生成から助力へ

昨年(2022)の11月30日付けでOpenAI社がChatGPTを公開しました。

そのOpenAI社は2023年11月6日付けのDevDayイベントでGPTs(Assistants)を発表し、11月9日には課金ユーザー全員が使えるようになりました。GPT-4も相次ぐ新機能で細分化していた状態をシンプルにまとめなおして公開されました。

いよいよ生成から助力へとコマを進めようとしているようです。

ChatGPTについてあらためて…

それまで背後技術として議論されていたAI技術を、接面技術としてチャット形式で見せたことで話題をさらったのがChatGPTでした。多種多様なAI技術の中の一つである自然言語処理をスターダムに押し上げたわけです。

もちろん技術的可能性については数年前から理解されていましたし、チャット形式は他にも試みがあったわけですが、様々な状況とタイミングがChatGPTに味方したことで、2023年の注目株となりました。大規模言語モデル(LLM)なんて専門用語が一般メディアで飛び交うようにもなりました。

2023年3月14日には訓練データとパラメーターをさらに大規模化したGPT-4を発表。内部的には視覚情報との関連性も学習しているといった高性能ぶりに世間は色めきだったのでした。(ちなみに視覚認識機能は9月25日にGPT-4Vとして公開されました。)

学習した情報の範囲でムリクリにでも応答するChatGPTに対して、他社は検索機能や参照元明示機能などを付加したチャットAIを提供。Googleもドタバタしながら追いつこうとしていたのも2023年のことです。

そんな他社の動きは我関せず、GPT-4の公開からさして間を置かずChatGPT Pluginがリリースされ、GPTのエコシステム形成プロセスはどんどん進んでいきました。

実際には、チャット形式のサービスであるChatGPTとは別に、開発用のサービスであるAPIというものがあり、このAPIという窓口を通して他社がGPTを利用してサービス開発できるようになっています。

これが様々な応用を拡げていく原動力となり、OpenAI社(とそれをバックアップしているMicrosoft社)が大躍進したということです。

2023年11月6日のDevDayイベントは、約1年前にChatGPTをリリースしてから動きつづけていたOpenAIによる公式イベントということもあり、これまでの集大成と今後への展望が詰まったものとなりました。

ChatGPTは再整理されて、あらたに自分自身でAIアシスタントを作成できるGPTsサービスが追加されました。これまで提供されたAPIサービスを使ってプログラミングをしないとオリジナルのAIチャットを作成できませんでしたが、GPTsによって手軽にオリジナルGPTが作成できるようになったのです。

これまでは、たくさんの知識のもとで文章生成ができるという射程範囲で提供されていたサービスを、ああでもないこうでもないと目的に合致するようにプロンプト(指示文)を工夫して使ってきたわけです。利用する際にそれを強いられてきたといってもよいです。

これからは、あらかじめ目的に添うように調整されたカスタマイズGPTを作成(これは作成者が苦労することになりますが…)しておき、公開することができます。利用する際は調整済のカスタマイズGPTに普通に問いかけるだけで、目的に添うように文章生成して応答してくれるというわけです。

つまり、助力してくれる(アシスタントな)AIとして用意し、使い始められることを狙っています。

現時点ではGPTsを作成するにも利用するにも有料のChatGPT Plusサービスに登録しなければなりません。

年内にはGPTストアを開設して、作成されたカスタマイズGPTを販売できるように展開していくようです。こうした試みを通して新しい応用アイデアを見つけていくことになるでしょう。

とはいえ、大規模言語モデルによる推論作業をブンブンと回すのに必要な計算処理リソース(コンピュータ)にかかるエネルギーは、得られる結果に対して余りに膨大で、正直なところリーズナブルとは言えません。

OpenAIのリソースも、GPTs発表後の11月8日頃には想定以上の利用量によってサーバーの負荷がハンパ無い状態になった模様。しばらくサービスが落ちる事態を招いています。復旧後もずいぶんのろのろ動作です。

今のところ発表直後のフィーバーもあり、直に膨大にトラフィックも落ち着いていくとは思いますが、こうしたシステムが環境的にも経済的にも持続的なものなのかはまだわからないといったところです。

そんなこと言いながら、りん研究室もご多分に漏れずGPTsでカスタマイズしたGPTを作成してみました。

教育と情報の歴史研究をゆるゆると進めているので、年表関連の情報は蓄積しいます。これをもとに「日本の教育と情報の歴史GPT」(HEI GPT)を作成してみました。

巨大な年表テーブルを作成しているだけのエクセルファイルですが、これをアップロードするだけでGPTが解析してくれるわけです。いまのところ「どんな歴史項目があるか?」的な質問をするくらいが関の山だとは思いますが、もっと丁寧につくっておけば、GPTがいろいろ解説してくれるようにできるかなと思います。

りん研究室も地味ぃ〜にAI利用研究を続けていきます。

無償のAI

昨年は教育データについて考えていたかと思ったら、今年はAIについて賑やかとなっている。もちろん2つの話題は地続きなのだが、ChatGPTに端を発した「生成AI」の話題は前者を覆い隠してしまう勢いだ。

りん研究室のブログは、当初の熱狂以降、比較的AIの話題が少なかったと思う。

GIGAスクール界隈のメジャープレイヤー達が早々にこのテーマを扱うようになり、テンプレート的な情報発信があふれ出したので、私は大人しく情報収集に徹していたためである。

ちなみに教育データの利活用については、水面下でxAPIの日本プロファイル作成の作業がされているとかいないとか。注目を集めないうちに隠れてやっちゃう方が圧倒的に楽なので、私たちが知らないところでつくったものが年度末にひょっこり公表される…というパターンなのかなと思う。

AIと教育について誰かが語っていることなどを読みたいと思ったらnoteへ行くといい。

たくさんのユーザーが思い思いのアプローチで教育とAIについて発信している。

世界ではUNESCO(ユネスコ)が教育とAIについての議論の場を提供しており、さまざまな文書を公表しているが、それらの話題を取り上げたり、日本語試訳を公開する場となっているのもnoteであることが多い。

法政大学の坂本旬先生が「教育・研究における生成AIガイダンス」(2023)を試訳されている。

この他、大学にお勤めの森木銀河さんもすでに試訳を公開している。

また他の文書は、元ベネッセコーポレーション社員で現在は防災教育アドバイザーの河合琢也さんが「AIと教育に関する北京コンセンサス」(2019)の試訳と「AIと教育:政策立案者のためのガイダンス」(2021)の読み込みをしている。

UNESCO文書はこのほかに「AI倫理に関するユネスコ勧告」(2021)を坂本旬先生が試訳している。

UNESCO文書は公式翻訳の言語候補に日本語が無いのでどうしてもこうしたボランタリーな翻訳に頼る形になりやすい。もっとも最近は機械翻訳もずいぶん使い勝手がよくなってきたので、日本語の粗訳を手にすること自体は難しくなくなった。残る問題は読解できるかということだろう。

2023年7月に文部科学省が公表した「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」は、日本語で書いてあっても、全体を理解することが難しい。

この暫定的ガイドラインも、夏休み前公表という締切あり業務だったこともあり、中央教育審議会初等中等教育分科会デジタル学習基盤特別委員会委員で議論されるかと思ったら全部水面下で意見照会されて、「これだけの有識者にヒヤリングしました」と分かりやすくエクスキューズした文書なので、生暖かく見てあげるしかない。

これまたnoteを探せば、エデュテクノロジー社の阪上吉宏さんがガイドライン解説をしてくれている。

文部科学省はすでに「令和5年度 リーディングDXスクール事業 生成AIパイロット校」を募集し、38自治体53校の内定を発表している。

従来だったら早くても翌年度に事業が始まるくらいがせいぜいだったのに、年度内でこうした情報取りまとめや事業推進をしてしまうスピード感は、もちろん担当官僚の方々の努力があってなせる技だが、それ以上に生成AIのもたらしたインパクトが世界規模で、政治の世界においても重要トピックスになった風向きのおかげにほかならない。

AIに関する国際的な議論は2016年から本格的に始動していたし、2023年5月はG7広島サミットが開催されるタイミングだったこともあり、「G7広島首脳コミュニケ」の中で

我々は、関係閣僚に対し、生成AIに関する議論を年内に行うために、包摂的な方法で、OECD及びGPAIと協力しつつ、G7の作業部会を通じた、広島AIプロセスを創設するよう指示する。

G7広島首脳コミュニケ

と声明を発表した。暫定的ガイドラインもちゃんとそれに従ってるっぽいことが書いてある。そのわりには世界の動向がどうなっているのかとか、UNESCOの議論のことは先生たちに伝えるのを忘れちゃっている。

その辺は2023年9月中に「生成AIの利用に関するオンライン研修会」がオンライン上で実施されたので、それらを参考にして欲しいといったところかも知れない。

他にも研修向け動画が用意されている。

教育に生成AIを利活用するにはどうすればいいのか。

この素朴な疑問に応えるための講演や研修が花盛りである。

20230320 学校でAIを活用、ChatGPT学習セミナー3/29(ReseEd)
20230614 教育現場での生成AI活用考える 武雄市で教職員対象に研修会(佐賀新聞)
20230616 ライフイズテック、先生のための生成AI研修プログラム「TECH for TEACHERS CAMP 2023」を開催(PR TIMES)
20230619 先生が生成AIを学び体験できる研修プログラム、8月15日から17日まで開催(こどもとIT)
20230626 ChatGPTなど生成AIを教育現場はどう活用すべきか識者が講演(教育とICT)
20230724 教員向けセミナー「AIを活用した国語科教育」8/5(ReseEd)
20230804 生成AIの教育利用と情報活用能力の育成に関するオンラインセミナー、8月4日開催(サイバーフェリックス)
20230809 「生成AI」管理職が校務活用~春日井市立出川小学校・高森台中学校(教育家庭新聞)
20230816 AIの協奏的利⽤の可能性を探る…IDE大学セミナー9/29(ReseEd)
20230828 生成AI 教育現場での活用法考える 初の研修会:山梨(NHKニュース)
20230902 授業の未来をデザインする 〜 Google Jamboard × 生成AIでCo-creation講座!(peatix)
20230905 対話型生成AIの教育活用 ~生成AIの情報整理能力を活かす(教育家庭新聞)
20230907 Adobe Fireflyで生成AIを体験!”クリエイティブ”でつながる先生コミュニティ(こどもとIT)
20230908 マイクロソフト、生成AI「Bing Chat」の教育利用について説明会を実施(こどもとIT)
20230911 生成AIと日本のプログラミング教育について語るオンラインセミナー、10月1日開催(こどもとIT)
20230913 教職員ら対象「生成AIとこれからの教育現場」9/29(ReseEd)
20230914 生成AI 学校現場でどう活用(山梨日日新聞)
20230920 ニュークリエイター・オルグ、昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校の教員向け生成AI研修プログラムを実施(EdTechZine)
20230922 【9月22日】eラーニングテクノロジの最先端、教育への「AI適用」の基礎とChatGPTの可能性~中級編 LEVEL200~(デジタル・ナレッジ)
20230929 【ビジネス・ブレークスルー、無料公開セミナー開催】学校の未来戦略!生成AIと英語教育の未来(PR TIMES)
20231003 都立学校で生成AI活用に向け教員向け研修会、「情報科」以外での活用が肝(日経xTECH)
20231005 生成AIと教育現場の未来 キーワードは「話し愛・助け愛・深め愛」【教職大学院】(早稲田ウィークリー)
20231007 教育現場にもじわり拡がる生成AI活用:山田祥平のRe:config.sys(PC Watch)
20231007 言語超越時代の知的生産と学校の革新:先生が2023年内で問うべき "生成AI" 3つのアジェンダとは?(peatix)
20231009 生成AIステップアップコース 〜 教育界の新スキル: プロンプトエンジニアリング with ChatGPT & Google Bard 〜(peatix)
20231011 【受講者満足度97%】学校向けオーダーメイド「生成AI活用研修・増強版」を株式会社みんがくがリリース(PR TIMES)
20231012 ライフイズテック、教員対象の校務生成AI活用研修を神戸山手女子中学校高等学校にて開催(PR TIMES)
20231013 【教員向けオンラインセミナー】 AI(chat GPT)を活用して 生徒の思考(自考力)を高める授業実践とは ~進路編~(peatix)
20231016 「坊っちゃん」の感想文、生成AIに書かせたら 活用法探る学校現場(朝日新聞)
20231016 GPTでオンライン学習教材の自動生成…WS 10/29(ReseEd)
20231019 生成系AIの普及で、探究学習の必要性はますます高まる(ダイヤモンド・オンライン)
20231019 ミカサ商事、教職員向けオンラインセミナー「授業での実用的AI活用!」21日開催(ICT教育ニュース)
20231019 2023年9月27日 全学FD講演会「AI時代の新たな学びについて考える」を開催(愛知教育大学)
20231020 【10月20日】eラーニングテクノロジの最先端、教育への「AI適用」の基礎とChatGPTの可能性~初級編 LEVEL100~(デジタル・ナレッジ)
20231028 生成AIの教育利用 ステップアップコース:教育におけるカリキュラムマネジメントと生成AIの統合(peatix)
20231118 東京学芸大学附属小金井小学校 ICT×インクルーシブ教育セミナーvol.6(東京学芸大学附属小金井小学校)
20231209 東京学芸大学 附属学校情報教育部 2023年度 公開セミナー「GIGAスクール構想とデジタル・シティズンシップの現在と未来」(peatix)

当然ながら網羅的なリストではなく、考えなしに検索してもこれだけ引っかかるという程度のリストである。中身については確認していないし、まして推薦などしていない。(正直うんざりしてるから生成AIの話題を書きたい気分が失せてしまう)

確かに私も、雑誌の特集「「ChatGPT」校務時間の縮減アイデア!―ぐっと身近になったAIを使いたおす」に記事を書いた。ご依頼があってご要望にお応えするため捻り出した原稿だったが、お読みいただければ分かる通り、私は現時点で生成AIの校務利用についてわりと自制的に書いたつもりである。

AIに対する私の心証は悪い。

それは主にFacebookに対する不信感と重なったものであることは以前にも書いた。そのせいもあって、生成AIの技術的なインパクトに関しては興味津々であるものの、それを利用した教育は可能性爆上がりで御花畑って話にはどうしても乗れない。

AIに関するリスクについては、それを語るべき専門家がたくさんいるので、単純に繰り返すようなことはしたいと思わない。でも受け止めたことを語るためには、私なりの語り方を準備しないといけないかなと思って日々情報収集して考えている。それはたぶん時間を遡って流れを追うことなのかなと思っている。

来月は2023年11月で、ChatGPT登場後一年というタイミングがやってくる。

ハネムーン時期がいつまで続くのかは分からないけれど、いつかは無償の愛の日々が終わり、有償のAIを買い支える平凡な日々の繰り返しになるのかも知れない。

AIの選択肢

京都で日本教育工学会JSETの秋大会が行われているので、久し振りに対面参加しました。

秋大会の基調講演やシンポジウムは生成AIに関係したテーマでした。

生成AIと教育との関係もさることながら、AIそのものについてELSI(Ethical, Legal and Social Issues:倫理的・法的・社会的課題)の観点から考えることが重要であるというのが昨今。世界的にもAIに対する規制をどうするかが法という形で具体化されている段階です。

今回の基調講演やシンポジウムは、そういう動向自体を学会や世間とまず共有しなければならないという問題意識、あるいは段階のものだったのかなと思います。

私も今年に入って真正面から技術的にも原理的にも、あるいは教育的にも取り組み始めたわけですが、正直言えば、「AI好きじゃない人」ポジションの人間なので、「おまえ実のところ何者だ!」的な苛立ち半分が取り組み始みの原動力でした。

私がなぜAI好きじゃない人なのかというと、主にFacebookのせいです。

Facebookがタイムラインに表示する投稿を積極的に制御していることは周知の事実ですが、あの制御に使われている分類AIあるいは選別AIに苛立ちが募り、他の事案も重なって、私は自分の投稿を全て引き上げて連絡・見るだけ用に撤退したのです。

Facebookのタイムライン制御AIに文句はタラタラなのですが、要するに投稿が実際に表示される範囲やタイミングが他者と異なることで、極端に言えば村八分的な感覚を抱かせる時が多々起こるからです。それは逆に言えば、自分自身が他者に対してそうしている可能性をも否定できない。そのことについて投稿者側にまったく権限が存在しないということのAIの選択にやられっぱなし感が苛立ちを連れてくるのです。

これをELSIの問題として扱うべきかどうかは、他にそういう苛立ちを感じている人がいるのかどうかにも拠りますし、「そんなの「いいね」を積極的に連打して関係を制御すれば済む話じゃない?」とたしなめられればそれまでのことかもしれないし、よくわかりませんが、とにかく私はこの分類AIが好きでなかった。

それがAIが好きじゃない人である出発点です。

ただ、ここ数年の生成AIは興味深かった。

何よりChatGPTが日本語をはじめとした多国語を流暢に操るということが衝撃だった。

分類AIが好きじゃない私も生成AIは興味津々で取り組み始めたわけです。

春からの大学の講義に試しに取り入れることを考えて、これはとにかくAIとの応答を軸にした関わり方で触れさせていくことが大事だなと思い「訊いて応えて」というネーミングでAIチャットを体験する課題をやってみたこともありました。(それをちゃんとアンケートとって後期にやってみよう!と思ったら、残念ながら一身上の都合でそれが叶わなくなっちゃいましたが…)

けれども、生成AIを学校教育に導入するとなると、そう簡単な話ではないというのは時間が経ってくるとみんなが段々分かってきたようで、文部科学省が提示した暫定ガイドラインも総花的な書き方で、駄目とは言わないが慎重にやってみようというものになったのはご存知の通り。

というわけで、ここらでELSIという観点でしっかり議論していきたいねということが「今ここ」ということになるのだと思います。

シンポジウムの議論は様々な方向に広がっていたようにも思いますが、最後の方では選択肢を狭めないためにも、いろんなルールや方向性が作られている場にもっと利用者が関わっていくことの重要性が語られていたように思います。

それは学会の場もそうですし、たぶん暫定ガイドラインの更新作業はもっとオープンな形でされるべきだということでもあると思いますし、もっとあちこちでAI談義や雑談が盛り上がって共有されていくのが良いのだと思います。

AIの選択肢が人間の選択肢を狭めないためには、人間が選択肢を広げる努力を怠らないことが必要になる。そのためにはやはり私たちの弛まぬ議論の共有が必要なのだろう。シンポジウムが示唆していたのはそういうことじゃないかなと、あたまコックリコックリしていた私は思うのです。

教育機関と言語AI

各大学の反応

上智大学 20230327

東北大学 20230331

立命館大学 20230331

東京大学 20230403

群馬大学 20230413

島根大学 20230414

大阪大学 20230417

山形大学 20230418

東京工業大学 20230420

岡山大学 20230421

学習院大学 20230424

長崎大学20230425

東京工科大学 20230426

神戸大学 20230427

教育関係ニュース

AIに「訊いて応えて」ワーク

今年度、大学で担当している「教育の方法及び技術(情報通信技術の活用含む)」は、教育と情報・ICTに関する内容を主軸に据えて始まりました。

そして、このタイミングならChatGPTなどのAIチャットを導入しない手はないので、毎回の講義の中でAIチャットを前提とした課題を設けることにしたわけです。

課題名は「訊いて応えて」。

AIやネットに「訊いて」みて、得られた結果について学生本人の意見やコメントで「応えて」いく、という枠組みの連続課題です。

教職を目指している大学生たちがAIチャットを未体験なままに百出している議論を眺めるのではなく、自分たちで使いながらAIのいま現在を見極められるようにしようという趣旨です。

利用環境面

初回、パソコン教室で46名の受講者が一斉にChatGPTにサインアップやログインを試みたところトラブりました。

初回は何人かの学生がこの制限を受けたものの、次週は大丈夫だろうと高を括った2回目もログインすらできない学生が続出。

緊急避難的にChatGPTからPerplexity AIに逃そうとしたものの、しばらくするとそちらも利用のリミットに引っかかって、またお手上げ状態でした。

第3回も失敗すると学生の興味関心が極端に薄れてしまう懸念があったため、chatbot-uiをどこかのサーバーに独自に立ち上げて、そこを避難所にする対策をしました。

課題内容面

これまでの「訊いて応えて」ワークは以下の通り。

〈01〉教科書のキーワードを訊いて応えて
〈02〉ニュース記事の数値整理を訊いて応えて
〈03〉対象の比較を箇条書きで訊いて応えて

〈01〉は教科書に掲載されているキーワードから3つほど選んで、AIチャットに訊いてみて、自身のコメントで応える課題でした。

パソコン操作を思い出してもらうことや、ワークの取り組み方を説明するため、課題内容自体は月並みなキーワード調べものです。提出ワークシートはGoogleドキュメントで配布したシートなので、実質作業はコピペ。

それでも、学生達の画面には、「クラスルーム」「授業専用Web資料」「ワークのGoogleドキュメント」「AIチャット」という4種類のウインドウが最低限表示されることになり、これに課題内容によって指定されたリソースがプラスされると、慣れてない学生にとって操作は難解レベルに突入します。

初めのうちは、その状態に慣れてもらうことも織り込んで課題について支援していきます。

ChatGPTなどからのコピペは、単純コピペだとちょっとグレイがかった背景も一緒にペーストされるので、初めのうちはそれを許容しつつ、次第に書式なしペーストなども使えるようになって欲しいという方針です。

それから、自身のコメントで応えていく部分についても、初めは言葉少なですし、賢い学生はAIの出力をそこに貼り付けるといったことも起きますが、そういう取り組みは評価が高くないことも強調して伝えます。結果的にこちらが騙されるレベルに達しているなら、まぁそれはそれでよしとします。

〈02〉はニュース記事を使った課題で、文章で紹介された統計数値を表形式にするタスクです。

ちょうど徳島県の人口について紹介したコンパクトなNHKニュースが配信されていたので、この文章をAIチャットに渡して、表形式に変換して見せてくれたら、AIの威力についても感じてもらえるのではないかと思って設定しました。

題材順序として「表形式への変換」は早過ぎでは?とも思いましたが、よい素材と遭遇しましたし、コピペ・テクニックを垣間見せる意味でも、悪くない課題だと判断しました。

導入のプロンプトとして

次の文章の中の数値を表形式に整理してください:

と入力してもらい、あとは数値が含まれている部分のニュース記事をコピペするだけ。記事をもとにした表が出力される様子を目撃することになります。

しかし、多人数でやっていることで、同じ質問文を入れて同じコピペをしたのに、出力される表の形式が違っていたりすることも見えてくるわけです。さらに、出来上がってくる表も正確性が怪しい。

こうして、AIチャットが常に同じ動作をするわけではないことや、正解を生成するものでもないことを体験して理解していくことになるわけです。最終的には人間の確認も必要だと。

そうした各自が遭遇した事態に応じて、学生自身のコメントを書いてもらうことで課題が完結します。

また、表のコピペも、貼り付けた先でセルの高さが異様に大きいことや背景の色などの諸々を修正していくことが必要になり、細かな修正作業のコツを身につけたり、あるいは表計算アプリ経由でスマートにやる方法へと辿り着く学生がいたりと、多様なパスを支援していく感じになります。

〈03〉では、ここまでバタバタと取り組んできたものを一旦立ち止まって振りかえることに注力するため、課題内容自体は、対象の比較を箇条書きにまとめさせたものへ自身のコメントを加えるものにしました。

訊いてコピペして応えていく単純作業。

ただし、「箇条書き」という指定をすることで、どんな出力がなされるのか知って欲しいということ。比較の箇条書きが比較対象個別に出てきたり、比較して分かることをまとめて箇条書きしてくれたり、箇条書きの個数が多すぎたり、といろいろであることを体験し、必要に応じて再回答を指定したり、箇条書きの個数を絞ったりするなど追加の依頼ができるようになることを期待しています。

実際の授業では、前回の表のコピペが思いの外難しかったようなので、そちらを丁寧にフォローすることに時間が割かれました。そのため箇条書きの文章コピペという今回の課題分量は良かったようです。

学生達も、作業段取りについてようやく理解が深まったようで、学生コメントからも今回は自信を持って取り組めた様子が伝わってきました。

また、単にコピペ作業に終わるわけではなく、AIチャットに訊いたことを自身のコメントで応える作業を通して、AIチャットの出力に自分では届かない側面からの視点があって勉強になったという場面もあったようです。作業的な負荷がある程度落ち着けば、課題内容にフォーカスして吟味したり考えたりする余裕が生まれるということなのでしょう。


こんな形でまだ3回しかやっていませんが、AIチャット利用を前提とした「訊いて応えて」ワークを進めているところです。

ワーク課題の作成については自転車操業的にやっているので、この時点でご披露できる将来計画のようなものは残念ながらありませんが、教職志望者がメインの授業ですから、問題作成側の用途に関わるネタも当然入ってくるのかなとは思っています。

今回の授業の技術的条件整備などのお話は、あらためて別のところに書いてみようかと思います。