音声講義の収録環境

4月16日(木)に緊急事態宣言対象が全国に広げられました。

5月6日までを期間として措置が行なわれ,地域によって対応が異なるものの,公立学校の多くが休校となって,関係者が対応に追われています。

一部では,5月6日以降も事態好転は困難ではないかと予想し,休校継続の場合の在り方さえ,本格的に検討されています。これは普段からの危機管理対応体制の準備が如実に表れているため,基礎自治体によって本当に様々なようです。

私が住む徳島県は,検査による感染判明者数がゼロ(判明していた3人の感染者は回復し陰性判定済み)であるため,状況として幸いな反面,意識としての危機感や恐怖感は高まり,人に対する猜疑心でギスギスしているようです。

このような中で,私の勤務校も明日(4/20)からWebで授業開始です。

ニュースでもオンライン授業の取り組みが様々紹介されています。

テレワーク(Work from Home)での利用事例が多い事もあってか,教育分野でもZoomというビデオ会議システムを利用する試みも目立ちますし,動画教材を撮影・制作してYouTube等で配信する例もあるようです。

私も普段から授業で利用しているGoogle Classroomに動画を掲載して,オンライン授業に対応すればいいかなという程度の考えでいました。

私個人の性格もあって,環境づくりをしながら今後の作業構想を練るという段取りが得意なので,まずは手持ちの機材を確認し,どう組み合わせれば目的を達成できるのか試行錯誤を始める事にしました。

そうすると,動画収録環境を構築するという道のり途中で,音声収録環境の整備さえすれば目標達成できる部分も見つかったりします。講話中心の授業であれば,ラジオ講座のような方式でOKなのです。

すでに「ポッドキャスト」や「インターネットラジオ」の試みはしていましたので,そういうものにコンテンツを載せれば出来上がりです。

さて,音声収録環境です。

iPhone等のスマートフォンは,音声・映像処理部品の塊みたいなものなので,パソコンの下手なマイクやカメラに比べれば,はるかに性能の良いマイクとカメラで音声と映像を収録する事が可能です。

講義の音声ファイルをもっとも簡易に収録したいなら,スマートフォンと適切なアプリを組み合わせれば実現可能です。

お望みであればiPhoneアクセサリとして外部オーディオ機材を組み合わせればさらにグレードアップできます。

iPhoneアクセサリ(Apple Online Store)
https://www.apple.com/jp/shop/iphone/iphone-accessories/creativity

とはいえ,編集等の作業をするなど,パソコンで収録環境を構築したい場合があります。

今回は次のようなパソコンと機材で収録環境を構築しました。

○コンピュータ
Mac(macOS端末)
https://www.apple.com/jp/mac/
○ソフトウェア
Hindenburg Journalist(ポッドキャスト/インタビュー編集ソフト)
https://hindenburg.com/products/hindenburg-journalist
○オーディオインターフェイス
Audient evo4
http://www.allaccess.co.jp/audient/evo4/
○マイク
Shure SM58(ダイナミックマイク)
https://www.shure.com/ja-JP/products/microphones/sm58

追加の機材を導入するだけの価値があるかといわれると,これは収録した音声を聴く人の価値観によって答えが変わってくるかも知れませんが,私個人としては少しでも収録成果が良くなる事を目指しました。

iPhoneで収録した音声
macと追加機材で収録した音声

どちらも同じ環境の中で,口元とマイクの距離も似たような距離で収録し,違い過ぎてはいけないので,ノーマライゼーションという最大音量を揃える処理だけ施した結果です。

iPhoneもずいぶんクリアに収録していますが,ホワイトノイズと呼ばれるものも気付けばかなり聞こえていることが分かります。

macの方は,そもそもセッティングとしてマイク感度に合わせたレベル調整を施しているという事もあり,ホワイトノイズ系の音は抑えられていると思います。

もし長時間聴くようなことになれば,このあたりが「聴き疲れ」に関わってくるのではないかと思います。

オーディオ編集ソフト「Hindenburg Journalist」は,Apple社GarageBandをポッドキャストやインタビュー向けに洗練したようなソフトウェア。

有償ですが,音声コンテンツを扱いたい人には都合のよい機能も多く搭載しているので,関心がある人は試してみてください。

オーディオインターフェイス「evo4」を選んだのは,ダイナミックマイクのShure SM58を使いたいという希望が先行した結果です。別の候補としては「ZOOM UAC-2」という製品もありました。

実はオーディオインターフェイスには,もっと安価で手軽なものもたくさんあります。たとえば「ZOOM U-22」はコンパクトで安価なオーディオインターフェイスの一つです。それで十分な場合も確かにあります。

ただ,使うマイクによっては「マイク感度」が弱く,オーディオインターフェイスに補える性能やパワーがあるかどうかによってスペックが違ってくるわけです。安価なものの場合は試してみるまで十分かどうかが分からないということもあります。

そこで,それなりの性能を持ったオーディオインターフェイスを用意する事で,様々な特性のマイクに対応できるようにしておきたいという事がありました。上を目指すと値段にキリはありませんが…。

あるいはミキサーにオーディオインターフェイスが内蔵されたものもあります。その場合,ミキサーの性能次第ではマイク感度を様々に補える可能性があります。これもいろいろあるので確かめてみないといけないのは変わりません。

さて,マイクはShure社のSM58という定番マイクを使用しています。

マイクには,ダイナミックマイクとコンデンサーマイクの2種類に大別されるということは知られていますが,SM58はダイナミックマイク。電源が不要で感度が低いのです。

なぜ感度が低いダイナミックマイクを使うのか。

それは感度が良いと雑音を拾い過ぎるので,それを避けたいためです。

コンデンサーマイクは,電源必要ですが,その代わり感度が高いため,微妙な音を収録する際にはとても役立ちます。プロがそれなりの環境で使えば効果が発揮されるというわけです。

しかし,自宅も職場も実はあまり静粛な環境とはいえない,という一般ユーザーにとっては,感度が高いコンデンサーマイクよりも,感度が低いダイナミックマイクの方が扱いやすい事になります。(ケースバイケースですが…)

先ほどの音声サンプルでiPhoneとmacでの収録の違いをお聴きいただきましたが,まさにあれがコンデンサーマイクとダイナミックマイクの違いであると考えてもらってよいと思います。

というわけで,私の音声収録環境について雑にご紹介しました。

自宅と研究室とでは,収録環境が全く異なるため,実は機材構成もかなり異なるのですが,上記は比較的シンプルな構成をご紹介した次第です。

私の研究室は音声収録にとっては劣悪な環境で,普通に過ごしていても通電音のようなものがずっと鳴り響いていて,最初の数年は気が変になりそうになりましたが,最近は気にしない事ができるようになりました。(それでも聴いている事には変わりないので,それで疲れるんでしょうね)

人間なら気にしない事もできますが,音声収録となると話は別ですので,いろんなノイズリダクションやキャンセリングの技術を使って,なんとか聞き苦しくない音声を収録しようとしています。

とはいえ本来,音声を加工するのはご法度行為。

作品を創るという世界なら別ですが,ありのままの音をありのままに収録するというのが音響収録世界の本来の在り方ですし,そのためにそもそもの収録環境を整えるとか,機材を洗練するとか,聴きやすさの追及も原音をいかに崩さず調整できるかとか,そういう努力が積み重ねられてきた世界なわけです。

普段私たちが聞いている「いい音」は,そうしたプロの仕事のおかげで聴きやすく,疲れにくく,気持ちよく聴けるわけですが,それを自分たちでいざやってみようとすると,なかなか大変なんだという事が分かります。

それだけでなく,コンテンツとしての「音声」自体も重要です。

生まれ持った声も様々だと思いますが,少しでも聴きやすさを向上させるテクニックというものはあると思いますので,そうしたことにも意識したいなと思います。私にとっては一番頭が痛い部分ですが。