学校でのパソコンとの出会い方

私がGIGAスクールを詳しく扱ったのも,前倒し等の大幅路線変更が決まる前までなので,最新動向は知る由もありませんが,少しずつGIGAスクール関連で導入した学習者用情報端末が届き始めているようです。

見かけたニュース記事の画像をクリッピングしておきます。

児童生徒に端末を手渡しし,基本的な操作方法やルールなどをテキパキと伝えることに追われたのかなと想像したり,配信映像を見ながら想像していました。

ところで,GIGAスクールなど教育の情報化に関して積極的な情報発信を行っている豊福先生がこんなツイートをしていることに遅まきながら気付きました。

改めて書き出すと…

① 関係者への趣旨説明を丁寧にする事
② 導入最初のセレモニー(手渡しと開封の儀の演出)をする事
③ 大切な道具にするため扱いの自由度(シール貼ったり)を許容する事
④ 教員も児童生徒もデジタル連絡帳等で毎日使う事

です。どれもよいポイントだと思います。

2011年から2014年まで実施されていたフューチャースクール推進事業/学びのイノベーション事業は,国による児童生徒1人1台情報端末の実証事業としては初めてのものでしたが,上記の①②③④はそこでも重要なポイントとして機能していたように思います。

特に「②導入最初のセレモニー(手渡しと開封の儀の演出)をする事」ということに関して,かつての実証事業の小学1年生クラスで,児童が最初に情報端末と出会う授業を見たことは,いまも印象に残っていて,こうした出会い方とその後の付き合い方をイメージさせることがとても重要かなと思います。

もちろん「ルールをまもって」が最初の入り口ではあるのですが,その際の基本原則として「ぱそこんを/じぶんも/ともだちも だいじに」することが大切なんだと,みんなで意見を出しあってたどり着く場面があるのです。その原則をまもることで,できることが広がっていくんだ…という可能性とともにパソコンが手渡されるわけです。

こうした小学1年生での情報端末との出会いは,もちろん上級学年の児童たちのパソコンとの接し方や使いこなしというロールモデルがあってのことで,ひいては学校の成員(児童生徒や教職員や関係者)すべてがよりよきユーザー,いまで言うならデジタル・シチズンとして立ち振る舞うことを目指す必要があります。

豊福先生はそれをセレモニーという言葉で指摘していますが,これは単なる形式的な儀式(セレモニー)の重要性ではなく,精神的・文化的な効果を見据えた通過儀礼(イニシエーション)の重要性をも含み込んでいると思います。

当時,私が担当研究者をしていた徳島県の実証校で作成した研究冊子に次のような図が掲載され,あちこちの発表でも紹介されました。

大枠を理解していただくための単純化されたイメージですが,制御と自律のバランスをどのように日々細かく調整していくのかという問題に取り組まなければならないということが,容易に理解できると思います。

これは教職員と児童生徒だけの問題ではなく,教育委員会とその事務局に対応の柔軟さがなければ実現しえないし,地域社会の理解と忍耐がなければ支えられないし,そのためにはこの事柄に関して私たちがオープンに議論しあい修正的に関わっていく契機が維持されなければなりません。

フューチャースクール推進事業/学びのイノベーション事業に関わったのは全国の小中学特別支援学校20校でしたが,各校で形成されたデジタル文化はそれぞれ違っていました。

時を経て技術水準も変わりましたが,GIGAスクール構想は,実質的にそれら実証事業の成果を横展開する(普及させる)ことへの一歩です。

それはあの20校20色生まれた学校のデジタル文化が3万校3万色へと膨らんでいくことを意味します。3万色は,ある意味では3万通りということでもありますが,それらはいくつかの色彩にまとめられるかもしれないし,扱いようによっては鮮やかにも,また濁りを伴うことさえあり得ます。

はたして,どんな豊かで複雑な色彩を放つのか様々ありうるとしても,私たちが最初に出会う色は,混じり気のない純粋な色からであって欲しいと,そう思うのです。

20200816 最近のHow People Learn

時間が経つのは速いものだと分かってはいるものの,気付くとあれから数年経っていたということは珍しくなくなってします。歳をとったせいですね。

学習科学の分野ではよく知られた “How People Learn“(HPL I, 邦訳『授業を変える』北大路書房)は原著が2000年に,邦訳も2002年には刊行されました。

以前の検索活動で,この新しい版であるHow People Learn II(HPL II)が取り組まれているという情報を見かけたように思ったのですが,そういえばどうなったっけと再度検索してみたところ,すでに出版済み。

この数年,『学習科学ハンドブック 第二版』邦訳の第1巻第2巻第3巻と,そのガイドブックともいえる『主体的・対話的で深い学びに導く 学習科学ガイドブック』が立て続けに刊行され,学習指導要領改訂における「メタ認知」等の知見導入もあって注目が高まっていたところです。

おそらくこうした動きに敏感な人々は,とっくの昔にHPL IIの刊行も察知して議論していただろうに,うかつな私は知らずじまい。

HPL IIの中身を覗くと,HPL Iの成果を再度検討した上で,20年分の新しい研究知見によってアップデートを試みたようです。これはこれでなかなか興味深い。

上記のリンクからFree Downloadできるので,普段から斜め読みできるようにiPadにでも入れておきたいところ。

2018年には公開されていたわけなので,HPL Iの邦訳出版タイミングを振り返ると,あるいはそろそろHPL II邦訳の声が聞こえてくる感じかも知れません。

学習科学にしても,インストラクショナルデザインにしても,これまでは学術現場における新しめの知見程度にしか思われていなかったものが,日本の教育の現場にいよいよ降りていかなくてはならない時期が来たようにも思えます。

いま,新型コロナウェルスの影響で混乱のさなかにあるため,とても新しいものを受け止めたり,取り入れたりする余裕はないという風に学校や先生達はなっているかも知れません。

ただ,一方で,何か新たに立て直す必要があるという問題意識が,稀に見る広範囲の人々を巻き込んで共有されていることも確かです。

生まれた混乱によって,今のところ,あまりにも先へ突っ走った人々と,逆にいろんな困難を抱えさせられた人々というように,立場や場所によって乖離や分断のようなものが起っています。

それは本当に大変なことで,まずはそのことに向かい合わなければならないのですが,けれども,それを経て,私たちが向かうべきものは,この時代に相応しい新しい何かを立て直すというか,打ち立てていくというか,そういうことに向かって学び合える世界なんじゃないかとは思います。

新しい道具も,そういうことに役立てられればよいなと思うのです。

20200815 最近のホライズンレポート

関わらせていただいた翻訳本の再校チェックをしていました。

すでにAmazonで予約が始まっていたりするのにビックリしますが,少しでも良いものをお届けするために最終チェックをしてました。

こうした作業のついでに調べものが脱線し,新しい洋書に目移りしたり,好奇心が導くままに今関係ないことを深掘りしたり。時間はいくらあっても足りません。そのわりにのんびり屋の私です。

ふと「ホライズンレポート(Horizon Report)」はどうなっているのだろうと思いつき,最新版がないかどうか検索しました。2020年版がありました。

ホライズンレポートは毎年,主に高等教育におけるテクノロジーのトレンドを予測する報告書を公開しているもので,短期・中期・長期的なスパンで教育とテクノロジの動向を示してきました。

ところが2020年のレポートを覗くとこれまでと様子が違う。

5つほど大きな傾向(トレンド)を示してから、注目されているテクノロジを取り上げる形になり、今後10年内に起こりうるシナリオを4タイプで示すようなつくりになっていました。

そして,高等教育版とともに作成されていたK-12版が見当たらない。

さらに掘っていくと,もともとホライズンレポートを手掛けていたNew Media Consortium(NMC)という組織が2017年に業務終了していたとのこと。その際に、ホライズンレポート含めた権利をEDUCAUSEという団体に譲渡していたのだそうです。

EDUCAUSEは高等教育のための非営利団体で,これまでNMCとともにホライズンレポートを共同作成していた経緯があったので,NMC終了後もホライズンレポートを作成し続けることになったようです。しかし,残念ながらK-12については2017年版を最後に出していないようです。

2020年版のタイトルがHigher Education Editionの代わりにTeaching and Learning Editionとなったのは,もうあえて言わなくても高等教育しかないことが浸透したという意味なのかもしれませんが,あるいは高等教育とK-12の区別なく大きなトレンドがやってきていることを意味しているのかもしれません。

ちなみに2020年版は3月に公表されたのですが,タイミング的にCOVID-19の影響については触れられていないという感じです。来年のホライズンレポートがどうなるのか,大変興味深いです。

20200808 今日の眺めた書物

先月は出張月間で,ほとんど更新できませんでした。

その代わり,久し振りに都心の書店に寄ることができたので,買いすぎに注意をしながら書籍を物色。

このところ,某国トップの傍若無人振りやそれなりの立場にある人々の不可思議な言動が目立ったことが影響してか,心理学系の新刊は,知性と行動の関係とか認知バイアスなどをテーマにした書籍が多く並んでいるように感じられました。

「バカ」の研究』(亜紀書房)は,一見するとふざけたエンタメ系の一般書かと思えますが,なにやらフランスで大まじめに刊行された書物の翻訳本。いろんな専門家によって執筆されたオムニバス構成です。

最初の方の「知性が高いバカ」という論考では「知性」について,「アルゴリズム的知性」と「合理的知性」の2種類があるという説を紹介しています。

「アルゴリズム的知性」が,物事の意味を理解して論理的に思考することができる力で,「合理的知性」の方が,現実の状況を考慮しながら目標実現のため意思決定できる力だとされます。
(実際には,この説を唱えているキース・スタノヴィッチ氏(トロント大学名誉教授)は前者を「タイプ1処理」「手段的合理性」,後者を「タイプ2処理」とか「認識的合理性」「分析的処理」という言葉を使って合理性の研究として議論しているようです。)

だとすれば,知性の高い人が「バカ」なことをするのはちっとも矛盾することじゃない…というわけです。

また,この本には,ハワード・ガードナー氏がインタビューに答える形で参加していました。私が購入したのも,ガードナー氏の部分が気になったからでした。

私たちが発達心理学者ハワード・ガードナー氏について知っているのは,『認知革命』とか『MI:個性を生かす多重知能の理論』などの書籍で,能に関する多重知能/多元知能理論であったりします。というか,そこで止まっています。

インタビューは,インターネットの影響に関するもので,多重知能にとってどうなのかという質問に対する応答もあります。ガードナー的には総合的にはデジタルメディアは多重知能にとって有益だと考えているようですが,とはいえ人間の脳というのは長い年月で進化するものだから,ここ数十年のテクノロジーの進歩にすぐ順応するようなことはなく,「デジタル脳」という考え方にも同意はしないといったことも述べています。

実のところ,このインタビューはガートナー氏が「三つの美徳」と呼んでいるものをインターネットのせいで人は失いつつあるという悲観から始まっていて手厳しい見解。(三つの美徳は本でご確認ください)

確かにこの本で検討されているいろんなかたちの「バカ」がインターネットを介して拡散されるような状況では,それに対してこちらが余程見通しのよさをもって接しないと,呑み込まれてしまうリスクが高いということかも知れません。

インテリジェンス・トラップ』(日本経済新聞出版)にもアプローチは違いつつ重複する情報は多いけれど「知性のワナ」に対することがいろいろ書かれており,同じく興味深い。

私自身も知識やインターネットなどにどっぷりつかって25年くらいにはなるので,バイアスやらトラップやら,引っかかるものには引っかかり続けているだろうわけなので,できるだけ自戒的に思考しようとは努力している。

ただ,そうはいっても,どこまでも自分のことだから,いわゆる「知性の死角」というものから逃れられるわけもない。だから他者と相互批判的だったり,互恵的である必要があるのかなとも思う。

あのとき考えていたこと

前回記事で「少しの後悔」として,文部科学省が提示している「学校におけるICTを活用した学習場面」という図について昔話を書きました。

駆け出し有識者としての力不足と,学習場面の10類型の順番に,少しばかり後悔をしているというお話です。あれから8年経って,その実力の無さは折り紙付きのものとなりましたが,あの時考えていたことを紐解くことには一定程度意味があると思います。

ワーキングチームの議論では,もちろん,いろんな見解が交わされました。

実際のところ,10分類でもまだ数が多いという指摘もありました。確かに新しい指導方法のイメージを広く浸透させるためには,もっとシンプルにすべきで,10個も類型があっては扱うのも大変です。数の多さが,前回の順番の後悔を引き起こしたのだと考えることも出来ます。

あの時の私は,フューチュースクール推進事業/学びのイノベーション事業の実証報告から上がってきた実践記録を整理する作業をしていましたが,個別事例を類型化する作業の際には,なかなか至難の業でした。

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当時のメモが残る手帳が引き出しにしまわれていたので,取り出してみました。

1人1台のタブレットPCを利活用する様々な試みを,こうやって場面に変換して,その遷移パターンを分析しながら類型を簡素化していく作業を続けていたのです。

当時の資料をブログでお見せすることは出来ませんが,10分類のA「一斉学習」にはA1以外にもA2やA3があったことはメモからも見て取れるのではないでしょうか。

結果的には削除されましたが,作業の途中で私が付与したキーワードをご紹介しておきます。学習場面を表わすキーワードです。カッコ内は今回あらためて補足的に追加しました。

  • 知る(理解)
  • 気づく(発見)
  • つながる(関係)
  • 尋ねる(疑問)
  • 解く(練習)
  • 深める(思考)
  • 試す(試行)
  • 調べる(調査)
  • つくる(制作)
  • 残す(記録)
  • 聞き合う(発表)
  • 話し合う(共有)
  • 考える(議論)
  • 生み出す(創造)
  • 表現する(構築)
  • 広げる(拡張)
  • 発信する(発信)
  • まねる・応用する(応用)

これらをもっとブラッシュアップすることで,指導方法を整理したかったわけです。その結果が,現在の10分類というわけですが,GIGAスクール構想による1人1台情報端末という時代では,こうした学習場面的な捉え方は,もう少し個々人の精神面で起っている学習現象を考える観点も加味して考えていく必要があるかも知れません。