ICT活用教育アドバイザー

 文部科学省「ICTを活用した教育推進自治体応援事業」における「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」に関して,ICT活用教育アドバイザリーボードが設置されました。

 参考記事:「公立校の情報インフラ整備に指南役 文科省が派遣」(日経新聞 20151004)

 これから学校教育の情報環境を整備する自治体に対して,文部科学省もちでアドバイザーが派遣される代わりに,他の自治体の参考になるようなガイドや情報を整理してまとめなさいという交換条件です。

 いったいどんなアドバイザーが揃っているのか,それが一番問題とも言われていますが,強者揃いの中に,力不足を承知で私も名前を連ねています。枯れ木も山の賑わいというか,面白いのが一人いた方がよいでしょうと推薦されたご縁です。プロフィールは顔以外ちっとも面白くないですが…。

 基本的には申請書に書かれた取り組み内容に照らして,事務局がアドバイザーをマッチングするため,特定のアドバイザーをご指名いただくことはできません。ご縁があれば,お手伝いしに行くことになると思います。

 文部科学省によるアドバイザー派遣自体に効果や意味があるのかという疑問はあるかと思います。とはいえ,少なくとも特定地域の教育情報整備をより良く進めるお手伝いができることには一定程度の価値があると考えます。

 また,事業自体の成否よりは,むしろ文部科学省としてのスタンスを表明している事業なのだとご理解いただく方が現実的かも知れません。

 学校設備の地域格差が大きく開きつつある現実の中で,情報環境整備という側面からでもその差を埋めることができないものか。そういう焦りのようなものが,こうした形で出てきているのだということを国民の皆さんに読み解いて欲しいというのが本音なのだと思います。

 教育と情報の歴史研究をしている私としては,他のアドバイザーの皆様の実績や過去の偉業を知る良い機会なので,内側からいろいろ記録を残せたらいいなと思っているところです。

日本教育工学会 SIG活動 成果物 2015

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SIG-04 教育の情報化

 学校の情報設備環境を整備するための指針「整備ガイドライン

SIG-05 ゲーム学習・オープンエデュケーション

 ゲーム学習とオープンエデュケーションの研究動向と研究リソース「SIG-05レポート2015

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 日本教育工学会(JSET)は,2014年度からSpecial Interest Group(SIG)という活動形態を始めました。

 学会という場所は,人々が集まって多様なテーマを追いかけている場なので,これまでも学会大会で「課題研究」という形の特定テーマについて束ねて発表をする機会が設けられていました。そうすることで旬な研究テーマについていろんな研究を求めていくことができるというわけです。

 とはいえ,1年1回の学会大会の場が軸になったのでは,この目まぐるしい速度の時代に対応するのも難しくなってきたことも事実で,もう少し柔軟な研究活動形態が求められていたということになります。そのためのJSETにおける一つの提案が「現代的教育課題に対するSIG 」という活動でした。

 JSETのSIGは6つでスタートし,今年新たなものが加わって全部で11のSIGになりました。

 先行したSIGではすでに様々な活動が行なわれ,活動記録は学会のホームページ「SIG活動」にも掲載されています。

 いくつかのSIGは成果物という形も出してはいるのですが,学会のホームページに掲載するということになると,その辺はまだ事務手続きの世界が残っているため,2015年10月3日現在でも掲載されていないというのが実情。そこから脱して動くのがSIG活動の意義ですから,実際のところはソーシャルメディアなどを経由して公表されていたりします。

 ここでは,2015年9月にあった学会大会で紹介された2つの成果物を掲載します。また,日本教育工学会では「日本教育工学会倫理綱領」を定め掲載しました。

 

20150930 岡山県新見市教育情報化推進協議会

 岡山県新見市で教育情報化推進協議会が開催され,外部識者として会議に出席しました。

 文部科学省「ICTを活用した教育推進自治体応援事業(ICTを活用した学びの推進プロジェクト)」の「ICT活用実践コース」に岡山県新見市が採択されたことで,私にご依頼いただいた次第です。

 新見市は,これ以前から総務省「ICT絆プロジェクト」「フューチャースクール推進事業」および文部科学省「学びのイノベーション事業」を利用して市内の小中学校を実証校として学校の情報対応を試みてきた地域です。

 フューチャースクール実証校巡りをしていた私は,iPadを導入機器として選んだことでも話題となった新見市立哲西中学校にお邪魔をしたことがあり,2度ほど新見市に足を運んでいました。そんなご縁もあって,今回,外部識者としてお声がけいただきました。

 昨年には,新見市内6校の中学校に1人1台のタブレット端末が配布されました。

 先行して実証実験に取り組んでいた哲西中学校での成果を踏まえて,「ネットワーク環境」「1人1台タブレット端末」「教室の端末とIWB」「ICT支援員」という4点セットが重要性であるとして他校も整備したそうです。

 現時点で,各校の進捗は様々で,先生方のスキルや意識を醸成しながら,各校のテーマに沿った取組みを加速していくことが求められているようです。

 また対外的には,端末導入による成果を具体的に提示することが求められていて,端的に「学力向上」に結びつく何かしらの数値を求める声も強いのは,関係者として悩ましい課題です。もちろん,今回の新見市の事業は,学習指導の質の向上を通して,その先の学力向上を目指しています。とはいえ,決して小さくはない予算を使っての取組みです。分かりやすい成果を必要とする世界が隣り合わせていることは,どの地域の取組みでも同じことだと思います。

 ただ,ICTの効果に関して,次のように記している文献があります。

「(前略)学習に対する「ICT」の効果に関する議論は、あまりに曖昧で広すぎる。それはまるで、学校教育における本の効果はどのくらいかを尋ねるようなものだ。もちろん、それは本自体に左右されるし、読みのプロセスや学習者、そして期待される成果によっても異なる。同様に、コンピュータ代数システム(CAS)や補習用数学ソフトといった数学のソフトウェアで学習するのと、非同期型学習ネットワーク(ALN)、電子書籍、SMS、Google、コンピュータゲーム、知的認知システム、あるいはWikipediaなどを併用して学習するのでは違う。この点について、エビデンスに基づきながら導き出せる一般的な結論は、次の2点である。すなわち、1)ICT環境の効果は慨して、ICTの特徴のみならず、学習プロセスや成果をモニタリングし、制御し、振り返る生徒の能力によっても大きく左右される。2)以下に述べるように、様々なICTの特徴に合わせて、メタ認知的足場づくりを修正することができる、ということである。(後略)」

(OECD教育研究革新センター『メタ認知の教育学』明石書店2015、
217-218頁)

  つまり,ICTの効果は,活用に際して働くメタ認知の在り方に深く関係するのだとする考え方です。よって,そのようなメタ認知が育まれるためには,盲目的な利用に陥らないように学習活動への配慮をする必要があるということなのです。

 分かりやすい学力向上を示すのであれば,読書やICT活用よりも,ひたすらドリル練習でも繰り返せば結果を示すのは簡単です。しかし,ドリルを解くようなやり方ではこの時代の問題に対応できなくなっているというのが,そもそもの話の発端だとするならば,読書やICT活用をどのように運用すれば課題解決に結びつけられるのか,その能力こそ求められていると理解してもらう必要があるのだと思います。

 「メタ認知」や「自己調整学習」といった言葉は,専門領域では少々過剰摂取されすぎた感も無きにしもあらずですが,そろそろ一般社会における議論において理解してもらうべき段階に来た言葉なのかも知れません。

 今回の文部科学省「ICTを活用した教育推進自治体応援事業(ICTを活用した学びの推進プロジェクト)」では,各自治体において,「メタ認知」の獲得について,どのように分かりやすく指標や記述を表していくのか,そのことが共通して通底する課題になっていくのではないかと私自身は思っています。

 岡山県新見市までは,徳島から電車に揺られて4時間。都合で岡山に前泊してから翌日会議で帰宅するというスケジュールでした。お出かけ前にいろいろあって大変でしたが,なんとか無事に行って帰ってきました。

GoogleアカウントとApple ID

 大学のゼミナールを立ち上げるにあたって,ゼミの情報環境を整備しています。

 職場はGoogle Apps for Educationを契約して,大学のメールシステムをGmailベースで管理しています。今年度,教職員の移行が完了したことで全学的な運用を開始したところです。

 Google Appsの提供するサービスを利活用できる状態にあるわけですが,まだ全学的な運用を開始したばかりで,メールシステムとしての利用が先行し,各種サービスを大学業務や教育・学習に有効活用するまでにはいたっていません。つまり,これからいろんな使い方を提案していける面白い時期でもあります。

 りんゼミでは,ゼミ生にiPadを活用してもらう計画のため,各自のApple ID取得を求めています。すでに私的にiPhone等を利用してApple IDを取得してあれば,それを利用してもらえばよいとします。基本的に「個人用」としてApple IDを取得してもらいます。

 すると学生は「大学のGoogleアカウント」と「個人のApple ID」2つ持つことになります。

 大学から学生個人に割り当てられているGoogleアカウントは,大学の「在籍者(または卒業生)」を前提としたもので,プライベートに使う「個人用」とは言えません。その辺で2つのアカウントに違いをつけつつ,連携運用させていこうという計画です。

 ちなみに,Androidスマートフォンを所有している人は,携帯電話契約時に個人用Googleアカウントを登録している場合もあります。これも組み合わせて考えてもよいのですが,今回は除外して考えることにします。

 ゼミ生のアカウントの使い分けイメージはこんな感じです。

用途 大学のGoogleアカウント 個人のApple ID
コミュニケーション 大学全般の連絡等に ゼミ関係の連絡に
カレンダー 大学全般・ゼミの予定共有に (個人利用,必要に応じて連携)
ファイル共有 大学関連の配布物をメインに (個人利用,必要に応じて連携)
サービス Googleのサービスやアプリの利用に iPadアプリやApple系サービスの利用に
他社サービス登録用 大学関係の活動に使うもののに 社会人になってからも使うものに

 GoogleやApple以外のサービスやアプリでメールアドレス登録の必要なものもありますが,大学やゼミでの活動に使用するものであれば大学のGoogleアカウント(のメールアドレス)で登録することにして,卒業後に社会人になってからも使いそうなものには個人のApple ID(のメールアドレス)で登録させるといった使い分けになると思います。

 一方,ゼミ自体で代表アカウントを作って,ファイルや情報を共有・保管したり,代表メールアドレスとして使用できれば便利です。

 GoogleとAppleの両方にアカウントをつくる場合,どちらでもメールアドレスを作れることになりますが,2つも代表アドレスは必要ないですし,管理も面倒です。そこでどちらか一方でメールアドレスを作成して,それをもう一方の登録に使用する方法をとります。

 本来なら大学のGoogleアカウントでゼミ代表アドレスが作れると,ドメイン的にもそれっぽいですし,Googleクラスルームというサービスが利用できるメリットも受けられます。一方で,大学の管理下に置かれて外部との連携や共有で融通が利かない面もあったりしますから,一長一短。今回は,Apple IDでメールアドレスを取得後,そのメールアドレスを使ってGoogleの一般アカウントとして登録することにします(つまり,今回の方法はGmailを使わないということになります)。

 ちなみに「大学のGoogleアカウント」と一般の「個人Googleアカウント」の違いは,Google Apps for EducationのWebサイトに以下のような説明があります。

個人アカウントとの違い

 大学のアカウントは,組織利用向けにセキュリティ機能が強化されているため,容易に外部との情報共有が起こらないよう作られていて安心ですが,一方で,社会や他校といった学外との情報共有をしたい場合には面倒がつきまといます。ただし,これらは設定次第ですので,教育機関の情報ポリシーをどう策定し,管理していくかはそれぞれの組織によって異なりますし,管理者によっていくらでも調整が可能です。

 ゼミのアカウントは次のようなことに使います。

ゼミアカウントの用途
代表メールアドレス 共有ドライブ 共有カレンダー 例示用アカウント
アプリ購入 共有デバイスの管理 外部サービス登録

 当初は教員が管理しますが,ゼミが軌道に乗ったら,ゼミ長の学生に管理者を任せたりできるかなと思います。例示用アカウントというのは授業でアカウントの利用事例を見せるときのダミーアカウントみたいな役目です。もっともこれは別に作った方がよい場合もあります。

 以上,ゼミナールを運営していくにあたって,どのようにGoogleアカウントとApple IDを登録し利用するのか,おおよそのイメージをご紹介しました。

 今回は大学のゼミナールでのお話ですが,小さな研究グループやサークル,団体用のアカウントをつくる際にも考えなければならないことだと思います。Googleアカウントの利便性が高いので,基本的にはそれだけ取得しても十分役立ちますが,たとえば共用するiPadなどのAppleデバイスがあるような場合だとApple IDの位置づけをどうしても考えなければならないと思います。

 また,外部サービスや個別のアプリを利用する場合にもアカウントの問題は避けて通れません。そうしたものの登録や運用をどうするのか。今後は,そうした個別具体的なお話もお伝えします。

Raspberry Pi 公式Touchscreen Display

 夏の出張中,研究室にRaspberry Pi公式タッチスクリーン・ディスプレイが届きました。

 Raspberry Pi(ラズベリー・パイ)は教育向けに作られたカードサイズのコンピュータ基盤です。必要な周辺機器を自分で調達する必要があり,使い古しで余っている周辺機器を持っている場合には,それらを流用して安価にコンピュータ環境を用意できるというメリットがあります。そうした特徴が教育向けであることと相まって注目されているコンピュータです。

 ただ,逆に言えば周辺機器を持っていない人は新規購入する必要があるわけで,私はRaspberry Piのためのディスプレイがなかなか確保できず困っていたところ,公式の7インチ・タッチスクリーン・ディスプレイ登場のニュースを聞いたので,入手することにした次第です。タッチスクリーンも気になりますし。

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 しかし,最初はネット上の説明通りに組み立て,パソコン上でSDカードにNOOBSという起動ソフトを入れて「まっさら」から始めようとしたのですが,電源を入れても画面は「まっくろ」。

 ブート用のSDカード作成に問題があるのだろうかと何度もパソコンを変えやり直しても結果は同じ。組み立てに問題があったのだろうかとバラしては組み立て,またバラしてはやり直しても結果は同じ。

 最初に作業をしていた場所にはHDMI対応のディスプレイがなかったので,点滅しているランプからRaspberry Pi側は起動しているだろうと見当をつけながら,まったく反応が見えないタッチスクリーン・ディスプレイの方が不調なのではないかと推測してやり直し作業を続けていましたが埒が明かない。

 「あ〜ん,送ってきた箱も印刷されていない真っ白のものだし,急いで生産した中の不良品にあたったのかぁ〜,あ〜,悔しいっ!」と半ば諦めて,自宅に持って帰ってもう1台のRaspberry PiでSDカード起動し直すことにしました。

 HDMI対応ディスプレイに接続したRaspberry Piの上で「まっさら」起動して基本OSインストール作業を完了。

 その作業完了したSDカードを,今度はタッチスクリーン・ディスプレイとして組み立てたRaspberry Piの方に指して起動。どうせ壊れて何も映らないだろうと思っていたら,いきなり画面が光り出して起動画面が表示されるではないですか。

 「え〜,まっさらで始めようとしたのがまずかったのかぁ!壊れてなくてよかったぁ!」

 そんなわけで,公式タッチスクリーン・ディスプレイがようやく動作しています。

 新たにタッチスクリーン・ディスプレイでRaspberry Piを使い始める場合には,まず他のディスプレイでOSのインストール作業を完了させてからタッチスクリーン・ディスプレイで起動するという手順が必要のようです。

 あてがうディスプレイがないからタッチスクリーン・ディスプレイを導入しようとしているのに,その準備のためにはまず他のディスプレイが必要というのが,私にとっての落とし穴でした。

 さらにこの後,以下のコマンドでアップデートします。

$ sudo apt-get update
$ sudo apt-get upgrade

 そうしたら,今度はタッチスクリーン・ディスプレイの表示が上下ひっくり返ってしまい,また問題発生。これはどうやら既知の現象のようで,/boot/config.txtファイルに「lcd_rotate=2」と書き足して再起動すると直ります。

 これで準備完了です。

 なお,公式タッチスクリーン・ディスプレイは日本でもRSコンポーネンツが販売しています(Raspberry Pi 7″ Touch Screen LCDの販売ページ)。世界的にも注目されて,生産が追いつかない状態のようです。