20141106 韓国教育学術情報院(KERIS)訪問

 韓国には「韓国教育学術情報院」(Korea Education and Research Information Service:KERIS)という組織があります。院長のメッセージによると…

 「1999年に設立されたKERISは、初中教育の情報化と学術および高等教育の情報化、教育行財政情報、教育学術情報の基準・品質管理と情報セキュリティ、教育情報化政策の策定支援や研究、グローバル協力を通じて、韓国の教育の発展のために貢献しています。

 代表的なものとして、初中教育情報サービスのエデュネット(EDUNET)、学術研究情報サービスのRISS(Research Information Sharing Service)、高等教育教授学習教材の共同利用サービスのKOCW(Korea Open CourseWare)、教育行政情報システムのナイス(NEIS:National Education Information System)、地方教育行財政統合システムであるエデュファイン(edufine:Education finance e-system)などの教育・学術情報サービスを国民に提供しています。」

 というように組織紹介されています。つまり「教育と情報」に関わる事柄を管轄する国の組織です。現時点で,これにあたる組織は日本に存在していません。

 教育情報化に関する取り組みにおいて,KERISのような専任の国家機関の必要性が論じられます。

 本来であれば地方自治体単位で情報化の取り組みが遂行され、それらがネットワークを組んで全体が形成される方がこの分野らしい展開の仕方ではあります。しかし,現実には地方によって財政事情や政策優先順が異なり,他と繋がるための十分な情報基盤が構築できないところも少なくないため,地域格差が生まれています。

 教育情報化の格差が,教育の格差を是正することなく助長しつつあるともいえます。

 そのような事態を回避するためには,全国的な視野で教育情報化を支援していく組織が必要であると考える立場も世界中にはあるのです。

 KERISは,お手本ともいえる組織であり,日本の関係者の多くが注目している組織です。

 私もいつかは訪れてみたいと思っていました。

KERIS

 もともとKERISはソウル市内にありました。

 しかし,韓国はソウルへの一極集中を解消するため,政府や行政組織を地方都市へと移しており、KERISもソウルから大邱という都市に移されました。

 というわけで,今回の韓国出張に合わせて,大邱に建てられた新しいKERISビルに行ってみることにしました。幸い今回の出張はのKERISに勤められている方からの依頼でもあったので,その方の職場訪問という形でビルの中にもお邪魔できました。

KERIS Gate KERIS Lobby

  KERISには未来の教室のモデルルームがあって,新しいビルにも用意されているので短い時間ではありましたが拝見させていただきました。(写真の公開はご遠慮くださいとのことでしたので,外側の看板だけ…)

KERIS room

 KERISビルには,オフィスだけでなく様々なサービスを支えるサーバー設備も備わっており,韓国全体の教育情報プラットフォームの要的存在です。

 韓国の場合,教育情報プラットフォーム提供は国家サービスの一つとして位置づけられているので,KERISという組織も恒常的な組織として設置されているわけです。

 ただし世界にはいろいろなやり方があり,たとえば英国にはかつてBECTA(British Educational Communications and Technology Agency)という組織があり,教育の情報化推進に大きく貢献しました。しかし,情報化が一定程度達成化されたことや政治的な状況変化とも関わって,BECTAという組織は解消されていまはありません。

 日本にも,高等教育に限定的な組織として始まったメディア教育開発センター(NIME:National Institute of Multimedia Education)という組織があり,そこが全般的な教育の情報化に関する取り組みを推進しようとしていた時期がありました。しかし,残念ながら本格的な取り組みをする前に独立法人組織見直しの波の中で解体されてしまいました。

 日本の教育の情報化の進捗が停滞気味であるのは,地方主権という政治的な流れの中で,国による環境整備事業を通した補助金行政が次々に否定され,地方のことは地方が自前でという格差の生まれやすい状況に社会が変わってしまったこと。それと相まって国全体を支援するという組織を国が持つことも難しくなった時代に突入したことも遠因としてあると思います。

 日本にKERISのような組織を作れば何でも解決するというわけではありませんが,そのような立ち位置で全体を俯瞰し,展望を示していくことは重要だと思います。

 短時間ではありましたが,KERISのオフィスでコーヒー飲みながらおしゃべりできたのは楽しかったです。

20141105 世宗特別自治市ハンソル小学校

 2014年11月5日に韓国・世宗特別自治市にあるハンソル初等学校(한솔초등학교)に訪問し,授業参観を指せてもらいました。

 当日は保護者参観と同時に「デジタル教科書研究学校運営報告会」としても公開されていたようで,大変賑やかな学校の視察となりました。

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  デジタル教科書研究のモデル校ですし,世宗特別自治市はかつて遷都予定地であったということから多くの政府組織が移転していることもあって,比較的環境のよい先導的な学校だと理解するのが自然のようです。

 教室環境は,液晶ディスプレイ式の電子黒板が教室前方の中央に設置され,これにホワイトボードをスライドさせて収納できるようです(ほとんどの教室で開けっ放しで電子黒板を使っていましたが)。先生の机は電子教卓となっており,映像を映し出す機器は普通教室に常設済みというのは,もう何年も前からよく知られた姿です。

 児童側にはサムスン社製のAndroidタブレット端末が用意されており,当然授業ごとに1人1台活用からグループに1台など,利用形態が異なります。もちろん今回は使っていないというクラスもありました。

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 写真のクラスは5年生で,「未来の自分の姿を示して発表しましょう」という活動のようでした。ホワイトボードの手順を見ると「例示データの発見」「発表資料の作成」「発表」という手順で進めていたようです。

 電子黒板を見て分かるように,ポラリスオフィスを使って各自スライド作成して,それをクラスティングと呼ばれる教育用SNSにアップロードする作業が行なわれていました。児童たちはいつもの作業とばかりに各自で黙々と作業をしていて,操作に困ったりする様子は皆無でした。

 その他のクラスや学年もデジタル教科書の提示や閲覧,調べ学習の情報検索,クラウド上のマインドマップ作業などにタブレット端末を活用していました。 

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 ちなみに3年生の教室では,タブレット端末にハードウェアキーボードを組み合わせて利用していたのですが,他のクラスはほとんどがソフトウェアキーボードで済ませていました。韓国の場合,入力するのはハングル文字になりますが,そのテンキー入力方式を利用しているのも印象的でした。(iPadの韓国語標準キーボードにはこのタイプの方式は装備されていません。)

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  滞在時には思いつかなかった疑問ですが,韓国の場合の手書き(筆記)に対する認識がどのようなものであるのか気になります。日常生活や仕事の場面でもほとんどハングル文字で通用してしまう世界ではキーボード入力の効率性は絶大のように思われますが,それに対して筆記による学習効果(記憶定着)といった議論がどの程度取り上げられるのか。次の機会に聞いてみたいと思いました。

 学校全体の教育活動の様子は目新しさに満ちているというより,日本の元気な小学校のそれとほとんど変わらないと思います。教授学習活動が児童の身になっているのかどうかを判断するには語学力がなかったので雰囲気だけを見るしかありませんが,ICT活用がずば抜けて効果を発揮しているということは無いように思います。当日は親御さんも来ている授業参観の授業でしたから,ここから日頃の授業の営みを推し量るのはちょっと難しいかなというのが正直なところです。

 とはいえ,設備の常設化や全学年を通してICT機器の活用をデザインしていける環境にあるというのは,やはりそれなりに意味があることで,ごくごく普通に利用している状況に到達しているということは,それなりの積み重ねがあって初めて成り立っているということをあらためて感じることができた視察でした。

 最後に確認ですが,このハンソル小学校はモデル校の一つですので,他の韓国の小学校では事情が違うことを念頭に置いておかなければなりません。 

20141104-05 東アジア教員養成国際シンポジウム

 2014年11月4日と5日,韓国・大田(Daejeon)のホテルを会場に「第9回東アジア教員養成国際シンポジウム」が行なわれました。
 このシンポジウムは,日本と中国と韓国の教員養成大学を中心に設立されたコンソーシアムによって催されているもので,毎年各国持ち回りで開催されているようです。

 今年は韓国が担当国となってテーマを「SMART Education and Teacher Education in Digital Era.」(デジタル時代のスマート教育と教師教育)というテーマで開催されることもあって,何か発表しませんかとお声掛けいただいたことで参加となりました。

 とはいえ,7年ぶりの海外出張と英語による発表。しかも初めてのシンポジウムなので,オーディエンスがよく分からないまま,当日に至るまで準備期間は長かったはずですが,不安ばかりが募っていました。

 結果的には15分程度,日本の教育の情報化動向とモデル校におけるICT活用事例のご紹介をしてお役目を果たしたところですが,もう少し全体趣旨が理解できていれば良かったなと反省しています。

 写真はKERISの曺さんに撮っていただいた1枚。たまたま日本語のパンフレットを見せていたタイミングです。あとは日本の現状を英語を付したグラフや写真で紹介していました。

 教員養成というのは日本的な発想だとかなりドメスティックな,つまり国内限定的な営みのように思われます。それが東アジアで国際コンソーシアムを立ち上げるというのは何故なのか。

 東京学芸大学に設けられているコンソーシアムのホームページによれば,グローバル時代において教員養成大学や大学院の世界も国際化に対応できる環境整備が課題であり,そのような問題意識のもと隣国である東アジアの国々と連携していくことになったようです。

 確かに,歴史教育における様々な議論に代表されるように,他国との歴史的な関係を始め,文化的なものの理解についても十分とは言えない現状は,海外と簡単に情報交換や往き来ができるようになった今日において好ましいとはいえません。

 教員養成の段階において,少しでも国際的な関係を紡いでおくことは,むしろ積極的に取り組むべきことだといえます。また教員養成に関わる研究についても国際的な共同研究が展開することが期待されます。これらがひいては学校における海を越えた交流学習等といった教育の営みとして現れるはずです。

 今回のシンポジウムでは,日本語対応スタッフが3人いらっしゃいました。その3人ともにとてもお世話になりましたが,うち2人は韓国教員大学に交換留学生として来ている学生さんでした。

 彼女たちは1年間の留学期間で滞在しているので,何年も滞在しているわけでは無いのですが,現地のスタッフの皆さんとちゃんとコミュニケートしながら参加者のサポートをしてくださいました。こうした若い皆さんによる海外交流が未来をつくってくれるのだと思うと応援したい気持ちが強まります。

 また,もう1人の日本語対応スタッフの方は,日本に留学経験のある韓国女性で,こうした催事のサポートやコーディネートの仕事をしているようです。その方にもいろいろ気にかけていただいて,とても安心してシンポジウムに参加できました。