学校1人1台情報端末整備の道のり

2019年11月19日の報道をきっかけとして「学校における1人1台の情報端末配布」に向けた予算化の動きが注目を集め始めました。

2019年11月27日には読売新聞が一面で「小中学校のPC1人1台…国が無償配備」と報道。関係者の間でも,無償配備というのは一体どういうことなのか,様々な観測が交錯しました。

源流をさかのぼればキリがありませんが,この件について政府は一貫して「成長戦略」の議論の中に位置づけており,そのための人材育成を行なわれなければならないという論旨で教育現場の変革を捉えています。

令和に入ってからの動きで言えば,6月に様々な閣議決定がなされたあたりから本格的に今回の「学校1人1台端末」というストーリーが浮上してきたといえます(もちろん助走期間はさらに前から始まっています)。

関係する情報リソースを振り返りましょう。

20190606「規制改革推進に関する第5次答申」(規制改革推進会議)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20190606/agenda.html

20190606「デジタル教育環境、5年で整備=端末1人1台-規制改革会議が答申」(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019060601083

20190611「AI戦略 2019~人・産業・地域・政府全てにAI~」(統合イノベーション戦略推進会議)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/pdf/aisenryaku2019.pdf



20190621「成長戦略実行計画(閣議決定)」(日本経済再生本部)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ap2019.pdf



20190621「成長戦略フォローアップ(閣議決定)」(日本経済再生本部)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/fu2019.pdf



20190621「統合イノベーション戦略2019(閣議決定)」(統合イノベーション戦略推進会議)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/pdf/togo2019_honbun.pdf

20190621「規制改革実施計画(閣議決定)」(規制改革推進会議)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/publication/190621/keikaku.pdf

20190621「学校教育情報化推進法が成立 推進計画の策定を義務付け」(教育新聞)
https://www.kyobun.co.jp/news/20190621_02/



20190625「「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」について」(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/other/1411332.htm



20191108「政府、経済対策策定へ 安倍首相指示、災害復旧・景気で補正予算」(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019110800427



20191111「学校ICT 1人1台の端末を 自民 教育再生実行本部」(NHKニュース)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191111/k10012172881000.html



20191113「国と地方の連携による学校ICT環境整備に向けて」(自民党教育再生実行本部)

20191113「第11回経済財政諮問会議 令和元年11月13日:会議資料」(内閣府)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019r/1113/agenda.html



20191113「第11回経済財政諮問会議 令和元年11月13日:議事要旨」(内閣府)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019r/index.html#tab1113

20191119「学校のICT環境を整備 経済対策で―西村経財担当相」(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019111900522



20191121「国家プロジェクトで学校のICT環境整備 中教審特別部会」(教育新聞)
https://www.kyobun.co.jp/news/20191121_04/



20191122「PC1人1台へ4千億円 情報通信技術化、小5~中3に」(共同通信)
https://this.kiji.is/570529499008664673



20191122「【萩生田光一文科相】学校のICT整備、補正予算に計上」(教育新聞)
https://www.kyobun.co.jp/news/20191122_04/



20191125「教育情報化の後発国から先進国へ 関連9団体が共同提言」(教育新聞)
https://www.kyobun.co.jp/news/20191125_04/



20191125「令和2年度予算の編成等に関する建議」(財務省)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20191125/zaiseia20191125.html



20191126「【萩生田文科相】国主導でICT整備「在任中に1人1台」」(教育新聞)
https://www.kyobun.co.jp/news/20191126_05/



20191127「学校の1人1台環境の実現に向け国庫補助 自民が提言案」(教育新聞)
https://www.kyobun.co.jp/news/20191127_05/



20191128「学校1人1台PC根付く? 政府、小中に整備へ 教育IT化、自治体と温度差」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20191128/ddm/008/010/033000c

20191203「経済対策13兆円規模に 全小中学生に4年でPC配置」(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52877760S9A201C1MM8000/

20191205「【経済対策】PCを「1人に1台」 学校のICT化を加速」(産経新聞)
https://www.sankei.com/politics/news/191205/plt1912050039-n1.html
 
20191205「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(令和元年12月5日閣議決定)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019r/1205/20191205_taisaku.pdf

しかしながら,現時点で確定している事柄は多くないようです。

地方財政措置(地方交付金)ではなく,国庫補助(補助金)として予算を確保する,場合によっては基金化をすることを想定していること。小学校5年〜中学生が2022年までに,小学4年生以下は2024年までの段階で整備すること。端末整備だけでなく,活用に関する教師教育,教員養成も視野に入れること。整備を円滑に進められるようにガイドラインやモデルプランの用意を考えているといったおおよそのことくらいです。

もっと具体的な「どんな端末機種が,どうやって子どもたちの手に渡るのか」という部分に関しては,本当に何も決まっておらず,まだ今年度の補正予算の枠を確保するための理屈をどう筋立てるのかという段階でしかありません。

ただし,この段階でも,学校設置者である市町村自治体(基礎自治体)の整備担当関係者にとっては,いよいよやって来る1人1台の情報端末を前提とした学習活動とそれに相応しい学校環境とは何か具体的に描くことを,まだ手を付けていない基礎自治体は早急に,すでに着手した自治体はより拡充して取り組まなければならないとも言えます。時間的余裕がないからです。

このブログでは常々,すでに時代は1人1台以上端末だし,1人1アカウント以上を前提として,学校教育でも教職員や児童生徒学生に教育・学習アカウントの付与ができるよう整備しなければならないことを主張しています。

実際に配布された端末機種が,仮に学習活動で期待した通り動かなかったとしましょう。

その場合でも,1人1アカウントが整備されていれば,自前で用意する端末(あるいは学校や友達から借りた端末)からそのアカウントにログインすることで自分の学習活動を進めることが出来ます。

1人1台端末の機種が理想的であるに越したことはありません。

しかし,そうでなかった場合(あとでそうなってしまった場合)でも自分たちの学習活動が妨げられないように,整備することが重要なのです。

今回の学校における1人1台情報端末整備の動きは,基礎自治体単位で取り組むことが難しいという反省にたって,広域で一括に入札する方法を取ることでコスト面や整備業務の負担を軽減することも選択肢として考えられています。

都道府県レベルで端末導入を主導すると同時に,都道府県レベルでクラウドプラットフォームを導入して,メールアドレス等のアカウント整備も行なうようになることが期待されます。

現実問題として,情報端末やクラウドプラットフォームとして,何が選べるのか。

端末のOSとしては「Windows10」「iOS」「ChromeOS/Android」「Linux系」が考えられます。

クラウドプラットフォームとしては「Office365」と「Google for Education」があります。

昔ながらの紙書類を作成するツールとしての利用を優先するのであれば,「Office365」と「Windows10」または「iOS」という選択をするのが無難かも知れません。

ネットワーク時代の情報処理ツールとしての利用で考えてよければ,「Google for Education」と「ChromeOS/Android」または「iOS」または「Windows10」を選択するのでもいいでしょう。

市販のパソコンOSには「macOS」があり,私立学校ではMacBookを生徒用に導入しているところもありますが,価格面を考えるとよほどのディスカウントがなければ選択肢となり得ません。逆に,価格面での折り合いが付くなら,大変有力な選択肢であると思います。

もっとも,この辺の選択は,やはり実際に試した上で検討すべきことであるので,ここで机上の検討をしても仕方ない話ではあります。(電気工事や施設工事のことを考えることの方がむしろ重要だとも言われます。)

すでにビジネス側では,先取りした動きが始まっており,導入してもらうソリューション準備のために様々な提携が進められているようです。一つ一つの教材やサービスを個別に選択して導入する手間を省くため,いろんな企業の商品が集まって一つの導入パッケージを構成するわけです。

そのような導入手法は,分かりやすい一方で,細かな要望との齟齬も生まれてしまうため,使えないものが混ざっていると,ずっとそれを使わないままになるという問題もあります。

そうしたことが起こらないように,柔軟な導入や導入後の運用計画が望まれます。

いずれにしても,1人1台端末の整備は,1人1アカウントの整備が同時に進行することが重要であることを繰り返し指摘しておきたいと思います。