令和元年度補正予算関連

2019年12月13日に臨時閣議案件として提出された「令和元年度一般会計補正予算」が決定されました。

これにより,令和2年度要求として「GIGAスクールネットワーク構想」となっていたものが,令和元年度補正予算の決定に伴って「GIGAスクール構想」と名称が変わっています。ネットワーク整備にフォーカスしていたものが,情報端末整備も含めたものになったせいだと考えられます。

関連情報をメモ。

20191213「令和元年12月13日(金)臨時閣議案件」(首相官邸)
https://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2019/kakugi-2019121302.html
20191213「令和元年度補正予算(第1号)政府案が閣議決定されました」(財務省)
https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2019/hosei1213.html
20191213「令和元年度文部科学省 補正予算案の概要」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/h31/1408722.htm
20191213「令和元年度補正予算(第1号)に伴う対応等」(総務省)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zaisei02_02000233.html

20191219「GIGAスクール構想の実現について」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm
20191219「GIGAスクール構想の実現」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00127.html
20191219「「教育の情報化に関する手引」(令和元年12月)について」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00117.html
〈参考〉 20191205「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(令和元年12月5日閣議決定) https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019r/1205/20191205_taisaku.pdf 20190911「令和2年度文部科学省 概算要求等の発表資料一覧(令和元年8月)」 https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420668.htm

〈国民の安全・安心の確保、未来のへの投資等〉
◆GIGAスクール構想の実現 2,318億円

学校における高速大容量のネットワーク環境(校内LAN)と、義務教育段階における一人一台端末の整備について、令和5年度までの実現を目指し、まずは初年度として、整備を確実に実施する。

担当局課
初等中等教育局 情報教育・外国語教育課
【うち国立大学附属学校分】高等教育局国立大学法人支援課
【うち国立高等専門学校分】高等教育局専門教育課
【うち私立学校分】高等教育局私学部私学助成課

事業名
・「GIGAスクール構想の実現」に向けた校内通信ネットワーク整備事業
・「GIGAスクール構想の実現」に向けた児童生徒1人1台端末の整備事業

総務省「令和元年度補正予算(第 1 号)に伴う対応等
「補正予算に係る財政措置等」

「GIGAスクール構想の実現」に向けた校内通信ネットワーク整備事業に係る補正予算債

 「GIGAスクール構想の実現」に向けた校内通信ネットワーク整備事業に係る補正予算債の後年度における元利償還金については、その60%を公債費方式により基準財政需要額に算入すること。

20191213「GIGAスクール構想の実現」N20191213 06 1024x768

「GIGAスクール構想の実現 ロードマップ」

「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」(文部科学省)


「これからの学びを支える学校ICT環境整備の実現に向けたイメージ」

【QA】(ただし,現在の情報から推察される返答)

Q 今回から始まる措置は恒久的なものか?
A いいえ。

地財措置(地方財政措置)である「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」は,2002(令和4)年度までを期間としています。
今回の補正予算や令和2年度に措置される端末整備費は,上に掲げたイメージ図にあるように令和3年度と令和4年度と令和5年度まで継続が期待できるとしても,5か年計画が切れた令和5年度以降は各自治体が独自に予算を確保して持続させる必要があります。
3年後に,今回の導入スキームを継続するのか,あるいは児童生徒が個人で購入することを基本として補助する形にするのか,その他の可能性も合わせて検討して移行しなければなりません。

Q 「国が提示する標準仕様書」は一つだけなのか?
A いいえ

支援メニューによって,また,選択する基本ソフトによって,条件が変わり得るため,提示される標準仕様書は複数パターンが用意されます。

Q ICT支援員の経費は組み込めるのか?
A う〜ん

人的措置の必要性については,議論の中でも幾度と語られてきた論点であり,今回もそのような経費を含めることが想定されていたようですが,基本的にICT支援員は「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」の方で措置されるものとなっているので,補正予算では含まれないと考えられます。

Q すべての基礎自治体に等しく措置されるのか?
A いいえ

「措置要件」に明記されているように,今後を見据えた準備に取り掛かっていることが必要となっています。しかし,この補正予算の機会に全国すべての小中高等学校が余裕ある安定したネットワーク接続を実現することが望まれています。よって,各自治体は,国による補助が受けられるタイミングに学校ネットワークの整備をすることが妥当な選択といえます。

(随時更新)

【参考情報】

統合型校務支援システムの共同調達・共同利用のための手引き:平成30年度 統合型校務支援システム導入実証研究事業」(文部科学省)

令和元年度 美里町立励徳小学校 ICT導入事業仕様書」(熊本県美里町)

近江八幡市教育情報ネットワーク及び校務系システムに係るサービス提供仕様書」(滋賀県近江八幡市)

真岡市教育委員会学校ネットワーク構築業務基本仕様書」(栃木県真岡市)

鈴鹿市教育ICT環境等調達仕様書(共通編)」(三重県鈴鹿市)

箕面市教育ICT環境整備に係る学校情報ネットワーク再編工事仕様書」(大阪府箕面市)

学校ネットワークシステム再構築及び運用保守業務業務仕様書」(山梨県甲府市)

実践的な教育ネットワーク整備ガイド 〈設計・運用編〉」(全国地域情報化推進協会)

学校における情報セキュリティ及びICT環境整備等に関する研修教材」(文部科学省)

1人1台どれを選ぶか

学校における1人1台学習端末 GIGAスクール構想 は,経済対策の一環として閣議決定され,令和元年の補正予算から措置されます。学校における1人1台学習端末の予算も補正予算内に含まれているようです。

まずは,「学校のネットワーク環境」を整え,「教職員・児童生徒のアカウント付与」をすることが必須条件です。不出来なフィルタリング機器などを導入してしまって台無しにしないように気をつけなければなりません。

しかし,世間の関心が高いのは,学習端末としてどの機種選ばれるかということかも知れません。

政府の意向としては,一括入札による金額的なメリットを得るため都道府県単位で導入することを推奨しているようです。そうなれば,47都道府県と政令指定都市ごとに端末選択をする可能性があります。

文部科学省から「端末1台5万円程度」という目安が示されたこともあって,各メーカーによる5万円水準に抑えた端末の売り込みが早くもスタートしています。しかし一方で,5万円程度で得られるスペック性能が満足いくものなのか疑問を呈する声もネット上では散見されます。使途によるとはいえ,この見極めは難しいです。

下図は5万円周辺の端末に対するイメージ図ですが,これも一面に過ぎません。

とにかく,すでに商戦は始まっており,一般市民が注目すべきは国レベルの予算云々よりも,私たち自身が住む市町村や都道府県の教育委員会周辺で展開するビジネス政治の抗争です。

過去に私たちは,教科書採択の場で不公正な顧客勧誘活動が展開し事件になったことを経験しています。同じことが学習端末選定の場面で起らないよう,厳しく目を光らせておくことが重要です。

高性能

低性能

面倒

手軽

ed.jp関連情報

学校における1人1台情報端末とインターネット環境の整備に対する大規模予算の投入にあたって,学校のインターネットドメインである「ED.JP」について理解し,関係者の方々が懸念している事柄に対しても,この機会の予算で対応を措置できるようにする必要があると考えます。GIGAスクールネットワーク構想も,ドメイン問題を今一度しっかり取り組んで初めて意味のあるものになります。

関連情報をメモします。

ED.JPドメインとは - IT用語辞典(e-Words)
http://e-words.jp/w/ED.JPドメイン.html
ED.JPドメインの取得(JPDirect)
https://jpdirect.jp/domain/edjp.html
.ed.jpドメイン(さくらのドメイン)
https://domain.sakura.ad.jp/jpdomain/edjp/
.ed.jpドメイン(お名前.com)
https://www.onamae.com/service/domain/edjp/
教育機関が取得可能な「.ac.jp」「.ed.jp」ドメイン取り扱い開始(エックスドメイン)
https://www.xdomain.ne.jp/news_detail.php?view_id=5239
ドメイン【ed.jp】の取得が可能な組織種別を教えてください。(エックスサーバー)
https://support.xserver.ne.jp/faq/domain_take_edjp_organaize.php

19980305「教育ドメイン名アンケート結果について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19980305-01.html
19980522「「学校ドメイン名」の御意見募集の結果について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19980522-01.html
19980615「ED.JPドメイン名新設の提案」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19980615-01.html
19980710「ED.JPドメイン名新設に関するスケジュール見直しのお知らせ」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19980710-01.html
19980716「ED.JPドメイン名新設に関するオフライン・ミーティング開催のお知らせと発表者募集について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19980716-01.html
19980723「「ED.JP ドメイン名新設の提案」に関するアンケートのお願い(案)」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19980723-01.html
19980806「ED.JP ドメイン名に関するお知らせ」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19980806-01.html
19980806「「ED.JPドメイン名新設に関するオフライン・ミーティング」議事メモおよび説明資料公開のお知らせ」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19980806-02.html

19980820「EDドメイン名新設のお知らせ(DOM-WG 最終案)」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19980820-01.html

19981105「EDドメイン名の予約ドメイン名リスト公開について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19981105-01.html
19981111「EDドメイン名の実施時期延期について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19981111-01.html
19981125「EDドメイン名の実施時期延期について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19981125-01.html
19981201「EDドメイン名の予約について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19981201-02.html
19981203「EDドメイン名の予約について(2)」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19981203-01.html
19981209「Internet Week '98 JPNIC BOF 開催のご案内」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1998/19981209-01.html

19990107「ドメイン名登録等に関する規則の改訂について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1999/19990107-01.html
19990113「メイリングリスト EDU-TALK 開設のご案内」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1999/19990113-01.html
19990701「EDドメイン名実証事業について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/1999/19990701-01.html

20020401「「.JP」の登録管理・運用サービスがJPNICからJPRSへ」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2002/20020401-01.html

20030213「米商務省が「.edu」の登録要件を緩和」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2003/20030213-01.html
20030422「「.edu」が新登録要件での受付けを開始」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2003/20030422-01.html
20031021「「.edu」Whois情報の正確性向上プロジェクトについて」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2003/20031021-01.html
20031117「JPRSがJPドメイン名登録管理サービスを改定」(JPRS)
https://jprs.co.jp/press/2003/031117.html
20150407「nic.ad.jpゾーンへのDNSSECの署名について」(JPNIC)
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2015/20150407-01.html

20020708「第2回JPドメイン名諮問委員会議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/02/minutes.html
20021118「第3回JPドメイン名諮問委員会議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/03/minutes.html
20050830「第13回JPドメイン名諮問委員会 議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/13/minutes.html
20051117「第14回JPドメイン名諮問委員会 議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/14/minutes.html
20060223「第15回JPドメイン名諮問委員会 議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/15/minutes.html
20150617「第52回JPドメイン名諮問委員会議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/52/minutes.html
20161020「第57回JPドメイン名諮問委員会議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/57/minutes.html
20171206「第60回JPドメイン名諮問委員会資料及び議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/171206.html
20171206「初等中等教育機関などの名称(「〇〇小学校.jp」や「〇〇高校.東京.jp」など)の登録について」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/60/5.pdf
20161211「第63回JPドメイン名諮問委員会議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/63/minutes.html
20190522「第65回JPドメイン名諮問委員会議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/65/minutes.html
20190926「第66回JPドメイン名諮問委員会議事録」(JPRS)
https://jprs.co.jp/advisory/material/66/minutes.html

今年ちょうど,株式会社日本レジストリサービス(JPRS)のJPドメイン名諮問委員会議にて,ed.jpの登録資格確認の議論が行なわれていることから,関係者もドメイン登録状況に関心を持っていることが伺われます。この機に,予算措置のうえで学校ドメインの整備に協力してもらうべきではないでしょうか。

「「大学生の教員離れ」は本当に生じているのか」という不思議な文書について

2019年11月に「「大学生の教員離れ」は本当に生じているのか」という不思議な文書が出回りました。

文書作成者名義は「熊本大学教育学部長」。確かに熊本大学教育学部の学部サイトでトピックスの一つとして公開されています。

曰く,「最近の新聞報道やネット記事の中には、「大学生の教員離れ」が進んでいることは明白な事実であるかのように論じているものが数多く見受けられる。(中略)そこで、全国的に見れば「大学生の教員離れ」は生じているのか、生じているとすればいつ頃からなのかをデータに基づき確かめてみることにした」と。

文書では教員採用受検者数や新規学卒者の受験率/採用率などのデータを参照し,当該世代における人口に占める割合に置き換えながら,受験率は上昇横ばいの後やや下降,採用率はこの10年間で上昇の一途と報告しています。

よって「少なくとも全国的には、この間ずっと「大学生の教員離れ」が進んでいるとは言えない」と分析。ただし,同世代内の受験率下降が始まる2017年度以降について,「少しづつではあるが「大学生の教員離れ」が生じ始めた可能性はないとは言えない」とも補足しています。

この文書では,分析のきっかけを「最近の新聞報道やネット記事」と書いているだけなので,具体的にどんな記事のどういう解釈に対して物申したいのか不明です。

「大学生の教員離れ」で検索すると…

優秀な若者を教職に引き寄せてきた日本で、とうとう始まった「教員離れ」​(Newsweek)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/02/post-11650.php​

教員の働き方がブラックすぎて、教育学部の倍率がヤバイことに。(togetter)
https://togetter.com/li/1309183

「小学教員の競争率、7年連続減の3・2倍 懸念される質の低下」(産経新聞)
https://www.sankei.com/life/news/190522/lif1905220028-n1.html

教師への夢をあきらめた学生たち 現役教育大生のリアル 競争倍率低下時代における教育の危機(Yahoo!ニュース個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20190104-00110038/

などが私の場合は検索結果に出てきます。(人によって違うかも知れませんね)

ほとんどが,教員採用試験の倍率や競争率の低下,受検者数の減少に関して触れたもので,その中で「大学生の教員離れ」が触れられているといったもの。

昨今の教員にまつわる報道,あるいは教育実習などで直接目にした諸先輩方の仕事ぶりなどを踏まえて「教員という仕事は大変」「教員になる自信がない」等といった意識をもつ大学生達の「教員へのマインド離れ」ということが起こっているのではないかという指摘です。

つまり,「教員へのマインド離れ」を許し続けると,優秀な人材が教職に流入しなくなることを懸念しているわけです。

ところが,今回の文書が想定している「大学生の教員離れ」のお話は,どうも違う文脈で言われているものを対象としているようです。

ちょっと長く引用してしまいますが,この文書が言いたい部分を抜き出します。

「以上の検討結果を踏まえて、教員養成の担当者としての思いを述べたい。
ここ熊本でも、教員不足は確かに深刻である。しかし、このことを「大学生の教員離れ」にすぐ関係づけるのはいかがなものだろうか。
実際には、教員不足の最大の原因は、定年を迎えた教員の大量退職にある。また、子育てや介護と両立させにくい学校の労働条件が、リカレント的な教員就職や職場復帰を妨げ、事態を一層悪化させている可能性もある。
ところが、そのような教員需給の客観的条件を詳しく分析する代わりに、「近頃の大学生は苦労してまで教職になんてつきたがらないのだろう」といった思い込みで論を進める傾向が一部マスコミに見られるのは、教員養成の担当者として悲しい限りである。」

というわけで,どうも「教員不足」について「大学生の教員離れ」に触れた新聞報道やネット記事があり,それを想定して書かれたようなのです。

ただ,私が「教員不足」「大学生の教員離れ」で検索しても,それっぽい報道や記事が見当たりません。

というわけで,私にとって今回の文書は大変不思議な文書に読めるというわけです。

あまり意地悪なことを書きたくはありませんが,たぶん,ふわっと抱かれた危機感から真摯に書かれたのだろうと思います。そして,この文書の肝はデータにもとづいた分析の部分ではなくて,実は最後の一文を発信したかったということなのだろうと思います。

曰く,「私たち教員養成の担当者は、教育現場と手を携えつつ、そのような思い込みを吹き飛ばすような大学生たちの頑張りを支えていきたいと思う」と。

その心意気は,私も同調します。

準備期間ではない学校教育の始まり

学習指導要領の捉え方が平成29年改訂で根本的に変わったことを,学校教育関係者でさえ実感していないかもしれません。

「資質・能力」や「見方・考え方」という新たなキーワードを使って混み入った理屈が連なっていたり,カリキュラム・マネジメントを学校や教師レベルで展開しなさいと求められてはいるけれども,単にそれはいつものように要求項目が増え,現場の人間がなんとかしなさいと言うための方便だと受け止めているのがほとんどだと思います。

実際,小学校を例に取れば,先行して始まった特別の教科「道徳」に続いて,教科「外国語」の新設,プログラミング体験の導入など,教育内容は単純に増大しています。

授業時数に限ってみても,教科「外国語」の分が時数増加するわけですから,そのしわ寄せが学校行事等に及ぶなど,学校はてんやわんやの状態です。

こうした大騒動は,新たな学習指導要領を従来の捉え方の枠組みの中へハメ込もうとする困難から生じています。

しかし,蓋を開けて試行錯誤を進める中で,やがて分かってくるのは,「従来の捉え方の枠組み」の方を変更しなければならないということなのです。

つまり,学校の守備範囲を変えざるを得ないということです。

学校教育は社会で生きるための準備期間であるという捉え方が堅持されてきました。

そうすることで適切に配慮された教育内容を系統的に学ぶ場を確保し、子ども達が安定的に社会参加に向けての成長を遂げられると考えたからです。これは人権を保障され行使する存在としての市民を育成する意味でも重要です。また、社会から隔離することで子ども達が安心して試行錯誤することも保証できるからです。

しかし、社会生活の準備期間としての学校教育を仮に「K-12」の範囲と考えた場合、その18年間、社会生活をしていないのかといえばそうではなく、すでに市民の一員として立派に社会活動を展開しています。

現実の学校教育は、準備としての学校教育にとどまらず、とうの昔から社会活動を実践している青少年市民を相手に社会教育としての役割を担わざるを得なくなっていたのです。

つまり、準備期間ではない学校教育は始まっていたのです。

このような前倒しが起こっていたにもかかわらず、学校は社会から隔離された状態を保ち、準備教育として良かれと思われることに焦点化を続けてきました。

特に日本の学校教育は、諸外国の学校教育に比べて、社会との結びつきを限定的に絞ってきた傾向が強くあります。

いま、学校にまつわる話題の数々が世間を少なからず驚かせてしまっているのは、裏を返せば学校教育活動が世間と距離をとり続けてきたことの証左であるともいえます。

加えて、何らかの問題に直面した教育委員会がとる対応等が、一般市民が取るべきと考えるものとズレていることが多いのも、教育委員会事務局や学校教育関係者に世間とやりとりできるコミュニケーションチャンネルが持たされてないことに遠因があるように思います。

それもこれも、準備期間としての学校教育を営むにおいて、実社会と直結するようなパイプは必要なく、教育的なフィルタリングを通してのみ関わることが望ましいと考えてきたためです。

これは教育学的には、現在でも有効なアプローチであることは確かでしょう。

ただし、学校教育の教育内容が、現代社会における準備を担うに相応しいものであるならば…です。

変化の緩やかな時代ならば通用していた方法も、情報が常にアップデートされ、知識活用そのものが学習活動であると考えられるようになった現代においてはもう、通用しないのです。

教育内容を習得・探究するだけに留まらず、活用を見通す必要をうたったのは平成20年度改訂からでした。

この助走が、平成29年度改訂の学習指導要領において、学校から実社会に向けた働きかけという形で本格的な走りとなります。

これは学校教育自体を反転させる試みです。

日本的に理解を促すのであれば、児童生徒達の社会活動を学校教育の場に前倒しすることだといえます。

そこにはもちろん準備期間としての学校教育活動も存在するとは思いますが、そうした期間は短めに区切って、実践的なプロジェクト活動として知識の活用を促し、さらなる習得や探究をも引き出していくような姿が求められているといえます。

そのためにはまだ、教職員や児童生徒、学校にとっての武器となるリソースが足りません。人手もたくさんいるでしょう。

そして、何より、学校教育に関わりうる人々の学校教育に対するマインドセットを変えることからスタートしなければならないと思います。

昨今の学校における1人1台学習端末も、学校教育に対するアップデートされた認識からすれば、遅すぎたとはいえ、至極当然の措置であり、それも足がかりにしながら学校教育を反転させていかなくてはなりません。

誰が反転させるのか?

ここまでは、実社会と距離をとりながら、学校教育関係者が学校教育を担ってきた流れにありました。

保護者も地域社会も,準備期間を担う学校教育を専門家である関係者に任せ,子どもたちを預けてきました。そして必要に応じ,協力者として関わる形を取ってきました。

平成29年度改訂の学習指導要領は「社会に開かれた教育課程」と位置づけられています。

このことの意味は,準備期間ではない学校教育の始まりをあらためて宣言し,学校の教職員や児童生徒を実社会の一員として対等に扱うことを通して学びの世界を社会に広げていくことだといえます。そこでは協力者という立ち位置とまた異なる関わりが必要だと考えられます。

けして新たな教育理念が導入されたということではなく,これまで理念として人々が語り思い描いていたものを,学校教育への実際的な関わりとして具体化し実践していくことなのだろうと思います。

今回の学習指導要領がそうした学校教育のアーキテクチャの大幅アップデートだとすれば,私たちは用意された環境のもと,実社会に結びついた学習活動という様々なアプリのインストールによって動かしていくことが求められているともいえます。

さて次は,社会の側にいる私たちのターンです。