無償のAI

昨年は教育データについて考えていたかと思ったら、今年はAIについて賑やかとなっている。もちろん2つの話題は地続きなのだが、ChatGPTに端を発した「生成AI」の話題は前者を覆い隠してしまう勢いだ。

りん研究室のブログは、当初の熱狂以降、比較的AIの話題が少なかったと思う。

GIGAスクール界隈のメジャープレイヤー達が早々にこのテーマを扱うようになり、テンプレート的な情報発信があふれ出したので、私は大人しく情報収集に徹していたためである。

ちなみに教育データの利活用については、水面下でxAPIの日本プロファイル作成の作業がされているとかいないとか。注目を集めないうちに隠れてやっちゃう方が圧倒的に楽なので、私たちが知らないところでつくったものが年度末にひょっこり公表される…というパターンなのかなと思う。

AIと教育について誰かが語っていることなどを読みたいと思ったらnoteへ行くといい。

たくさんのユーザーが思い思いのアプローチで教育とAIについて発信している。

世界ではUNESCO(ユネスコ)が教育とAIについての議論の場を提供しており、さまざまな文書を公表しているが、それらの話題を取り上げたり、日本語試訳を公開する場となっているのもnoteであることが多い。

法政大学の坂本旬先生が「教育・研究における生成AIガイダンス」(2023)を試訳されている。

この他、大学にお勤めの森木銀河さんもすでに試訳を公開している。

また他の文書は、元ベネッセコーポレーション社員で現在は防災教育アドバイザーの河合琢也さんが「AIと教育に関する北京コンセンサス」(2019)の試訳と「AIと教育:政策立案者のためのガイダンス」(2021)の読み込みをしている。

UNESCO文書はこのほかに「AI倫理に関するユネスコ勧告」(2021)を坂本旬先生が試訳している。

UNESCO文書は公式翻訳の言語候補に日本語が無いのでどうしてもこうしたボランタリーな翻訳に頼る形になりやすい。もっとも最近は機械翻訳もずいぶん使い勝手がよくなってきたので、日本語の粗訳を手にすること自体は難しくなくなった。残る問題は読解できるかということだろう。

2023年7月に文部科学省が公表した「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」は、日本語で書いてあっても、全体を理解することが難しい。

この暫定的ガイドラインも、夏休み前公表という締切あり業務だったこともあり、中央教育審議会初等中等教育分科会デジタル学習基盤特別委員会委員で議論されるかと思ったら全部水面下で意見照会されて、「これだけの有識者にヒヤリングしました」と分かりやすくエクスキューズした文書なので、生暖かく見てあげるしかない。

これまたnoteを探せば、エデュテクノロジー社の阪上吉宏さんがガイドライン解説をしてくれている。

文部科学省はすでに「令和5年度 リーディングDXスクール事業 生成AIパイロット校」を募集し、38自治体53校の内定を発表している。

従来だったら早くても翌年度に事業が始まるくらいがせいぜいだったのに、年度内でこうした情報取りまとめや事業推進をしてしまうスピード感は、もちろん担当官僚の方々の努力があってなせる技だが、それ以上に生成AIのもたらしたインパクトが世界規模で、政治の世界においても重要トピックスになった風向きのおかげにほかならない。

AIに関する国際的な議論は2016年から本格的に始動していたし、2023年5月はG7広島サミットが開催されるタイミングだったこともあり、「G7広島首脳コミュニケ」の中で

我々は、関係閣僚に対し、生成AIに関する議論を年内に行うために、包摂的な方法で、OECD及びGPAIと協力しつつ、G7の作業部会を通じた、広島AIプロセスを創設するよう指示する。

G7広島首脳コミュニケ

と声明を発表した。暫定的ガイドラインもちゃんとそれに従ってるっぽいことが書いてある。そのわりには世界の動向がどうなっているのかとか、UNESCOの議論のことは先生たちに伝えるのを忘れちゃっている。

その辺は2023年9月中に「生成AIの利用に関するオンライン研修会」がオンライン上で実施されたので、それらを参考にして欲しいといったところかも知れない。

他にも研修向け動画が用意されている。

教育に生成AIを利活用するにはどうすればいいのか。

この素朴な疑問に応えるための講演や研修が花盛りである。

20230320 学校でAIを活用、ChatGPT学習セミナー3/29(ReseEd)
20230614 教育現場での生成AI活用考える 武雄市で教職員対象に研修会(佐賀新聞)
20230616 ライフイズテック、先生のための生成AI研修プログラム「TECH for TEACHERS CAMP 2023」を開催(PR TIMES)
20230619 先生が生成AIを学び体験できる研修プログラム、8月15日から17日まで開催(こどもとIT)
20230626 ChatGPTなど生成AIを教育現場はどう活用すべきか識者が講演(教育とICT)
20230724 教員向けセミナー「AIを活用した国語科教育」8/5(ReseEd)
20230804 生成AIの教育利用と情報活用能力の育成に関するオンラインセミナー、8月4日開催(サイバーフェリックス)
20230809 「生成AI」管理職が校務活用~春日井市立出川小学校・高森台中学校(教育家庭新聞)
20230816 AIの協奏的利⽤の可能性を探る…IDE大学セミナー9/29(ReseEd)
20230828 生成AI 教育現場での活用法考える 初の研修会:山梨(NHKニュース)
20230902 授業の未来をデザインする 〜 Google Jamboard × 生成AIでCo-creation講座!(peatix)
20230905 対話型生成AIの教育活用 ~生成AIの情報整理能力を活かす(教育家庭新聞)
20230907 Adobe Fireflyで生成AIを体験!”クリエイティブ”でつながる先生コミュニティ(こどもとIT)
20230908 マイクロソフト、生成AI「Bing Chat」の教育利用について説明会を実施(こどもとIT)
20230911 生成AIと日本のプログラミング教育について語るオンラインセミナー、10月1日開催(こどもとIT)
20230913 教職員ら対象「生成AIとこれからの教育現場」9/29(ReseEd)
20230914 生成AI 学校現場でどう活用(山梨日日新聞)
20230920 ニュークリエイター・オルグ、昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校の教員向け生成AI研修プログラムを実施(EdTechZine)
20230922 【9月22日】eラーニングテクノロジの最先端、教育への「AI適用」の基礎とChatGPTの可能性~中級編 LEVEL200~(デジタル・ナレッジ)
20230929 【ビジネス・ブレークスルー、無料公開セミナー開催】学校の未来戦略!生成AIと英語教育の未来(PR TIMES)
20231003 都立学校で生成AI活用に向け教員向け研修会、「情報科」以外での活用が肝(日経xTECH)
20231005 生成AIと教育現場の未来 キーワードは「話し愛・助け愛・深め愛」【教職大学院】(早稲田ウィークリー)
20231007 教育現場にもじわり拡がる生成AI活用:山田祥平のRe:config.sys(PC Watch)
20231007 言語超越時代の知的生産と学校の革新:先生が2023年内で問うべき "生成AI" 3つのアジェンダとは?(peatix)
20231009 生成AIステップアップコース 〜 教育界の新スキル: プロンプトエンジニアリング with ChatGPT & Google Bard 〜(peatix)
20231011 【受講者満足度97%】学校向けオーダーメイド「生成AI活用研修・増強版」を株式会社みんがくがリリース(PR TIMES)
20231012 ライフイズテック、教員対象の校務生成AI活用研修を神戸山手女子中学校高等学校にて開催(PR TIMES)
20231013 【教員向けオンラインセミナー】 AI(chat GPT)を活用して 生徒の思考(自考力)を高める授業実践とは ~進路編~(peatix)
20231016 「坊っちゃん」の感想文、生成AIに書かせたら 活用法探る学校現場(朝日新聞)
20231016 GPTでオンライン学習教材の自動生成…WS 10/29(ReseEd)
20231019 生成系AIの普及で、探究学習の必要性はますます高まる(ダイヤモンド・オンライン)
20231019 ミカサ商事、教職員向けオンラインセミナー「授業での実用的AI活用!」21日開催(ICT教育ニュース)
20231019 2023年9月27日 全学FD講演会「AI時代の新たな学びについて考える」を開催(愛知教育大学)
20231020 【10月20日】eラーニングテクノロジの最先端、教育への「AI適用」の基礎とChatGPTの可能性~初級編 LEVEL100~(デジタル・ナレッジ)
20231028 生成AIの教育利用 ステップアップコース:教育におけるカリキュラムマネジメントと生成AIの統合(peatix)
20231118 東京学芸大学附属小金井小学校 ICT×インクルーシブ教育セミナーvol.6(東京学芸大学附属小金井小学校)
20231209 東京学芸大学 附属学校情報教育部 2023年度 公開セミナー「GIGAスクール構想とデジタル・シティズンシップの現在と未来」(peatix)

当然ながら網羅的なリストではなく、考えなしに検索してもこれだけ引っかかるという程度のリストである。中身については確認していないし、まして推薦などしていない。(正直うんざりしてるから生成AIの話題を書きたい気分が失せてしまう)

確かに私も、雑誌の特集「「ChatGPT」校務時間の縮減アイデア!―ぐっと身近になったAIを使いたおす」に記事を書いた。ご依頼があってご要望にお応えするため捻り出した原稿だったが、お読みいただければ分かる通り、私は現時点で生成AIの校務利用についてわりと自制的に書いたつもりである。

AIに対する私の心証は悪い。

それは主にFacebookに対する不信感と重なったものであることは以前にも書いた。そのせいもあって、生成AIの技術的なインパクトに関しては興味津々であるものの、それを利用した教育は可能性爆上がりで御花畑って話にはどうしても乗れない。

AIに関するリスクについては、それを語るべき専門家がたくさんいるので、単純に繰り返すようなことはしたいと思わない。でも受け止めたことを語るためには、私なりの語り方を準備しないといけないかなと思って日々情報収集して考えている。それはたぶん時間を遡って流れを追うことなのかなと思っている。

来月は2023年11月で、ChatGPT登場後一年というタイミングがやってくる。

ハネムーン時期がいつまで続くのかは分からないけれど、いつかは無償の愛の日々が終わり、有償のAIを買い支える平凡な日々の繰り返しになるのかも知れない。

AIの選択肢

京都で日本教育工学会JSETの秋大会が行われているので、久し振りに対面参加しました。

秋大会の基調講演やシンポジウムは生成AIに関係したテーマでした。

生成AIと教育との関係もさることながら、AIそのものについてELSI(Ethical, Legal and Social Issues:倫理的・法的・社会的課題)の観点から考えることが重要であるというのが昨今。世界的にもAIに対する規制をどうするかが法という形で具体化されている段階です。

今回の基調講演やシンポジウムは、そういう動向自体を学会や世間とまず共有しなければならないという問題意識、あるいは段階のものだったのかなと思います。

私も今年に入って真正面から技術的にも原理的にも、あるいは教育的にも取り組み始めたわけですが、正直言えば、「AI好きじゃない人」ポジションの人間なので、「おまえ実のところ何者だ!」的な苛立ち半分が取り組み始みの原動力でした。

私がなぜAI好きじゃない人なのかというと、主にFacebookのせいです。

Facebookがタイムラインに表示する投稿を積極的に制御していることは周知の事実ですが、あの制御に使われている分類AIあるいは選別AIに苛立ちが募り、他の事案も重なって、私は自分の投稿を全て引き上げて連絡・見るだけ用に撤退したのです。

Facebookのタイムライン制御AIに文句はタラタラなのですが、要するに投稿が実際に表示される範囲やタイミングが他者と異なることで、極端に言えば村八分的な感覚を抱かせる時が多々起こるからです。それは逆に言えば、自分自身が他者に対してそうしている可能性をも否定できない。そのことについて投稿者側にまったく権限が存在しないということのAIの選択にやられっぱなし感が苛立ちを連れてくるのです。

これをELSIの問題として扱うべきかどうかは、他にそういう苛立ちを感じている人がいるのかどうかにも拠りますし、「そんなの「いいね」を積極的に連打して関係を制御すれば済む話じゃない?」とたしなめられればそれまでのことかもしれないし、よくわかりませんが、とにかく私はこの分類AIが好きでなかった。

それがAIが好きじゃない人である出発点です。

ただ、ここ数年の生成AIは興味深かった。

何よりChatGPTが日本語をはじめとした多国語を流暢に操るということが衝撃だった。

分類AIが好きじゃない私も生成AIは興味津々で取り組み始めたわけです。

春からの大学の講義に試しに取り入れることを考えて、これはとにかくAIとの応答を軸にした関わり方で触れさせていくことが大事だなと思い「訊いて応えて」というネーミングでAIチャットを体験する課題をやってみたこともありました。(それをちゃんとアンケートとって後期にやってみよう!と思ったら、残念ながら一身上の都合でそれが叶わなくなっちゃいましたが…)

けれども、生成AIを学校教育に導入するとなると、そう簡単な話ではないというのは時間が経ってくるとみんなが段々分かってきたようで、文部科学省が提示した暫定ガイドラインも総花的な書き方で、駄目とは言わないが慎重にやってみようというものになったのはご存知の通り。

というわけで、ここらでELSIという観点でしっかり議論していきたいねということが「今ここ」ということになるのだと思います。

シンポジウムの議論は様々な方向に広がっていたようにも思いますが、最後の方では選択肢を狭めないためにも、いろんなルールや方向性が作られている場にもっと利用者が関わっていくことの重要性が語られていたように思います。

それは学会の場もそうですし、たぶん暫定ガイドラインの更新作業はもっとオープンな形でされるべきだということでもあると思いますし、もっとあちこちでAI談義や雑談が盛り上がって共有されていくのが良いのだと思います。

AIの選択肢が人間の選択肢を狭めないためには、人間が選択肢を広げる努力を怠らないことが必要になる。そのためにはやはり私たちの弛まぬ議論の共有が必要なのだろう。シンポジウムが示唆していたのはそういうことじゃないかなと、あたまコックリコックリしていた私は思うのです。

モダン・タイムス

書店の教育書棚を眺めていました。いろんな書籍が出ていましたが、この二冊が平積みで並んでもいました。

気の滅入る書籍で、買うのを躊躇っていましたが、問題理解のために読んでみることにしました。写真右の書には私学や大学のことも扱われているので、他人事でもありません。

私自身は教員養成学部で学び、周りの友人達が教員として就職していった環境にいたので、簡単ではないけれど正規教員になることがキャリアの本流ルートだと考えていた人間でした。

それがいつだったか「正規教員の採用が減り、非正規教員への依存が高まっている」ことを知ったときにはショックを受けたものの、だんだんとそれが普通だと思うようになっていました。一般社会でも非正規雇用の問題が当たり前に語られるようになっていたので、学校教育界も例外ではないと納得してたわけです。

写真左の書では、氏岡氏が2010年頃から調べ始めて、あれこれ非協力的な反応にぶつかりながら、2011年に先生欠員の一面記事を出したときのエピソードを書いています。記事への反応がほとんどなかったというのも、当時の気分を思い返すとさもありなんという感じです。

そして、とうとう正規教員の不足が顕在化したことで、慌てふためいたような対処療法があれこれ打ち出され始めていることもニュースで接するようになりました。

深刻な問題であるから、私たち一人ひとりができることを考えたいと思うわけですが、この頃の問題は、何一つとっても個人には手に余る問題ばかりだし、任せるしかないわりには肝心の人たちは悪い手筋しか打ってこないことに苛つくばかりのことが増えました。

あるいは、そういう苛立ちを抱くことがそもそも違っているのかも知れません。

書店の教育書棚を眺めていると、子連れの方が隣りにやってきました。

小学校中学年から高学年といったところでしょうか、文字を読むのが得意らしく、彼や彼女はくだんの書籍の表紙を声を出して読み上げます。

「先生が足りない…だってお母さん!」

「授業ができない」「代わりがいないから休めない」「どれだけ探しても見つからない」…

と写真左の書の帯に書かれた吹き出しの文を声を出して読んでいました。

こどもの声で発せられたそれらの言葉を、彼彼女は何を思って読んでいるだろうか…と複雑な気持ちで聞いていました。

教育データへの異常な愛情 または学校は如何にして心配するのを止めてダッシュボードを愛するようになったか

教育データの議論から追い出されてから建て込む雑事に追い立てられて過ごしています。

そういえば、こんなニュースが流れているなぁ…と。

教育データの議論には「粒度」という言葉が用いられていて、こうした身体・生体情報にもとづくデータは粒度が細かいと表現されています。

可能性の議論としては当然扱われるわけですし、実験研究としても未知のままにして放ったらかすわけにはいかないので、こういう試みが実際に執り行われて議論の材料を提供することも必要。

今は研究倫理がうるさくチェックされる時代なので、表に出てくる試みは倫理審査を通したり、被験者や関係者の同意を得たうえで実施されていると考えるのが妥当ですが、それにしても記事だけでは、そのような慎重事案であることがうまく伝わってないことが懸念されます。

それに「集中してるかどうか」を指標にすることの安易さもあちこちから指摘されている模様です。

このニュースに欠けているものがあるとすれば、ちゃんとした議論の場がどこに用意されて実際に議論が行なわれているのかを示していないことです。こんな試みもあります(ドヤ)で終わらせず、こうした試みを踏まえて誰がどのように議論していて、一般の人々もその議論をどうやったら傍聴したり把握できるのかを示していないので、「なにやら不穏なことをしている人たちがいる」というイメージしか醸成しない。

とにかく、この分野の科学コミュニケーションは下手すぎて損ばっかり生んでいます。

関連する情報をピックアップ:

それより以前からもいろいろありました。

AI技術がグッと進歩して、取得データの可視化もやりやすくなってくると、ますますダッシュボードへの期待が高まっていくようです。

教育機関と言語AI

各大学の反応

上智大学 20230327

東北大学 20230331

立命館大学 20230331

東京大学 20230403

群馬大学 20230413

島根大学 20230414

大阪大学 20230417

山形大学 20230418

東京工業大学 20230420

岡山大学 20230421

学習院大学 20230424

長崎大学20230425

東京工科大学 20230426

神戸大学 20230427

教育関係ニュース