研究所という組織が今回の成果発表で用いたPR戦略に少し懸念も抱きました。

 戦略を間違ったというよりも,読み間違えたのかなと思います。関係者にとってみれば,iPS細胞に匹敵あるいは凌駕する成果ですから,むろん世間はSTAP細胞の成果の方に注目するだろう。iPS細胞関連の報道や出版物などの情報露出の実績を見れば,それと対を成す形で今回のSTAP細胞を扱ってくれるはずだ。小保方研究員は,そうした研究成果を一般にも知ってもらう良いキャラクターになるだろう。そんなふうに考えていたのだと思います。

 理化学研究所のWebサイトのトップページには,小保方研究員の写真が登場しますが,それは女性研究者としてのふつ〜の写真で,これが他の研究者(男女いずれ)であったとしても,扱いが違うということはなかったのだろうと思います。ただ,人物を持ってきた時点で親しみを持ってもらおうという含意はあったにしても。

 そのあと,きっと研究室公開の段になって,広報関係者にも多少は不安がよぎったのだろうと思います。研究所内では見慣れた光景が果たしてマスコミに流れて何か言われないだろうか。スポーツ紙やネタ系Webニュースサイト,2chやTwitterなど,広報関係者もちょっとは騒がれるだろうなぁ…とそれらが頭をよぎったでしょう。

 そうした胸騒ぎはあったのだと思いますが,今回の発表内容の凄さを考えれば,一研究員への関心は一過性だろうと思えたのかも知れません。それに,相手は世界です。科学研究なんて普段は気にもしない日本のマスコミのことより,世界に向けて成果を発信することの方に気持ちが向いていたとしても不思議はありません。

 さすがの理研広報も,まさか日本のマスコミ全部が割烹着萌えになるとは思わなかったのでしょう。ある意味では,読みが甘かったのでしょうし,理研が思う以上に日本のマスコミが幼稚化していたということかも知れません。

 結果的には,一研究員のプライバシーに関する報道合戦になって研究活動などに支障が出たため,報道関係者へのお願い声明が出るに至っています。

 関心は持ち続けて欲しいけれど,普段は放って置いて欲しい。研究者とはわがままな職業なのだとご理解いただき,放って置きながらお付き合い願えればと思います。

 ところで,STAP細胞の可能性なのですが,私は今回の原理が生後間もないマウスによる実験に限局されるという点が今後どのように打開されるのかに関心を持っています。

 素人考えですが,外部からの酸性による刺激によって分化状態の記憶を初期化するという説明から考えるに,それは分化して間もないから可能であって,分化して時間が経過した場合にはより強い刺激が必要だとか,場合によっては外部の刺激では初期化できない可能性が残っているということです。

 細胞の単位時間スパンもわかりませんし,細胞レベルのことを人間の活動レベルに当てはめて考えることは非常識なのかも知れませんが,長い時間慣らされた状態を解除することは大変難しいはずです。

 であるからこそiPS細胞は遺伝子を使って細胞を操作するというやや強制的な方法によって多能性細胞へと導いているのであって,もし本当に大人の細胞に対してもSTAP細胞の原理が適応できるようになれば,これは世紀の大研究ということになるのだと思います。

 とはいえ,その可能性を指し示したということだけでも,今回のSTAP細胞の功績はとても大きいということになります。

 一般常識的には,仮に大人の細胞や人の細胞に適用できなかった場合,今回のSTAP細胞の原理発見も「意味はなかった」とか「役に立たなかった」という評価を下されるのだと考えがちです。だって,「なんだ若返りの薬が出来るものじゃないのね」とか「すぐには役立たないんだ…」とかいう落胆の声は普通に聞こえてきそうですから。

 ここが科学研究とか学術研究と,世間一般常識との相違点,あるいは理解の溝みたいなところですが,こういう基礎研究というか,積み重ねのための一石は,科学研究が積み上がる(あるいは押し広げる)ことに貢献するかしないかが重要点で,その研究そのものが社会的に役立つかどうかは第一義ではないのです。それは言葉にすると「数百年後の人類のための研究」といった風に説明されて納得することになるのですが,日本の場合,それを実感できるようには理解してもらえないことが多いのです。

 もちろん,そのような状況は少しずつ変わってきているのですが,分かり始めた層と分からない層が入り交じっているのが現実で,そうした混沌を象徴しているのがマスコミ報道なのかなとも思います。

 今回の件は,教育と情報について理解を得ようとする動きにおいても,情報認知の仕方について大いに考えさせるものでした。

 教育と情報の分野では,学校の先生たち以外だと,ほとんど男ばっかりのおっさん集団がやっているので,そりゃおっさんがおっさんにアプローチしてちゃダメだなぁとw。

 かと思えば,外野の女性方が時々発する情報は,どこか浮世離れというか,本丸じゃない部分が多いというか,好きな部分だけ食べ歩いているというか…。そうでない女性もいらっしゃるとは思うのですが,まだそういう方とお仕事をしたことがないので,今のところ私の中では「教育と情報の世界はおっさんばっか」という感想になっています。

 さて,駄文が過ぎました。今月も頑張ろう。