無償のAI

昨年は教育データについて考えていたかと思ったら、今年はAIについて賑やかとなっている。もちろん2つの話題は地続きなのだが、ChatGPTに端を発した「生成AI」の話題は前者を覆い隠してしまう勢いだ。

りん研究室のブログは、当初の熱狂以降、比較的AIの話題が少なかったと思う。

GIGAスクール界隈のメジャープレイヤー達が早々にこのテーマを扱うようになり、テンプレート的な情報発信があふれ出したので、私は大人しく情報収集に徹していたためである。

ちなみに教育データの利活用については、水面下でxAPIの日本プロファイル作成の作業がされているとかいないとか。注目を集めないうちに隠れてやっちゃう方が圧倒的に楽なので、私たちが知らないところでつくったものが年度末にひょっこり公表される…というパターンなのかなと思う。

AIと教育について誰かが語っていることなどを読みたいと思ったらnoteへ行くといい。

たくさんのユーザーが思い思いのアプローチで教育とAIについて発信している。

世界ではUNESCO(ユネスコ)が教育とAIについての議論の場を提供しており、さまざまな文書を公表しているが、それらの話題を取り上げたり、日本語試訳を公開する場となっているのもnoteであることが多い。

法政大学の坂本旬先生が「教育・研究における生成AIガイダンス」(2023)を試訳されている。

この他、大学にお勤めの森木銀河さんもすでに試訳を公開している。

〈追記〉削除依頼を頂きましたので一部削除しました〈/追記〉

UNESCO文書はこのほかに「AI倫理に関するユネスコ勧告」(2021)を坂本旬先生が試訳している。

UNESCO文書は公式翻訳の言語候補に日本語が無いのでどうしてもこうしたボランタリーな翻訳に頼る形になりやすい。もっとも最近は機械翻訳もずいぶん使い勝手がよくなってきたので、日本語の粗訳を手にすること自体は難しくなくなった。残る問題は読解できるかということだろう。

2023年7月に文部科学省が公表した「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」は、日本語で書いてあっても、全体を理解することが難しい。

この暫定的ガイドラインも、夏休み前公表という締切あり業務だったこともあり、中央教育審議会初等中等教育分科会デジタル学習基盤特別委員会委員で議論されるかと思ったら全部水面下で意見照会されて、「これだけの有識者にヒヤリングしました」と分かりやすくエクスキューズした文書なので、生暖かく見てあげるしかない。

これまたnoteを探せば、エデュテクノロジー社の阪上吉宏さんがガイドライン解説をしてくれている。

文部科学省はすでに「令和5年度 リーディングDXスクール事業 生成AIパイロット校」を募集し、38自治体53校の内定を発表している。

従来だったら早くても翌年度に事業が始まるくらいがせいぜいだったのに、年度内でこうした情報取りまとめや事業推進をしてしまうスピード感は、もちろん担当官僚の方々の努力があってなせる技だが、それ以上に生成AIのもたらしたインパクトが世界規模で、政治の世界においても重要トピックスになった風向きのおかげにほかならない。

AIに関する国際的な議論は2016年から本格的に始動していたし、2023年5月はG7広島サミットが開催されるタイミングだったこともあり、「G7広島首脳コミュニケ」の中で

我々は、関係閣僚に対し、生成AIに関する議論を年内に行うために、包摂的な方法で、OECD及びGPAIと協力しつつ、G7の作業部会を通じた、広島AIプロセスを創設するよう指示する。

G7広島首脳コミュニケ

と声明を発表した。暫定的ガイドラインもちゃんとそれに従ってるっぽいことが書いてある。そのわりには世界の動向がどうなっているのかとか、UNESCOの議論のことは先生たちに伝えるのを忘れちゃっている。

その辺は2023年9月中に「生成AIの利用に関するオンライン研修会」がオンライン上で実施されたので、それらを参考にして欲しいといったところかも知れない。

他にも研修向け動画が用意されている。

教育に生成AIを利活用するにはどうすればいいのか。

この素朴な疑問に応えるための講演や研修が花盛りである。

20230320 学校でAIを活用、ChatGPT学習セミナー3/29(ReseEd)
20230614 教育現場での生成AI活用考える 武雄市で教職員対象に研修会(佐賀新聞)
20230616 ライフイズテック、先生のための生成AI研修プログラム「TECH for TEACHERS CAMP 2023」を開催(PR TIMES)
20230619 先生が生成AIを学び体験できる研修プログラム、8月15日から17日まで開催(こどもとIT)
20230626 ChatGPTなど生成AIを教育現場はどう活用すべきか識者が講演(教育とICT)
20230724 教員向けセミナー「AIを活用した国語科教育」8/5(ReseEd)
20230804 生成AIの教育利用と情報活用能力の育成に関するオンラインセミナー、8月4日開催(サイバーフェリックス)
20230809 「生成AI」管理職が校務活用~春日井市立出川小学校・高森台中学校(教育家庭新聞)
20230816 AIの協奏的利⽤の可能性を探る…IDE大学セミナー9/29(ReseEd)
20230828 生成AI 教育現場での活用法考える 初の研修会:山梨(NHKニュース)
20230902 授業の未来をデザインする 〜 Google Jamboard × 生成AIでCo-creation講座!(peatix)
20230905 対話型生成AIの教育活用 ~生成AIの情報整理能力を活かす(教育家庭新聞)
20230907 Adobe Fireflyで生成AIを体験!”クリエイティブ”でつながる先生コミュニティ(こどもとIT)
20230908 マイクロソフト、生成AI「Bing Chat」の教育利用について説明会を実施(こどもとIT)
20230911 生成AIと日本のプログラミング教育について語るオンラインセミナー、10月1日開催(こどもとIT)
20230913 教職員ら対象「生成AIとこれからの教育現場」9/29(ReseEd)
20230914 生成AI 学校現場でどう活用(山梨日日新聞)
20230920 ニュークリエイター・オルグ、昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校の教員向け生成AI研修プログラムを実施(EdTechZine)
20230922 【9月22日】eラーニングテクノロジの最先端、教育への「AI適用」の基礎とChatGPTの可能性~中級編 LEVEL200~(デジタル・ナレッジ)
20230929 【ビジネス・ブレークスルー、無料公開セミナー開催】学校の未来戦略!生成AIと英語教育の未来(PR TIMES)
20231003 都立学校で生成AI活用に向け教員向け研修会、「情報科」以外での活用が肝(日経xTECH)
20231005 生成AIと教育現場の未来 キーワードは「話し愛・助け愛・深め愛」【教職大学院】(早稲田ウィークリー)
20231007 教育現場にもじわり拡がる生成AI活用:山田祥平のRe:config.sys(PC Watch)
20231007 言語超越時代の知的生産と学校の革新:先生が2023年内で問うべき "生成AI" 3つのアジェンダとは?(peatix)
20231009 生成AIステップアップコース 〜 教育界の新スキル: プロンプトエンジニアリング with ChatGPT & Google Bard 〜(peatix)
20231011 【受講者満足度97%】学校向けオーダーメイド「生成AI活用研修・増強版」を株式会社みんがくがリリース(PR TIMES)
20231012 ライフイズテック、教員対象の校務生成AI活用研修を神戸山手女子中学校高等学校にて開催(PR TIMES)
20231013 【教員向けオンラインセミナー】 AI(chat GPT)を活用して 生徒の思考(自考力)を高める授業実践とは ~進路編~(peatix)
20231016 「坊っちゃん」の感想文、生成AIに書かせたら 活用法探る学校現場(朝日新聞)
20231016 GPTでオンライン学習教材の自動生成…WS 10/29(ReseEd)
20231019 生成系AIの普及で、探究学習の必要性はますます高まる(ダイヤモンド・オンライン)
20231019 ミカサ商事、教職員向けオンラインセミナー「授業での実用的AI活用!」21日開催(ICT教育ニュース)
20231019 2023年9月27日 全学FD講演会「AI時代の新たな学びについて考える」を開催(愛知教育大学)
20231020 【10月20日】eラーニングテクノロジの最先端、教育への「AI適用」の基礎とChatGPTの可能性~初級編 LEVEL100~(デジタル・ナレッジ)
20231028 生成AIの教育利用 ステップアップコース:教育におけるカリキュラムマネジメントと生成AIの統合(peatix)
20231118 東京学芸大学附属小金井小学校 ICT×インクルーシブ教育セミナーvol.6(東京学芸大学附属小金井小学校)
20231209 東京学芸大学 附属学校情報教育部 2023年度 公開セミナー「GIGAスクール構想とデジタル・シティズンシップの現在と未来」(peatix)

当然ながら網羅的なリストではなく、考えなしに検索してもこれだけ引っかかるという程度のリストである。中身については確認していないし、まして推薦などしていない。(正直うんざりしてるから生成AIの話題を書きたい気分が失せてしまう)

確かに私も、雑誌の特集「「ChatGPT」校務時間の縮減アイデア!―ぐっと身近になったAIを使いたおす」に記事を書いた。ご依頼があってご要望にお応えするため捻り出した原稿だったが、お読みいただければ分かる通り、私は現時点で生成AIの校務利用についてわりと自制的に書いたつもりである。

AIに対する私の心証は悪い。

それは主にFacebookに対する不信感と重なったものであることは以前にも書いた。そのせいもあって、生成AIの技術的なインパクトに関しては興味津々であるものの、それを利用した教育は可能性爆上がりで御花畑って話にはどうしても乗れない。

AIに関するリスクについては、それを語るべき専門家がたくさんいるので、単純に繰り返すようなことはしたいと思わない。でも受け止めたことを語るためには、私なりの語り方を準備しないといけないかなと思って日々情報収集して考えている。それはたぶん時間を遡って流れを追うことなのかなと思っている。

来月は2023年11月で、ChatGPT登場後一年というタイミングがやってくる。

ハネムーン時期がいつまで続くのかは分からないけれど、いつかは無償の愛の日々が終わり、有償のAIを買い支える平凡な日々の繰り返しになるのかも知れない。

徳島県立学校の学校タブレット端末問題

関連INDEX

2023年10月4日(水)に四国放送が次のようなニュースを報道しました。

今年度(2023年4月以降)に入ってから9月末時点でタブレット端末の故障台数が2859台。

昨年度の約4倍。全体台数の17%(約2割)。うち2312台はバッテリーの熱膨張。7月末から故障報告急増。

最初は「なぜこのタイミングでいまさらニュースに?」と不思議な受け止めでした。

端末不調や故障なんて、徳島の学校タブレット端末にとっては目新しい話題でもない。電波法違法状態のニュースも春にやったばかりで、その後の顛末について後追い取材も報道もしていませんでしたから、そんなに関心もないネタを、またわざわざ取り上げるなんて珍しいとさえ思えました。

ただ翌日の木曜日には続報が入り、知事が囲み取材で質問に答えている様子が放映されました。

発注経緯まで遡って検証させる…とは、いきなり腰上げてきた感じなので驚きでした。

次の日の金曜日に大学の研究室で仕事をしていたら電話。四国放送の記者から電話が入っているというので、そのまま電話取材を受けました。

すでにブログなどに書いたことを問われるままにお答えしたら、その日のうちに撮影取材をすることになり、それっぽくテレビ出演しました。ネットにはコメントのみ。

取材を受けた際に記者さんとのやりとりをしている中で、県教委から報道関係者に資料配布されていたことを知りました。

なるほど、今回のニュースは県教委発信だったようです。

想定外の故障台数の増加は、すなわち想定外の修理費の増大ということになり、県議会開催中だったこともあって、何かしら報告せざるを得なくなったという流れじゃないかと思われます

〈追記〉

県知事の活動記録を見ると、10月4日に「県立学校長との意見交換会」があったようです。

県議会開催中だからというよりも、現場の県立学校長たちからの意見として上がってくることになって、知事が直接知るところとなったようです。検証を指示することになったのも、その流れとしてなら自然です。

〈/追記〉

翌週はNHK徳島も追っかけ報道しました。10月10日(火)のニュース。

もちろん四国放送も

さらに10月13日(金)には会議や知事定例記者会見などがあったことなどが報じられました。

知事の定例記者会見はYouTubeでも公開されています。

緊急対策会議も開催されたようです。

専門家も入れて検証するらしいですから、鳴教大か、徳大か、四国大からどなたかが参加するでしょう。


「徳島の学校タブレット端末」という表現をしてしまっているため誤解を生むかも知れません。

○小中学校 → 県内の市町村が入札実施したもの(共同調達はアジア合同会社が落札)
○高等学校 → 徳島県が入札実施したもの(四電工が落札)

今回の報道で問題視されているのは「県立学校」(高等学校)が導入したタブレット端末に関する問題が取り上げられています。

このブログでは徳島県内の市町村が共同調達した小中学校の学校タブレット端末についてメインで触れていましたので、(両者に共通の電波法違反状態問題があったりと)細かなところがゴッチャになってしまっているかも知れません。

たとえば、この2件は、どちらもCHUWI社のタブレット端末を導入したという点で共通していますが、細かい点で言えば機種は異なります(小中学校はHi10X、高等学校はUBook)。

また、落札業者が異なりますし、予算補助の枠組みも異なります。契約内容も異なるはずです。

この辺は、検証チームがしっかり調査して報告をまとめてくれると思いますので、期待して待つことにしましょう。私たちとしては、分かっていることについてはゴッチャにしないように気をつけておくことです。

それから、思い出していただきたいのは、あの当時、世界的に半導体不足が叫ばれており、コロナ禍に襲われて在宅リモートワークによる端末需要の高まりで、情報端末の確保は競争状態でした。

日本全国の自治体が同時期に学校タブレット端末やパソコンを調達しようとしたわけで、そこでも競走が発生していたということになります。

徳島県はどちらかといえば出遅れグループでしたから、その入札に参加する事業者を集めること自体が困難な状況だったのです。名の知られたブランドの端末を確保することも絶望的な状況です。

〈追記〉

一社入札になってしまった経緯は報告書などで明らかにされると思いますが、参加予定だった事業者は他にもあったという話も聞きました。

〈/追記〉

それでもGIGAスクール構想の実現をするため整備しなければならないというお尻の火がついていたために、いろんな人々の努力や思惑の末に行きついたところが中国メーカーの端末だった…ではないかなと思います。

先行した小中学校の端末入札がそういう感じだったので、後発の高等学校の入札もそれに近いものがあるか、さらに厳しい状況の中で、お願いお願いが飛び交って展開したのではないかなと…あくまで推測ですが、いろいろと複雑な事情があったのではないかと思うのです。

それもこれもちゃんと検証チームが報告してくれたらスッキリするのになと思います。

古本コネクション

事情あって徳島と愛知を行ったり来たりしている。

仕事はノートパソコンとタブレットがあればできるといえばできるが、先達達のように移動中に原稿を書くなんて芸当はできないし、そもそも文献資料を山積みにして執筆するスタイルなので、場所を行ったり来たりする状況で原稿を書くのは難儀する。

一、二冊の文献資料を携えて移動するのは当たり前で、四、五冊もざらである。

最近はなるべく電子書籍版を購入するようにしているが、積み上げられないし、取っ換え引っ換えも難しいので、重要なものは印刷書籍の購入も必要になる。

今回は執筆していたテーマの文献をダンボールでまとめて行き先に送って執筆をしていた。

そうやって書いたものが、そうせずに書いたものと大差がないという現実はあるかも知れない。どうせ書いても忘れられるような原稿なのだとしたら、どうして骨折り損な条件で書かれなければならないのか。功利的に考えたら反論が難しい。生成AIで壁打ちがイイネと勢いよく言われると気が滅入る私は全く持って守旧派なんだろう。

蔵書整理は目下頭痛のタネだが、裏腹に蔵書増強も進行中である。

教育と情報の歴史を追いかけるというのがライフワークなので、この分野の蔵書としてはかなりの量が揃っていると思う。研究室はちょっとした図書館か古書店のようだ。

収集活動の実際は多様で、文献リストを辿る方法で入手していく方法もあれば、偶然の出会いで手に入れるものもある。その分野の定番と言われるものを押さえにいくこともする。

たとえば『改訂新版 コンピュータの名著・古典 100冊』はコンピュータ分野の古き定番を知るのに便利だ。

2003年に刊行され、2006年に改訂された文献ガイドなので、これ自体が20年も前の代物。紹介されている名著・古典は、当時ですでに在庫なしや絶版ものがあったほど。この20年間に改訂したものもあれば、さらに多くが在庫なしか絶版した。出版社が消えたものもある。20年間で他に読むべきものも出てきた。

あらためてリストにして現況を調べてみると、100数冊の中で39冊が何かしらの形で現行商品として入手できるという状況だった。その他は古本としてAmazonから入手することが可能だ。ただし、ものによっては高額なので覚悟が必要だ。自分が関与しそうにない技術分野や言語の本なら、よほどの理由がない限り入手する必要もないだろう。

とにかく分野の古典を揃えようと古書の入手に取りかかるとしても、単純にAmazonのマーケットプレイス出店者から購入すればいいというわけでもない。

古本は、出店者ごとに価格が異なっていることがあるし、それはご存知「コンディション」(商品状態)と密接な関連がある。

購入側としてはなるべく状態の良い商品を入手したいというのが本音である。だからといってコンディション表示が「非常に良い」ものは価格が吊り上がっている場合もあり、簡単には手出しができない。

コンディション表示が「良い」ものあたりの価格が妥当であれば、そのあたりを中心に、出店者が複数ならどれを選ぶか悩むことになる。記述によってはコンディション表示「可」のものの方が選択肢になることもある。

しかし、古本入手を試みた経験がある人なら、Amazonでの古本購入は次善策にしている人も多いだろう。

今日、古本入手の主戦場はメルカリである。

個人が所蔵されていて、何かの理由で手放さざるを得なくなった文献が出品されることがある。出品者によっては、売値がリーズナブルなことも多い。また個人所蔵された書籍は保存状態が驚くほど良いこともある。

希望する文献がいつでも出品されているわけではないし、タイミングが悪いと数日前に売れたばかりだったとか、買おうと思っていて気づいたら売れてしまっていたなど、特有な状況になれる必要もあるが、使いこなせれば有力な古本入手手段となり得る。

万人の近所に必ずあるわけではないのが、昔ながらの古書店やブックオフなどを渉猟して入手するのも大事な手段だと思う。

ただ、Amazonやメルカリといったネット系古物商が多勢を占めるようになり、店舗系古物商に品物が出回らなくなっているかもしれない。特に専門書のようなものならメルカリで直接売買した方が利益も出やすいとなれば、店舗の品揃えにも影響は出そうだ。

原稿執筆も一段落ついたので、もうちょっと気楽にじっくりと読書したい。

AIの選択肢

京都で日本教育工学会JSETの秋大会が行われているので、久し振りに対面参加しました。

秋大会の基調講演やシンポジウムは生成AIに関係したテーマでした。

生成AIと教育との関係もさることながら、AIそのものについてELSI(Ethical, Legal and Social Issues:倫理的・法的・社会的課題)の観点から考えることが重要であるというのが昨今。世界的にもAIに対する規制をどうするかが法という形で具体化されている段階です。

今回の基調講演やシンポジウムは、そういう動向自体を学会や世間とまず共有しなければならないという問題意識、あるいは段階のものだったのかなと思います。

私も今年に入って真正面から技術的にも原理的にも、あるいは教育的にも取り組み始めたわけですが、正直言えば、「AI好きじゃない人」ポジションの人間なので、「おまえ実のところ何者だ!」的な苛立ち半分が取り組み始みの原動力でした。

私がなぜAI好きじゃない人なのかというと、主にFacebookのせいです。

Facebookがタイムラインに表示する投稿を積極的に制御していることは周知の事実ですが、あの制御に使われている分類AIあるいは選別AIに苛立ちが募り、他の事案も重なって、私は自分の投稿を全て引き上げて連絡・見るだけ用に撤退したのです。

Facebookのタイムライン制御AIに文句はタラタラなのですが、要するに投稿が実際に表示される範囲やタイミングが他者と異なることで、極端に言えば村八分的な感覚を抱かせる時が多々起こるからです。それは逆に言えば、自分自身が他者に対してそうしている可能性をも否定できない。そのことについて投稿者側にまったく権限が存在しないということのAIの選択にやられっぱなし感が苛立ちを連れてくるのです。

これをELSIの問題として扱うべきかどうかは、他にそういう苛立ちを感じている人がいるのかどうかにも拠りますし、「そんなの「いいね」を積極的に連打して関係を制御すれば済む話じゃない?」とたしなめられればそれまでのことかもしれないし、よくわかりませんが、とにかく私はこの分類AIが好きでなかった。

それがAIが好きじゃない人である出発点です。

ただ、ここ数年の生成AIは興味深かった。

何よりChatGPTが日本語をはじめとした多国語を流暢に操るということが衝撃だった。

分類AIが好きじゃない私も生成AIは興味津々で取り組み始めたわけです。

春からの大学の講義に試しに取り入れることを考えて、これはとにかくAIとの応答を軸にした関わり方で触れさせていくことが大事だなと思い「訊いて応えて」というネーミングでAIチャットを体験する課題をやってみたこともありました。(それをちゃんとアンケートとって後期にやってみよう!と思ったら、残念ながら一身上の都合でそれが叶わなくなっちゃいましたが…)

けれども、生成AIを学校教育に導入するとなると、そう簡単な話ではないというのは時間が経ってくるとみんなが段々分かってきたようで、文部科学省が提示した暫定ガイドラインも総花的な書き方で、駄目とは言わないが慎重にやってみようというものになったのはご存知の通り。

というわけで、ここらでELSIという観点でしっかり議論していきたいねということが「今ここ」ということになるのだと思います。

シンポジウムの議論は様々な方向に広がっていたようにも思いますが、最後の方では選択肢を狭めないためにも、いろんなルールや方向性が作られている場にもっと利用者が関わっていくことの重要性が語られていたように思います。

それは学会の場もそうですし、たぶん暫定ガイドラインの更新作業はもっとオープンな形でされるべきだということでもあると思いますし、もっとあちこちでAI談義や雑談が盛り上がって共有されていくのが良いのだと思います。

AIの選択肢が人間の選択肢を狭めないためには、人間が選択肢を広げる努力を怠らないことが必要になる。そのためにはやはり私たちの弛まぬ議論の共有が必要なのだろう。シンポジウムが示唆していたのはそういうことじゃないかなと、あたまコックリコックリしていた私は思うのです。

National AV 誌

立派な見識があってというよりも、なんとなくの理由で「雑誌」が好きです。

といっても学術雑誌ではなく、幼い頃から触れている市販雑誌の類いが好きだということになります。

過去のことを調べる手段として古い雑誌を閲覧しに行ったり、場合によっては売買を通して入手することもしています。最近はメルカリやヤフオクなどの古物売買手段も一般的になり、貴重な文献資料を入手する機会が得られることも多くなりました。

つい最近も古いパソコン雑誌を買い集めていました。

その過程で、視聴覚教育関係の雑誌として出品されていたのが「National AV」誌でした。

たぶん初めて知る雑誌なので、これはぜひ入手してみたいと入札。幸い他の入札者もおらず、すんなりと落札できました。

National AV誌は、当時の松下電器産業株式会社の特機営業本部から発行されていた季刊情報誌で、市販されていたものではなく、全国のショールームや学校教育機関に配布されていたものだと考えられます。

書誌情報をもとめて検索。CiNiiの情報などから1973年に創刊した雑誌であることが推測されます。

国立国会図書館サーチによれば、1991年(NO.73)まで発行されていたことは分かりますが、正確な休刊時期については情報がありません。

いずれにしても1973年から1991年くらいまで18年間は発行されていたというのは、教育をターゲットにした企業提供情報誌としては長生きの部類だったと思います。

インターネットが到来する前ですから、こうした雑誌が当時の大事な情報交換の場だったのでしょう。編集部の取材記事や読者の声欄だけでなく「AVラウンジ」と名付けられた投稿コーナーに全国の学校の先生方から論考や報告が寄せられていたようです。

こうして後世から振り返らせていただくと、ある程度限られた範囲だったのでしょうし、波もあったとは思いますが、当時の先生たちの熱心な取り組みに思いをはせることができます。

もっとも70から80年代という時代性は、こうした企業提供の情報誌が製作されるだけの勢いや余裕が日本全体にもあったことを加味すれば、学校などの現場がボトムアップができる優雅な時代だったともいえます。

「教育とともに歩む情報誌」というキャッチフレーズの付いたNational AV誌は、1986年度発行分までは松下視聴覚教育研究財団が協力をして製作されていました。その後、財団のクレジットは失われ、発行所クレジットは松下電器産業株式会社の「特機営業本部」から「情報システム営業本部」に変更されました。

実際の制作は(株)ビデオ出版という会社が担当していたようですが、検索をすると現在はインテルフィンという編集出版社につらなっているようです。残念ながらNational AV誌に携わったかなどの情報はまったく確認できていないため、あるいは別の会社なのかも知れません。

松下視聴覚教育研究財団は、現在のパナソニック教育財団につらなっていますが、こちらも公益財団法人になる前の記録はほとんど残されておらず、National AV誌のことを遡って調べることすらできません。

所蔵図書館も少なく、すべての号を所蔵しているわけではないとすると、全国の視聴覚教育施設で保管されているものか、何かの理由で講読をしていた方々の所有しているものを確保しなければ、この雑誌も散逸してしまう可能性があるということになります。

ただ、インターネット後のWeb記録に比べれば、こうしてモノとして存在する分、紙雑誌の方が記録として残るときに強い面もあるかなと思います。そのおかげでこうして後世の人間が入手する機会を得られるというわけですから。そして雑誌であるがゆえに、その当時の読者の声や広告など、付随する情報も合わせて触れることができるというのもメリットかなと思います。