20181218_Tue

授業と会議と忘年会。

残りの授業回数が少なくなってきたこともあって,少々慌ただしい雰囲気で過ぎていく。

教育方法技術論の授業では学習に関して心理学の知見をいろいろ紹介している。そこでキャロル・S・ドゥエック氏の『マインドセット』(草思社2008/2016)に出てくる「growth mindset」と「fixed mindset」を扱う。

今どきなら「グロース・マインドセット」と「フィクスド・マインドセット」とでもカタカナ言葉経由で英語を直接知ってしまえばいいような時代だが,初めて触れる人には日本語訳が欲しいところ。草思社の『マインドセット』は2006年の原著を翻訳したもので,今西康子氏は「しなやかマインドセット」と「硬直マインドセット」と翻訳している。

ただ,ドゥエック氏の研究は20ないし30年遡るところから始まっていたため,初期の研究成果が日本に伝えられた時点では,マインドセットではなく知能観として届けられていた。

私が初めて目にしたのは『認知心理学者 教育を語る』(北大路書房1993)の中の「学習意欲を高めるために1:「わかる喜び」を求めて」という章だった。そこで小泉令三氏が「増大的知能観」と「固定的知能観」としてドゥエック氏の研究を紹介していた。おそらく「incremental theory of intelligence」と「entity theory of intelligence」という用語の翻訳だと思われる。

マインドセットと知能観はもちろん異なるし,ドゥエック氏がどのように使い分けていたかは明確に調べられていないが,2大傾向に関しては重ねて捉えても問題はなさそうである。ちなみに「増大的知能観」を「成長的知能観」と表記する文献もあったりする。

さらに『ライフロング・キンダーガーテン』を読むと,これまたこれらを組み換えたような訳語が登場する。酒匂寛氏はマインドセット研究に関して「成長型マインドセット」と「固定型マインドセット」と翻訳されたようだ。

[追記20181231]小島健志『つまらくない未来』(ダイヤモンド社)を覗いてみると,小島氏はもっとシンプルに「成長思考」と「固定思考」という訳語を当てていた。邦訳を参照しないのはどうかと思うが,これはこれでいい訳語かもしれない。

growth mindset
(incremental theory of intelligence)
fixed mindset
(entity theory of intelligence)
グロース・マインドセット フィクスド・マインドセット
今西訳 「しなやかマインドセット」 「硬直マインドセット」
小泉訳 (増大的知能観) (固定的知能観)
酒匂訳 「成長型マインドセット」 「固定型マインドセット」
小島氏 「成長思考」 「固定思考」

表にするほどのものでもないが,こうした表記の多様性を見て,自分なりの理解を深める手がかりにするのも面白い。というか,旧い知識をアップデートする必要性があるという一つの教訓としても。

年内最後の会議をして,夜は職場の祝賀会・忘年会だった。

私にとって唯一の忘年会だが,今年は料理も美味しくいただけたし,テーブルをご一緒した方々とも楽しくおしゃべりができたので,よい忘年会となった。まぁ,残りも頑張ろう。