えひめITフェア2011で講演とディスカッション

 2011年6月24日と25日に、愛媛県にある「アイテムえひめ」という展示会施設で「えひめITフェア2011」が行なわれました。
 四国にはご存知の取り4県ありますが、愛媛県は四国の中でも政府の出先機関も多い県と聞いています。そこに総務省の「四国総合通信局」という機関があり、フューチャースクール推進事業についても、そこが管轄しています。
 そんな愛媛で、総務省四国総合通信局が中心となって、毎年情報通信の提起展示会である「えひめITフェア」が行なわれているようなのです。
 そして今年はフューチャースクール模擬教室というブースが組まれたり、フューチャースクール講演会という催しも企画されました。
 徳島県のフューチャースクール実証校にかかわっている私も、僭越ながら有識者の1人としてお呼ばれし、講演と現場の先生たちとのパネルディスカッションを依頼された次第です。

 別のブログ記事にて講演で使用したスライドと録音音声を公開していますので、興味のある皆様はご参照ください。
 地方のローカルイベントでの講演であること、聞いている方々が教育関係者だけでなくフェアに参加している業者の人も多いという想定もあって、講演のトーンは「フューチャースクールって大事なので応援してね」というものになっています。
 ちゃぶ台返しで有名な私も御用学者の仲間入り?という感じですが、私は真面目にやってくれる人達には味方するのが主義ですので、こういう地方のローカルイベントで意味もなくブチ切れません。
 だって、地域の皆さんが協力してくれないと本当に学校現場の先生方は苦しい立場に立たされます。今回の場は、よき理解者を増やすことが目的。そのうえで、物事がより良く進むよう批判的な目線で取組みを見守ることが大事です。
 
 まあ、ディスカッションの場で本音ぶっちゃけたら、総務省から来た課長補佐さんが大きくズッコケていたのは見えましたけど…。

 パネルディスカッションには、フューチャースクール推進事業に関わっている徳島の小学校の先生と、地域雇用創造ICT絆プロジェクトに関わっている愛媛の小学校の先生が出席くださって、2校の実践をご発表いただけました。
 短い時間しか発表に差し上げられず大変申し訳ない条件でしたが、ディスカッションの場ではお二方の先生にお互いの実践で感じたことやそれぞれの学校で直面していることなど、大変興味深いお話を聞かせていただきました。
 総務省が取り組んでいる教育情報化の二大事業(FSと絆)が揃って発表するという設定は、なかなか貴重ではなかったかと思います。
 フェアや講演会を企画準備された四国総合通信局の皆様にお礼申し上げます。今回は大統領選挙のテレビ討論会(あるいはウルトラクイズ)みたいな舞台設定で、それはそれで面白かったんですが、次回やるなら是非カフェ・スタイルでやりたいなと…勝手に思っています。

 せっかくの愛媛・松山。本当は道後温泉にでも行ってみたかったのですが、それはまた次回のお楽しみにするとして、書店などに寄り道してからバスで帰りました。

20110625講演スライド

講演「わたしたちの知識を伝える教育分野の情報化」
(於:えひめITフェア2011 2011年6月25日)

講演音声
http://twitcasting.tv/kotatsurin/movie/1895986

シルバー向け無料iPad教室(インターリンク)
http://www.genki.pro/
『地域・学校の特色を活かしたICT環境活用先進事例に関する調査研究』(JAPET)
http://www2.japet.or.jp/senshin/
『第7回 「教育用コンピュータ等に関するアンケート調査」 報告書』(JAPET)
http://www.japet.or.jp/jo693c65a-47/#_47
Research Points(米国教育研究学会)
http://www.aera.net/publications/?id=314

[徳島]新年度の初打合せ

 4月5日に徳島県東みよし町立足代小学校で平成23年度の総務省フューチャースクール推進事業に関する打ち合せを行ないました。
 足代小学校は全国で10校あるフューチャースクール推進事業の中の1校です。平成22年度から事業が始まり、今年度は2年目にあたります。
 年度替わりの慌ただしさもさることながら、3月にあった東北地方沖大震災の影響も大きく、あれこれの準備も遅れがある状態でスタート。依然として状況は流動的ではあるものの、とりあえず平成23年度も事業継続して試みを続けられることにはなりました。

 今年度はフューチャースクール推進事業だけでなく、昨年度の予備費で始まった「地域雇用創造ICT絆プロジェクト(教育情報化事業)」も動き出し、世間的には似たような教育情報化事業がたくさん存在することになります。
 この2つの事業に見た目の違いを見つけるのは難しく、どちらも子どもたちに情報端末を使った学習を展開してもらうような報道のされ方をするので、ほとんど見分けがつかないと思います。
 大雑把に性格付けすると、フューチャースクール推進事業は、あらかじめ大掛かりに計画を立てて始まった分だけ小回りが利かないという風。一方、ICT絆プロジェクトは、まずは機器と人材を入れて、市町村(と協力者)を中心に地域で様々な取組みができる小回り利きやすい風と思っていただければ、規模感としてはいいのではないかと思います。
 ICT絆プロジェクトの方が後から始まったり、いろんな地域と企業が関わっているので、機器が新しかったり、試みが斬新だったりすることがあります。ただし、地域にとっては負担もあるかも知れません。

 足代小学校では、春の異動で校長先生も教頭先生も新しい方に変わったこともあり、また少しずつご理解を深めていただき、これまでの実践を活かして今後の実践を展開してもらえることが期待されます。
 実は、昨年度は校長先生も教頭先生も女性の先生だったのですが、今年度は2人とも男性の先生。一番驚いていたのは子ども達だったみたいです。

 新しいことといえば、今年度は総務省のフューチャースクール推進事業に乗っかる形で、文部科学省の学びのイノベーション事業が合わさることです。
 私、総務省の仕事に接しただけでも気持ちが萎えたこともあるのに、加えて文部科学省の仕事にも接しなくてはならないのかと思うと少しクラッときますが、関わる機会をいただいた以上は末端の研究者に出来ることは限られますが頑張りたいと思います。
 もっとも学びのイノベーション事業の詳細はまだ十分煮詰まっているわけでもなく、これも大震災の影響ということにしておきたいと思いますが、デジタル教科書に関して仕上げに時間がかかっているようです。
 この時期に…と察していただける皆さんには裏方の慌ただしさも想像していただけるとは思いますが、これもちゃんと記録しなくては。

 あんまり物事が流動的過ぎるので、実証現場の人間は状況が定まるのを待つしかないのです。でも、待っているばかりも面白くないので、やっぱり出かけることにします。
 何かの会議の告知があったら、また傍聴しに出かけてみようと思います。
 東京から出張してきた事業者の人によれば、東京は(計画停電や節電のせいで)すっかり明かりの落ち着いた街になっているという話。数週間ぶりに訪れてみてもいいかなと思っています。

[徳島]公開授業&研究協議

 2011年2月3日に徳島県の東みよし町立足代小学校で、フューチャースクール推進事業(初年度)公開授業&研究協議が行なわれました。
 ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
 足代小学校では「2年生の算数」「4年生の音楽」「5年生の理科」の授業をご覧いただきました。学校の先生方も子ども達も、さすがに公開を意識して準備してきたわけですが、変な背伸びはしない普段の姿も見せられたのではないかと思います。
 私自身がカウントしたわけではありませんが、関係者も含めて180名もの参加数だったとのこと。児童数120名規模の学校ですから、この日は大人の数の方が上回り、子ども達も緊張したのではないかと思います。

 2年生の算数では「三角形と四角形」の単元の最後で、基本の図形の組み合わせで繰り返しのタイル模様をつくるという取組みでした。
 まずは、電子黒板で表示されている様々な模様を、図形の名前を意識して説明するという活動から入ります。やがて児童達が自身のタブレットPCの上で、単位となる図形を用いて模様をつくる作業に取り組むという流れでした。この授業はICT支援員さんが入ってくれた授業なので、先生と子どもたちだけでなく、ICT支援員さんが授業の中でどう動いているのかを見ていただくこともできました。
 4年生の音楽では、音楽室にタブレットPCを持ち込み、冬のメロディをつくってみる授業を展開しました。
 先生から、今日の取組みに関する説明と作曲ソフトの説明が一通り行なわれたところで、児童達がタブレットPC上で作曲作業を試みるという活動です。この日のために、文字キーを鍵盤に見立てられるようPCのキーボード上に載せる特製シートを手作りで用意したりもしました。その後グループでお互いのメロディを聴き合ったりして、グループで発表する予定だったようですが、時間の関係上発表は先送りだったようです。
 5年生の理科では電磁石の働きを知るために、様々なコイルの巻き方の電磁石が用意されて、みんなで実験できる環境が用意されました。
 様々なコイルの巻き方の電磁石を紹介し、その強さ弱さを調べる方法として持ち上げられる釘の重さを比べることが押さえられたあと、実験をします。教室の真ん中に用意された実験コーナーで各自が実験した結果をそれぞれのタブレットPCのワークシートに手書きでまとめていきます。そしてコラボノート上に用意された座標に、各自の結果を書き込んで結果を共有するという使い方がされました。
 3つの授業を周りながらでしたので、細部は違ってたかも知れませんが、こんな感じでそれぞれの授業が展開しました。
 ICT環境を使っている様子に限って切り出すと、多少の違和感を感じるところもあるかも知れませんが、小学校で日々積み重ねられている実践の文脈を想像していただき、その文脈の中で見ていただければ、ICTの溶け込み具合も悪くはないなと感じていただけると思います。
 あと、子ども達はやっぱり緊張してしまって、いつもより静か〜になってたみたい。

 私も担当研究者として研究協議のモデレーター役をいただきました。十分役目を果たせたのか自信はありませんが、学校の先生と事業者の方にも登壇していただき、お二人のお話の聞き役として頑張りました。
 正直なところ、どの方向でお話したりお話を聞き出すべきか悩みました。ご参加の多くは教育関係の方々ですから、当日の授業を振り返った教育的な議論をすべきかとも考えました。
 ただ、次の理由でそれをあえて退けました。

  • これは総務省管轄の事業なので、その色合いを前面に出すべきではないか。
  • 教育関係者は、教育の議論についてはよくご存知なので、あえて違った側面の話題提供をして、視野を拡げていただいた方がよいのではないか。
  • 本年度は3年継続事業の初年度であり、位置づけとしてICT環境の導入構築という初期の問題をメインに扱うべきタイミングではないか。(教育への効果の議論は次年度でも可能だが、初期環境構築の議論はこのタイミング以外ないと考えるので…)

 というわけで、初年度の事業推進や環境構築に関わる論点を私の方からお話をして、お二人の発表を聞くことにしました。
 そのとき私が使ったスライドはこちらです。→「教育の情報化とフューチャースクール推進事業」

 スライドをご覧いただくだけだと、さっぱり分からないと思います。
 しかも、順送りしていただいて分かるように、スライドに含まれているのに使ってない情報もあります。当日も10分だけだったので、お話できていません。
 当日は、なぜ教育の情報化が必要なのか、情報教育やICT活用が必要になる社会背景や世界情勢のようなものとの繋がりを「グローバル」という言葉からたぐり寄せて考えてみました。
 つまり今日では、ICT抜きでは考えられない世界の動きが起こっているわけですが、この出来事を理解するためにも関わっていくためにも、ICTとは何かを理解すること、必要なら使えるだけの準備を整えておくべき時代になっているということです。
 ICT機器を使える使えないは実のところ本質ではありません。もちろん使えた方がいいからこそ機器の導入もするわけですが、機器利用のスキルの必要性だけで「教育の情報化」を肯定することはできないことも事実です。
 けれど、ICTを基盤にした世界が動いていることは、無視できない事実です。これを知らぬままにすることはできません。まして私たちは世界から注目を集めるエレクトロニクス企業を複数有している国の人間です。その歴史からいっても、私たちの国の教育が情報化しない理由は、世界の人々にとっても考え難いと言わざるを得ません。
 そうした世界の人々と渡り合っていくためにも、教育の情報化は必要なのではないか。と考えてみたわけです。

 その他にも、このスライドにはいろいろ面白ネタが詰まっていて、これを解説するだけでも90分くらいの講演ができてしまいます。
 私が言いたいのは、問題の本質のことも、過去の取組みのことも、現在の困難も、いろいろ耳を傾ける姿勢を持って、今回のフューチャースクールを取り組んでいます、という事です。
 逆にいえば、そうした様々な事柄が分かっていても、思うように進められていないとしたら、皆様にはこの試みを世論として支援して欲しいというお願いです。
 今わかっていることは、仮に順調に議論や計画が進んだとしても、教育現場に本当の変化が訪れるのは2020年よりも、もっと後だということです。
 もしここで、政治的不安定や国民の皆さんの理解を得られずに議論や計画が長引けば、学校教育の変化は、もっともっと先の未来へとずれるということです。
 次代の人達に宿題をそのまま残すだけに終わらせないためにも、できる事を進めていきたいと思います。
 そうすれば、何かのイノベーションも起こって、思いの他早くに変化が訪れる可能性だって、無いわけではないのです。