20130617 デジタル教科書教材協議会シンポジウム

 デジタル教科書教材協議会(DiTT)主催のシンポジウムに出席しました。ネット中継もされているのですが、たまにはリアルに傍聴してみたかったので、出張を延ばして東京に留まっての参加です。

 300人規模だというホールに入るのですが、参加者はほとんど企業人ばかりで、なんとも場違いなところに来てしまった感がありました。見つからないように静かに参加することにしました。

 DiTTに対して、どちらかといえば、あまり良い印象はありませんでした。

 設立に奔走した人物は、教育に関心を持っているといっても教育畑の人ではない上に、教育畑の文脈をちゃんと理解しないうちに自分たちのペースでロビー活動を始めてしまうのが、見ていてなんとも「あちゃ〜」感いっぱいだったからです。

 それでもDiTT活動が成り立っていたのは、ひとえに影響力があるからに他なりません。いわゆる目立つ人物達との人脈ネットワークの中で話題にすることで、テーマに注目を集めて、風だの空気だのを起こせば変化することを、DiTTに関わる人達は肌で感じて分かっているのです。

 政策形成とは、合意形成であり。日本における合意形成とは、空気醸成に他なりません。

 それが好きか嫌いかはともかく、そういうことを理解して盛り上げるような存在がないと、確かに日本の何かを変えることは大変難しいのも事実です。

 シンポジウムの冒頭挨拶で、中村伊知哉氏は、この一年で「場面が転換した」と言います。「ゲリラ的に始めた運動がこの一年で正規軍になったような気が」すると言い、「議論の段階から実現の段階」になったという認識を披露しました。

 こういう表現が飛び出すのは、政府の政策として学校環境のICT対応が謳われたこともありますし、いくつかの地方自治体が学習者用の情報端末を豊富に導入することに取り組み始めたため、実現のための材料が確かに出始めているからです。  空気醸成のために、こうした材料は非常に重要な契機です。  そんなわけでDiTTからは新しい教育情報化提言「教育情報化八策」が畳みかけるように投げ掛けられました。話題作りは間髪入れずにというわけです。(ReseMom記事

===

 1 教育情報化タスクフォースの設置
 2 「デジタル教科書法」の策定
 3 教育情報化計画の前倒し
 4 デジタル教育システム標準化
 5 推進地域の全国配置
 6 スーパーデジタル教員の支援
 7 デジタル創造教育の拡充
 8 教育情報化の予算措置

===

 ところで、この八策の内容は、似たようなものをどこかで見たような気もしますが、どこかというと、前の駄文で紹介した「世界最先端IT国家創造宣言 工程表(案)」の内容とかぶります。

 要するにすでに提言は工程表に盛り込まれているとも言えますし、工程表を提言に整理し直したとも言えますし、とにかく2つはリンクしています。ロビー活動の成果です。

 工程表が順調に進めば、これもまたDiTTの提言通りに進んでいるとなって、来年以降の成果発表会で報告することになるのでしょう。どこまでも自分たちの中で完結する活動なんだなぁと感心します。

 シンポジウムのディスカッションでは、登壇者それぞれの見解を順に聞きました。それぞれの立場から見えている風景について知ることが出来て、それなりに興味深かったのです。

 刺激的な言動だけをピックアップするのはどうかと思いますが、今回のシンポジウムで出てきた発言として興味深かったのは、コストの話と地域差の話でした。

 学習用タブレット端末が導入されるためには、端末コストが安価であることが期待されているのは、予算の厳しさを考えても仕方ないところはあります。

 山際大志郎氏は7000円くらいが希望と言ったり、松原聡氏がタイの事例として80ドル端末の話などしていましたが、学習者用端末を年間1万円で導入できるリースや支払い形式にすることが可能であれば、かなり現実的な導入計画として進められるという話につながっていました。

 また、登壇者の一人である陰山英男氏は、かなり学校教育の実態に即した発言をしていましたが、一方で、広くいっぺんに入れるというこれまでの平等なやり方をひっくり返して、先進的な地区にズバッと入れて全く完全なる不平等をつくるという風にすればいいと発言したのは、こういう場の発言としては目新しいかなと思いました。  賛成者もいれば、反対者もいるわけで、それぞれの考えが尊重されるような仕組み(コントラクト作成?手挙げ方式?)を作ることも十分にあり得ることだと思います。

 日頃から動向を追っかけている人間の立場からすると、全く新しい情報が出てきたわけではありませんでしたが、自分たちの活動を鼓舞しながら全体の盛り上がりを目指そうとしている会を直接見れたことは面白かったです。

 こういうシンポジウムのニュースが流れると、まるで「これが」デジタル教科書へのメインストリームだと受け止められるかも知れません。

 確かに、キープレイヤー達が集まり、様々な動きを集約している点でメインストリームと言ってもよいのかも知れません。しかし、日本国民の代弁者であるとは必ずしも言えません。忘れてほしくないのは、これはあくまでも利益享受団体の作っている流れです。

 本当にこの顔見知りばかりで構成された仲間内の運動に、公教育におけるデジタル教科書や教育の情報化について丸投げして託すべきなのかどうか。もう少し考えないといけないと思います。

 そういう意味では、つくづく学術界の動きが鈍いというのも深く反省すべき点だと思います。教育の情報化について、もっと連携して動くべきなのですが、すれ違ってそうならなかったことはとても残念なことだと思います。